第96話
レイジとの面談の後、フィリスは再びアサギの部屋へと向かい、みんなと話をする。とにかくアサギにはもうしばらく養生して貰い、その間に問題事を片付ける。というのも、ミカヅチ王国にはモンスターが蔓延っていたからだ。取り敢えずマティーナに王国に残って貰い、まだ体調が優れない者達の治療に専念して貰う。また、残った食糧品を使って、大量に作れるものをマリアーナに作って貰うことにした。フィリス、エンレン、ランファ、ハクアの4人については、王国近くの森、平地に行ってモンスターを狩ることに決めた。モンスターも水源の影響で食べることはおろか、素材も危ういので全てエンレンの炎で燃やす。勿体ないが、ミカヅチ王国の人々のこれからの未来のためには仕方がなかった。そうこうして一週間後、粗方モンスター退治も済んで、治療も終えて食糧の案も解決した頃、スイレン、ライファ、ミロが戻ってきた。それも何騎もの馬車を連れて。
「パパ、戻ったよ!」
元気よくミロが出迎えたフィリスに抱きつく。それを優しく受け止めて抱き締めながらフィリスは3人に話しかける。
「みんな、無事でよかった。でも、この馬車は?」
「…マーティス様からの支援です。…取り敢えずこれを。」
スイレンがそう話すと、1通の手紙をフィリスに渡す。フィリスが読んでみると、
"フィリスへ 3人を遅れて戻したことをまず詫びる。ミカヅチ王国の事を聞くこと、そして支援物資、人員の確保に手間取ってしまった。申し訳ない。取り敢えず、我が国の最大限出せるだけの支援物資と、選りすぐりの人員を其方に送ることにした。人員には其方で長期滞在、新たな住みかとしても良いと言ってくれた者達を用意した。食糧は、其方の食文化が不明であるため、なるべく野菜等の中でも日保ちのするものを選んだつもりだ。フィリスにとって大変なことを押し付けてしまったが、何とかミカヅチ王国を建て直し、出来れば友好関係を築けるよう、計らって貰いたい。ミカヅチ王国国王、レイジ・ミカヅチ殿にも手紙をしたためて、スイレンに渡しておく。もしまだ必要なものがあるならば、惜しみ無く出せる。元々お主らが1年余りで改革を行ってくれたお陰なのだから。 マーティス"
と、書かれていた。それを読み終えたとき、スイレンがもう1通の書状をフィリスに渡す。そこにはマーティス・ヴォルファーのサインが書かれ、刻印が押されてあった。
「スイレン、ライファ、ミロ、取り敢えず長旅で疲れただろう。ゆっくりと休んでくれ。エンレン、ランファ、ハクアは荷物、人員の掌握を頼む。」
「あ…フィリス様…」
「…?どうしたの、ライファ?」
申し訳なさそうにモジモジしているライファに、フィリスが声をかける。
「その…バーバラちゃんが一緒に来てるんですが…どうしましょうか?」
「…へ?」
フィリスがきょとんとしていると、馬車からバーバラが降りてきた。
「フィリス兄様、お久しぶりでございます。」
丁寧に挨拶するバーバラ。だが、フィリスは気が気ではない。それもそうだろう。現状マーティスの娘であり、姫であるバーバラが来ているのだから。
「バーバラ、どうして…?」
「お父様からフィリス兄様の助けになるように、また見聞を広めよと仰せつかりました。」
「…そうか。叔父上も無茶をする。来てしまったものを帰れと言うわけにもいかないし、バーバラにも手伝って貰おう。」
そうフィリスが告げると、嬉々としてバーバラは喜んだ。
「はい、頑張ります!」
「取り敢えず、書状はバーバラから渡して貰おう。バーバラ、一緒にレイジさんと面談するよ。」
「はい!」
そう告げてフィリスはバーバラを伴ってレイジの部屋へと向かう。その間にエンレン、ランファ、ハクアの人員、物資の情報の掌握を行った。
バーバラがレイジに書状を渡し、レイジがそれをしっかりと読む。その間30分程…その後レイジが口を開く。
「うむ…了解した。バーバラ姫、マーティス・ヴォルファー王の書状、しっかりと読ませて頂いた。」
「お父様は何と?」
「うむ…食糧は我が国の保有する量の約3倍、人員も100人をこちらに差し出してくれるとのことだ。しかし…貰いすぎではないかな?」
「いえ。フィリス兄様がヴォルファー王国に戻ってきて約1年、我が国の財源は約10倍にまでなりました。そのフィリス兄様が改革を行うのですから、これでも少ない程です。」
「…フィリス、本当に受け取って良いのか?」
「レイジさん、叔父上は私にミカヅチ王国を救えと言いました。そして、その救助において、それ相応の対価は必要。今は甘えてください。」
「…わかった。バーバラ姫、其方の支援、有り難くお受けする。」
「有り難うございます、国王陛下。」
「うむ、堅苦しいので、レイジと呼んで、普通に叔父のように接してくれて構わないぞ?」
「解りました、レイジ叔父様。」
「さて…レイジさん、現状の報告をしてもいいですか?」
「頼む。」
「現在、この国の周囲10キロ程のモンスターとその巣は片付けました。死体の処理も行い、毒が蔓延することはしばらくないと思います。あと、国民全員の健康も、もう問題ないとマティーナから報告を受けております。」
「うむ…」
「それから食糧はマリアーナが其方の食文化を学ばせて貰い、節約しながらの腹持ちの良い物を開発しました。恐らくレイジさんも口にされたと思います。」
「確かに…我が国の食文化は米、麺類が主流であった。そこに今まで作ったことのなかったパンやピザという物や、クッキーと呼ばれる物を普及して貰った。…我々には還せる物も無いというのに。」
「あと行えるのは、其方の文化との融合を行うこと。そして…ヒュドラの出現した原因の究明です。」
「そこまでして貰えるのか…?」
「現状の建て直しだけでは再び何か起こった時の対処にはなりません。…レイジさん、些細なことでも良いので、情報はありませんか?」
「…うむ。フィリスには話しても問題なさそうだが…」
「安心してください、私は口は固い方です。」
「いや、そうではない。気がかりなことがあるのだ。」
「と、言いますと?」
「うむ…フィリス達全員集まれるか?」
「…今日の夕方、食事の際に集まれるようにしましょうか?」
「うむ。あと…カスミ、リョウ、アサギも連れてきて貰えるか?」
「解りました。」
フィリスはそう告げて、バーバラを伴って部屋を出た。
レイジとの面談の後、フィリスとバーバラがアサギの部屋へと向かうと、何故かみんな集まっていた。どうやらアサギの事が心配だったのと、スイレン、ライファ、ミロが挨拶したいと思ったからだった。エンレン達の掌握も済み、マティーナ、マリアーナも来ていた。
「フィリス様、それでどうでしたか?」
「うん、カスミさん、リョウ君、アサギさんも含めて、全員今日の夕食を共にして、レイジさんの話を聞くことになった。」
「…解りました。」
皆でマリアーナの新作出来立てケーキを食べながら談笑していると、そこに1人の侍女が戸を叩く。
「皆様、お話し中済みません。入浴の準備が整いました。」
「…?」
「あぁ、さっきレイジさんと話をした後、湯浴みが出来ないか聞いておいたんだ。」
「…なぜ?」
「…アサギさん、体調不良で身体を拭くだけだったでしょう?それに、我々も綺麗にしているとはいえ、ゆっくりすることも必要ですから。」
そう言うとフィリスは立ち上がり、男湯へと向かう。
「パパ、一緒に入ろう!」
「わふぅ!」
「こら、2人はみんなと入るんだ。」
「えー、久しぶりにパパに甘えたいのに…」
「わふぅ…」
「…仕方ない、誰もいなかったらね。」
「やったね、ハクアちゃん!」
「はいです!わっふう!」
そう言ってフィリスはミロとハクアを連れて出ていく。
「良いなぁ…」
「…ずるい。」
「背中流したかったなぁ…」
「まあまあ。」
「2人には勝てぬよ。」
「でも…どうしようか…」
そうマティーナが言うと、全員リョウの方を見る。
「え…?何ですか、皆さん?」
「リョウ君は1人でお風呂入れるの?」
バーバラがそう聞くと、リョウは赤面して、
「…後で1人で入ります。」
と、答えた。その場にいた全員が笑い、その後女性陣全員で湯浴みに向かった。
読んで下さっている方々、有り難う御座います。




