第91話
翌日、朝早くフィリス達はカスミを連れて、昨日の湖までミロに乗ってやってきた。気絶していたから問題はなかった昨日と違い、初めて空を飛んだためにカスミは少し驚きながらも、優雅に飛ぶミロの背中が気に入ったらしく、歓喜の声を終始あげていた。無事にカスミを助けた岸へ到着すると、今度はハクアに乗って移動する。恐らくミロであれば数時間で着くだろうが、空からいきなり行くのは憚られたからだ。カスミの匂いを学習し、それなりの速度で移動していく。途中、カスミの護衛をしていた人達の亡骸を弔ったりしていたので、ミカヅチ国までもう少しというところで、夜になってしまった。夜に行くのは良くないと思い、夜営の準備に入る。と、水汲みに行ったスイレンがフィリスに報告する。
「…フィリス様、どうやら病気の原因は水源ですね。」
「どういうこと?」
「…この辺りの水は汚染されています。…それも、強い毒素に。」
「なるほど、でも水がないと…」
「…私が出します。…あと、この辺りの木を燃やすのも良くないかと。」
「解った。一応燃やせる木材もあるから、それを…」
フィリスは収納魔法から材木を取り出して、ランファに渡す。ランファが風の魔法である程度の大きさに切ってくれたので、それをエンレンが火を付ける。その間、ライファは明かりを灯していてくれた。
「ふむ、いつ見ても見事なコンビネーションじゃな。」
「そうでしょう?まあ慣れっこだからね。」
「私達の出る幕はなさそうだねぇ。」
「マリアーナ、食材の調理をお願いしますわ。」
「うむ、任されよ。」
「フィリス君、私達はどうしようか?」
「勿論、やることはありますよ。」
そう言って、フィリスは収納魔法から毛布を大量に取り出して敷いていく。何枚かは畳んで敷いた毛布の上に置いておく。
「すごいですね…」
カスミが驚いている。
「冒険者として長くやってきている皆だからね。」
マティーナがそう言うが、一般の冒険者はこんなことはしない筈である。しかしながら、手際よく夜営の準備が終わり、マリアーナの手料理を食べていると、フィリスが異変を感じとる。
「ん?」
「フィリス君?」
「どうやら…こちらに何名かの人が近付いていますね。」
即座に全員が警戒をする。すると、南から女性が5人、カスミと似たような服で現れた。カスミと違うのは、動きやすそうな服装、しいて言うならば忍者装束の様な感じの服装だった。
「ここをミカヅチ国の領内と知って入ったのか?」
真ん中の女性が話しかけてきた。黒髪の、ロングヘアが良く似合う長身の女性だ。
「私達はヴォルファー王国の者です。そちらの姫、カスミ・ミカヅチから命を受けて来ました。」
「カスミ様の…?」
「アサギ様!?」
そこでカスミが声をかけた。そしてカスミはアサギと呼ばれた女性に近付いて抱き付く。
「カスミ様…御無事で良かった。しかし、同行していた者達は…?」
「モンスターに殺られて…私も危なかったのですが、こちらのフィリス様達が助けて下さいました。」
「そうですか…フィリス殿、感謝いたします。」
「いえ、それより…貴女方も病の様子ですが…?」
そこまで話した所で、アサギ達はドサッと倒れてしまった。5人に近付いて抱え起こすと、どうやら全員無茶をしていたのだろう。緊張が解けた上に病が進行してしまったらしい。直ぐにフィリスとマティーナが治療を施していく。が、他の4人はともかく、アサギは直ぐには治せない程重体だった。ゆっくりと治す必要があると踏んだフィリス達は、その夜は5人の看病をし、翌朝明るくなってから一路ミカヅチ国へ向けて出発した。
読んでくださっている方々、有り難う御座います!