第89話
マリアーナが膝枕をして、ハクアに氷を出してもらい、額、ワキ等に付けて冷やしていく。呼吸は安定しているし、熱ももうないのだが、目をなかなか覚まさなかった。仕方なくフィリス達はヴォルファー王国へ連れて行くことに決めて、ミロに乗って帰る。無事に着くと、取り敢えず客間に寝かせて皆で看病し、フィリスはマーティスに事情を説明するために謁見の間へ赴いた。
「ふむ…ミカヅチ国の方から来たのだな?」
「えぇ。対岸からミノタウロス兎に角3匹と出てきた時は驚きましたが。」
「解った。ミカヅチ国は友好関係では無いが、敵対しているわけでもない。ましてや不干渉できているのでね。なにぶん文化や風潮の違いもあるだろうから。フィリス、面倒をかけるが、せわを頼めるか?」
「勿論です。途中で放り出す様な、腐った人にはなりたくありませんので。」
そうしてフィリスは再び客間へと向かう。するとメイドの一人と廊下ですれ違った。
「フィリス様、女の子が目を覚ましました。」
「そうですか。では、国王への報告は…」
「私がしておきます。」
「有り難う御座います。あと、もしかすると空腹かも知れませんので、軽めの食事の準備もお願いします。」
「畏まりました。」
メイドと別れて客間へ行くと、ミロとハクア、マティーナの笑い声がする。フィリスが入ると、皆がフィリスの方を見た。
「あっ、パパ!」
「わふぅ、この子、目が覚めたです!」
そう言うミロとハクア。フィリスはベッドへ近付いて、椅子に座る。
「初めまして。」
「あ…は、初めまして。」
「怖がらなくて大丈夫。ここはヴォルファー王国の客間だよ。いくつか質問させて貰いたいけど…お腹は空いているかい?」
「は…はい…」
女の子はそう言うと、お腹がく~と鳴った。
「さっきメイドの一人に食事を頼んだ。直ぐに来ると思うよ。先ずは自己紹介をしようか。私はフィリス。」
「エンレンよ。」
「…スイレン。」
「ライファよ。」
「ランファと申しますわ。」
「マリアーナと申す。」
「ミロだよ!」
「わふぅ、ハクアです!」
「マティーナというよ、宜しくね、」
「あ…私は…カスミ…カスミ・ミカヅチと申します。」
「やはり…ミカヅチ国の…?」
「すみません…」
「謝る必要は無いですよ。年齢は?」
「…12歳です。」
「ミロとおんなじだぁ!」
「そうか…取り敢えずゆっくりと休むことが必要だね。」
「あの…私はどれくらい眠っていましたか?」
「3時間くらいかな?君と会ったのは夕方だったし。」
「お願いが…あります。国王陛下とお目通りを…」
「解ってる。でも、せめて食事だけはしないとね。いきなりお腹がなるのは良くないだろう?」
「…はい。」
そう話していると、メイドがパンとミルク、サラダを運んできてくれた。カスミが食事を始めようとしたとき、フィリスは立ち上がり、皆に言う。
「兎に角、ゆっくりと食事をさせてあげて。叔父上には私から説明しに行くから、食事を終えて落ち着いたら、謁見の間に来て欲しい。」
そう言って、客間を出ていった。
読んでくださっている方々、有り難う御座います!