第85話
フィリス達が謁見の間へと赴くと、マーティスや大臣達の笑い声が聞こえてくる。扉を守っている兵が扉を開けてくれたので中へ入ると、フードを被った人が通路の真ん中に立ち、マーティス達は普段通りの場所にいる。
「叔父上、来ましたが?」
「おお、フィリスよ。こちらの方だ。」
マーティスがそう言うと、フードを被った人がフィリス達の方を見る。
「久しぶりだね、フィリス君。」
そう言ってフードを取ると、そこにいたのはマティーナだった。
「マ、マティーナ先生!?」
「あらら?」
「…お久しぶりです。」
「うん、皆も元気そうだね。でもミロ君とハクア君は?」
「今は遊びに行ってますよ。」
「まさか…マティーナさんがお客様とは…」
「ふむ、意外じゃったな。」
「まあそうだろうね。実は…フィリス君達にお願いがあって来たんだけど、その前に国王と話をしていてね。意気投合して笑ってたんだよ。」
「叔父上とは何の話を?」
「まあそれはどうでも良いんだよ。で、お願いがあるんだ。」
「なんでしょうか?」
「私を雇って貰えないかなって。」
「…は?」
マティーナはこめかみをポリポリ掻きながらいう。
「実はねぇ…マディソン君と意見が合わなくなって、ガデル王国から出てきたんだよ。それで行き場所がなくて、ならフィリス君がいるはずのこのヴォルファー王国なら良いかなって思ってきたんだ。どうだろう?雇って貰えないかな?」
「いや…嘘ですね。先生のその仕草は隠し事してる時の仕草ですから。」
「あらら、ばれた?まあ意見が合わないのは本当だよ。本当はもうガデル王国にいたくなかったんだよねぇ。」
「何故ですか?」
「…長い間いたから、飽きたとか?」
「うん。それに校長としての責務は果たしたし、ジンガ君やオルステッド君、ティファ君に任せてきた。カリナもいるから向こうは大丈夫だし、バーデンの街もラバンダ君に引き渡してきた。ガデル王国に私の居場所は無いんだよ。」
「それでこの国に…ですか?」
「それは理解できますが…ねぇ?」
「うむ。なかなか出来ることではない。」
「何でもいいから雇って欲しいんだけど…ダメかな?」
「マティーナ先生、ガデル王国での仕事の延長になりますが、それでも宜しいですか?」
「?」
「今この国に必要なのは学校だと思い、学校を創っています。そこの学校長となって頂けますか?」
「え~、また学生達から勝負を挑まれるの?」
「そんなことがあったからですか…大丈夫ですよ。これから創るのは騎士学校ではなく、一般知識を施す学校です。つまり、戦いのことなど教える必要はありませんから。」
「なら良いかなぁ。実はねぇ、辞めてきた理由が学生からの勝負だったんだ。恐らく強さを実感したいからだとは思うけど、オルステッド君やティファ君にも挑む生徒が多くてね。嫌気が差したんだよ。」
「大丈夫です。今度の学校は5歳から12歳迄の基礎的な読み書きや経済などを教える場ですから。」
「国を守る子を育てるのじゃないの?」
「それはまた別に考えています。」
「戦いは好きじゃないからね。」
「解っています。私もマティーナ先生と戦いたいとは言った覚えはありませんから。」
「…確かに。あとは国王陛下が認めるかどうかかな?」
「フィリス、私は認めるよ。お前達のお陰でわずか2ヶ月でこの国は大きく変わってきた。そんなお前の先生だ、信用するに足りる。」
「解りました、叔父上。では、マティーナ先生の部屋や世話係の準備をお願いします。」
「有り難う、フィリス君!」
そう言って、マティーナはフィリスに抱きつく。まあ相変わらず幼女の姿なので、兄妹がじゃれついている様子にしか見えない。そんな様子を見て、その場にいた者は笑っていた。
読んでくださっている方々、有り難う御座います!
 




