第87話
フィリス達がヴォルファー王国へ来て、一年が経過した。現在では北の山脈からのモンスターの襲撃は激減しており、また西の海の開拓も無事に終了した。具体的には、モンスターの種族は殆どいなかったのだが、向かっていたのが3人ずつという小規模な人数だったので、広大な土地の開拓に時間がかかったと言うのが正解ではあった。海の方も、道の開拓に時間がかかったものの、建物の建築には移住希望者が携わっていたので、比較的スムーズに進んだのだが、漁業は素人の集まりだったので、1からやり方を学ぶ必要があった。その甲斐あって、北に派遣されていた兵士の数を減らし、バリロッサ帝国からの兵や冒険者も帰らせた。海産物もアンタイルの街から買う必要が無くなったので、税を安く出来たりと、国の改革に一役買っていた。その間にも、マティーナとマリアーナが子供達に勉強を教え、一年もかからずに優秀な子供が家の手伝いをして、多大な経済効果をもたらしていた。読み書きが出来なかった筈なのに、既に大人顔負けの計算能力を発揮したり、作物の出来高から税を計算する子まで出てきた。しかし、違法なことは一切していない。なぜそう思えるのか?子供達は国が本当に好きなのだろう、すべての情報を網羅した帳面を提出してきているし、親も国の税で学校に通った子供が素晴らしい教育を受けて帰ってきたと喜んでいるからだ。元々は5歳から12歳までの7年間教える予定だったが、1年足らずで皆卒業した。なので、現在は5歳から18歳迄に広げて募集して、ヴォルファー王国の各村や街にも連絡して子供を教育しようと考えていた。しかしそれでは国を守る兵の教育にはならないとのことで、フィリスが兵を鍛えることにした。理由は簡単、フィリスが兵士長達を叩きのめし、その強さに憧れた兵士達に教えを乞われたからだ。昔から行ってきた訓練方法を教え、たまに実力の向上具合を観るだけだったが、少なくとも半年余りで訓練を受けた兵士達は実力を伸ばしていた。そんなこんなで平和に、しかし充実した毎日をフィリス達は過ごしていた。今は夜で、皆でフィリスの部屋に集まっていた。
「しかし、改革が上手くいっていて良かったですね。」
「…ようやくゆっくり出来る。」
「まあ、1年間忙しかったからね。」
「なかなか皆で集まることも無かったですから。近況報告の時ぐらいでしたわね。」
「うむ。なかなか手料理を振る舞えず、妾も辛かったのじゃがな。」
「もぐもぐ…いつも通り美味しいよ、マリアーナお姉ちゃん。ねぇ、ハクアちゃん。」
「もぐもぐ…わふぅ、落ち着くです。」
「ふふふ、まあこれからは普通に会えるし、問題ないんじゃないかな?」
皆、ランファが淹れたお茶とマリアーナが作ったお菓子を食べながら話をしている。その後も他愛のない話をしている中、フィリスだけは皆から渡された報告書に目を通していた。そこには何も問題はない筈なのだが、フィリスはう~ん…と唸っていた。
「…フィリス君?」
「妾のお菓子が気にいらなんだかの?」
「私のお茶かも知れませんわ。」
「そんなわけないだろう?2人の気持ちの籠った物が不味いわけない。」
そういってフィリスはお茶を一口含み、お菓子に手を伸ばす。
「では何故そんなに唸ってたんですか?」
「…気になる。」
「簡単だよ。…叔父上からそろそろ国王になれって言われてるんだ。」
「あ、そっか…パパは国王になるんだっけ?」
「わふぅ、忘れてたです。」
「それで…どうされるんですか?」
「もう少し…決定的な改革をしてからにしたいんだけどね。今のところ、頑張ったのは皆であって、私では無いから。それにこういうときこそ何か起こりそうな気配があるからね。」
そう言ってフィリスは窓へと向かい、窓を開ける。少し冷たいが、心地のよい風が部屋へと入ってきた。
「取り敢えず、明日は休みだから、皆で何処かへ行こうか。」
「そうですね。」
「…何処か良いところありましたか?」
「あんまりこの国にいなかったからなぁ…」
「色々観て回るか、城外へ出るのも宜しいかと思いますわ。」
「そうじゃな。」
「ミロはパパに任せるよ!」
「わふぅ、私もです。」
「海に行くのも良いかもね!」
そんな話をして、その後も他愛のない話をした。
読んでくださっている方々、有り難う御座います!




