第81話
ミロに乗って約1日、フィリス達は再びアンタイルの街に来ていた。冒険者ギルドはまだ復旧していないが、ヴォルファー王国の方角、現状は聞くことが出来た。アンタイルからまっすぐ300キロ程で王都に着くこと、現在国王が病気だということ、バリロッサ帝国とは金銭的なやり取りで守って貰っているほど弱小国だと認識されていることだった。アンタイルの街の復旧に尽力してほしいと言われたが、断ってフィリス達は一路、ヴォルファー王国へと向かう。流石にミロは疲れているので、ハクアが運動がてらのんびり走りたいと言ったので、今回はハクアに乗って移動する。途中行商人が山賊に襲われていたり、他の街の冒険者が襲われている所に出くわしたりしたが、この度に相手をしていく。理由は少しでも情報を得ることだったのだが…アンタイルの冒険者ギルドで得られた情報以上何も得られなかった。と、半日以上かかってようやくバリロッサ帝国とヴォルファー王国の国境へとやって来た。門番に冒険者の証を見せ、CランクのギルドにSランクが5人とは不思議だなとは言われたが、ヴォルファー王国に入国するのに関係はないので、問題なく通ることが出来た。さて、現在はヴォルファー王国領のシンガ村というところで、一晩厄介になることになった。ソーン村より小さな村で、宿もないが村長や村人が優しく、ここから山や森を抜けていくのに休んでいくと良いと言ってくれたからだ。そのお陰で野宿する必要もなく、フィリス達は活力を得ることが出来た。
「しかし、村があってよかったわね。」
「…そうね、姉さん。」
「温泉もあるし、食事も美味しかったわね。」
「そうね。しかもこの空き家をただで貸してくれるなんて、太っ腹ですわね。」
「料理の味も覚えたので、何時でもお作り出来ます、フィリス様。」
「お腹一杯だよぅ。」
「わふぅ、眠いですぅ…」
そんな風に言っている皆と違い、フィリスは1人、窓から外を見ていた。
「フィリス様?」
「うん…ちょっと気になる事があってね…」
「…ここはもうヴォルファー王国領。」
「それがどうしたの、スイレン?」
「あぁ、もしかしたら…」
「うむ。お父上の事じゃな。」
「そう。知っている人がいるかもしれない。少し、村長の所へ行ってくる。」
そういうと、フィリスは村長の屋敷に赴いた。村長は快く迎えてくれた。リビングで村長とフィリスは対面に座りる。
「村長、夜分遅く済みません。」
「いえいえ。それで…聞きたいこととは?」
「これについてです。」
そういうとフィリスは収納魔法から大剣を取り出す。その剣を村長の前の机に置く。
「私達は海の向こうのガデル王国から来ました。ですが、ある筋から、この剣に嵌め込まれた水晶が、このヴォルファー王国の物ではないかと…」
「…ふむ。見せて貰いますね。」
そう言って村長は眼鏡をかけて、水晶、そして剣を見る。
「…フィリス殿、この剣を何処で?」
「…父の形見です。」
「そうですか。ならばお伝え出来ることはただ1つ。この剣を持ってヴォルファー王国王都へと向かって下さい。それだけですな。」
「…この国の物で間違いは?」
「わしの口からよりも、国王が説明なさるじゃろう。」
「解りました。有り難う御座います。」
そう言ってフィリスは空き家へと戻った。その頃には皆眠っていた。
次の日、村長達にお礼を言って、再びハクアに乗って移動する。山だろうが森だろうがハクアには関係ない。悪路をものともせず、ハクアは爆走する。途中、ガデル王国等では見たこともないモンスターに出くわしたり、それに襲われている冒険者に会ったりしたが、全て解決しながら進み、夕方頃にはヴォルファー王国に到着することが出来た。ガデル王国よりも立地が良く、広い印象のその門で、沢山の人が順番待ちをしていた。その列に並び、1時間程してからフィリス達の番になった。
「身分証を。」
そう言われ、フィリスが冒険者の証を提示すると、兵はすんなりと通してくれたが、フィリスの顔と腰の大剣をずっと見ていた。
「…何か?」
「い、いえ、済みません。」
そう言われてフィリスも気にしない事にした。取り敢えず冒険者ギルドへ向かい、宿の場所や食事処を聞いて、そちらに向かい一泊した。次の日の朝、宿で食事をしていると、宿の戸が叩かれる。主人が応対すると、甲冑を纏った男達がフィリスに用があると言ってきた。そのうちの1人が、フィリスの元へやって来た。
「貴殿がフィリス殿か?」
「そうですが?」
「一緒に来ていただけますかな?」
「…理由は?」
「国王が会いたいとの事です。」
「…解りました。ですが、皆も一緒に行ってよろしいですか?」
「こちらの方々は?」
「家族です。」
「解りました。」
そうして、朝から城へと連行されたフィリス達だった。
城へ着くと、謁見の間ではなく王の寝室へと案内された。そのベッドに王が眠っていた。
「国王、昨日兵が話していた者をお連れしました。」
兵が話すと国王が目を覚ます。周りの侍女が起き上がるのを手助けする。
「貴殿が…質問をいくつかするが…構わないか?」
そう言われて、フィリスは頷く。
「名前は?」
「フィリスです。」
「何処から来たのか?」
「ガデル王国領のソーン村です。」
「歳は?」
「22になりました。」
「…最後の質問だ。両親の名は?」
「父はモーティス、母はミーシャです。」
そこまで話したとき、国王は涙を流した。
「フィリス…そうか…ようやく会えた…近くへ来て貰えるか?」
そう言われてフィリスが近付くと、国王はフィリスを優しく、力なく抱き締めた。
「運命の女神、ファーリス様、感謝致します。」
そう言う国王に対して、フィリスは困惑するばかり。国王はフィリスを離して語り始める。
「失礼したな、フィリスよ。私はマーティス・ヴォルファー。この国の国王であり、そなたの父、モーティス・ヴォルファーの兄だ。確かに…モーティスの面影がある。」
「叔父…上?」
「うむ。ここにモーティスからの手紙がある。」
そういうと、マーティスは枕元に置いてあった、古びた手紙を取り出す。何度も読んだのだろう、かなりぼろぼろになっていた。そこには家族が出来て、子供が出来、フィリスと名付けたこと、幸せであることが書かれていた。
「それは今から20年前に送られて来たものだ。その後、モーティスは?」
「今から17年前に、魔人の襲撃にあって…亡くなりました。母や他の村人と共に。」
「…そうか。しかし、そなたが無事で良かった。フィリスよ、この国に来たばかりのそなたに辛い事を言うのだが…この国を治めてはくれぬか?」
そう切り出すマーティス。
「どうしてですか?」
「…私は、もう長くはない。」
マーティスは語り始めた。
「元々私は国を治める人柄ではない。しかし、モーティスは自分がいると国が割れると言って、17歳の頃国を飛び出した。その後何度か手紙が来たが、私達の両親が破ってしまってね。私が内容を知っているのはその手紙だけだ。そして…まだ私の娘も幼い。このままではヴォルファー王国は滅びてしまう。頼む、フィリスよ…」
そう言われて、フィリスはマーティスの額に手を当てる。そして目を瞑り、魔法を使う。すると今まで辛そうな顔をしていたマーティスの顔が穏やかになる。
「フィリス…?」
「体の病気を治すリカバリーを使いました。恐らく、これで治ったと思います。あとはゆっくりと休む事です。」
そう言って、フィリスは席を立つ。
「頼む、フィリスよ。この国を…!」
「解っています。しかし…時間を下さい。」
そう言ってフィリスは部屋を出て、城が見渡せる場所まで来た。勿論、四龍、マリアーナ、ミロ、ハクアも一緒だ。
「お父様の故郷…」
「…大変なことになった。」
「フィリス様…」
「私達はその指示に従いますわ。」
「じゃからそのような顔をなされるな。」
「そうだよ、パパ!」
「わふぅ!」
「…皆、有り難う。」
そう言ってフィリスは皆を抱き締め、キスを送った。
読んでくださっている方々、有り難う御座います!