第95話
久々の更新です。
しっかりと休んだフィリスは魔素も回復し、朝早くから叔父であるマーティスに書状をしたためた。現在のミカヅチ王国の現状、食料等の補給の必要、また人員を何名か送って欲しいと書いた。そしてその書状をライファに渡すと、スイレンとライファ、ミロはヴォルファー王国へと向かった。早ければ今日中に帰ってこれると言われたが、ゆっくりで構わないとは伝えた。そしてフィリスは三人を見送った後、アサギの元へと向かう。部屋の前に着くと、中から声が聞こえてきた。
「アサギ様…本当に良かった!」
その声を聞いて、フィリスが扉を叩く。
「誰ですか?」
さっきの声の主が声をかけてきた。
「私です、フィリスです。中へ入っても宜しいですか?」
まずは様子を伺う。
「フィリス様、どうぞ!」
中へと促され、フィリスが中へ入ると、アサギは起き上がっており、カスミがアサギに抱きついていた。
「フィリス様、アサギ様が…こんなに元気になられました!」
「カスミ様、少し離れてください…」
困惑しながらも、アサギは優しくカスミの頭を撫でている。そしてカスミがアサギから離れると、アサギはフィリスに深々と頭を下げた。
「フィリス殿、この度は有り難う御座いました。そして…先日は失礼を致しました。」
「…?」
「カスミ様と一緒におられた貴殿に…」
「あの事でしたら気にはしておりません。初めて会った者に警戒するのは当然です。逆の立場であったなら、私でもそうしていました。」
「改めて自己紹介を致します。アサギ・アマツカ。この国の王、レイジ・ミカヅチ様、そのご息女であられますカスミ・ミカヅチ様とリョウ・ミカヅチ様の…そちらでいうと近衛隊長をしております。正確には侍大将と呼ばれております。」
「そうですか…私はフィリス・ヴォルファー。ヴォルファー王国国王、マーティス・ヴォルファーの甥です。」
「そちらの国の…そうでしたか…失礼を致しました。」
アサギが再び頭を下げると、カスミも頭を下げた。
「アサギさん、カスミさん、出来れば今まで通りに接して頂きたいのですが。私は国の長の甥で、国王ではありませんし…」
「そうですか…」
そう話していると、フィリスとアサギのお腹が同時にぐ~っと鳴った。
「…これは失礼。」
そうフィリスが話すと、収納魔法から小包を取り出す。中にはクッキーが入っていた。それをフィリスは一齧りすると、アサギとカスミの前に差し出す。
「フィリス殿、これは?」
「クッキーという、ポピュラーなお菓子です。毒は入っていませんよ。」
そういうと、アサギとカスミの手に乗せる。最初は食べるのを躊躇していたが、思いきって齧る二人を見てフィリスは笑う。そしてその美味しさに驚きながら、二人はどんどん食べていく。フィリスは追加で何袋か出して、三人で食べながら話をしていると、扉が叩かれる。
「フィリス君、マティーナだけど…って!ズルいよ、三人だけ!」
そういってマティーナ、エンレン、ランファ、マリアーナ、ハクアが男の子を一人連れて入ってきた。
「カスミお姉ちゃん、アサギお姉ちゃん~!」
男の子がカスミとアサギに抱きつく。年の頃五歳位だろうか…
「初めまして、フィリスです。」
フィリスがそう挨拶すると、男の子はフィリスの方をむいて、
「リョウ・ミカヅチです。初めまして、フィリスお兄さん。」
「昨日ようやく…モグモグ…治ったのです。」
ハクアがクッキーを咀嚼しながら言う。フィリスはそんなハクアを胡座をかいて膝に乗せる。
「アサギさん、この子はハクア。そしてこちらがマティーナ、エンレン、ランファ、マリアーナです。あと三人いるのですが、帰ってきたら紹介します。私の大切な人達です。」
「そうですか。アサギ・アマツカです。」
「うんうん、アサギ君も元気になって良かった。」
「マリアーナのお菓子も食べれるぐらい回復したのなら安心ね。」
「そうですけど…フィリス様、せめてお茶ぐらいは一緒に準備した方が宜しいかと。」
「そうじゃの。妾のお菓子は水分を補給しながら食べるのが一番美味しいのでの。」
「しゅうふんほひひいのふぇふ。(充分美味しいのです。)」
口々にそう言う。フィリスは収納魔法からお茶のセットも取り出すと、ランファに渡し、ハクアをマリアーナの膝に乗せる。
「さて…と。」
「フィリス殿…?」
「レイジ国王の状態を診てきます。アサギさん、無理は絶対にしないでください。みんな、あとは頼むよ。」
そう言ってフィリスはレイジの元へと向かう。
レイジの部屋では従者が何人か付きっきりで診ている。レイジは起き上がっているが、まだ完治はしていない。
「おお、フィリス殿…」
「国王、大丈夫ですか?」
「ふむ、レイジと呼んでくれて構わぬ。」
「それではレイジさん…」
「ふむ…私も普通に話してよいかな?」
「勿論です。」
「フィリス、そちのお陰でほぼ治った。感謝をしてもしたりない。有り難う。」
「いえ…レイジさん、リョウ君、アサギさんの容態も回復しつつあります。原因であったヒュドラも討伐し、現在は我が叔父であるマーティス・ヴォルファーに手紙も出しました。この国において、必要なことはありますか?」
「…充分過ぎるほどだ。しかし…なぜ貴殿達はそこまでしてくれるのだ…?」
「困った時には助けるものでしょう?」
「しかし…俺達には返せるものが…」
「無償でとは言えません。しかし…この国の事を学ばせて頂きたいのですが…?」
「…?」
「実は、私は転生してきました。この世界でもう20年ほど過ごしていますが、かつての生活がこの国と似ていたもので…」
「うむ。それが望みであるなら、俺は止めはしない。好きに見て貰って構わない。」
そう言われて、フィリスは嬉しく思い、再びレイジに回復魔法をかけて、部屋を出ていった。
久々過ぎて、お待たせしていた方々、すみませんでした。