第70話
それから2日後、テッドとティファの結婚式の日になった。教会には沢山の人が集まっている。テッドの親族、ティファの親族は勿論、ハーヴィ家だけではなく元々テッド達の両親の知り合い、テッド達の騎士学校の生徒達、先輩、後輩も来ていた。それだけでも、テッド達が慕われていることがよく解るのだが、かつて魔神王ゼノヴィスとの戦いでの功労者ということもあり、王族のマディソンやカディラック、アリシアも来ていた。
「オルステッド、ティファ、おめでとう。」
「有り難う御座います。」
マディソンからも祝福の言葉がかけられる。
「ティファ、学生時代はごめんなさい…」
「いえ、アリシア様、もう充分に謝罪してくれたじゃないですか。」
アリシアも、学生時代の事を未だに謝罪しきれていないと思い、ティファに謝る。昔のアリシアをよく知る人からは、傲慢さが無くなったアリシアは好意的に受け止められていた。
「しかし…フィリスはどうしたんだ?」
「そうよね、カディラック様とアリシア様が来ているなら、着いてるわよね?」
「我々は四龍の方に迎えに来て貰いましたから、フィリス殿はこのガデルに来ていますが?」
「大丈夫、来ているよ。」
そう声がした方を5人が見ると、マティーナとカリナがいた。
「式には参加していたんだけど、用事があるから食事の時間までは2人に会わない、そう言っていたよ。まあ、すぐに来ると思うけど、とりあえず私達からのプレゼントだ。受け取ってよ。」
マティーナがそう言うと、カリナがテッドに、マティーナがティファにラッピングされた箱を渡す。
「校長先生、開けていいですか?」
「勿論。」
2人が同時に箱を開けると、そこには素晴らしいネックレスが入っていた。テッドのは黒いチェーン、ティファのは白いチェーンだが、2つともダイヤモンドがあしらわれた物だった。
「…校長先生!」
「有り難う御座います!」
「早速着けてよ。」
マティーナがそう言うと、テッドとティファはお互いネックレスを着け合う。2人ともよく似合っていた。
「でもマティーナ先生、ダイヤモンドなど良く手に入りましたね?」
マディソンがそうマティーナに質問する。
「うん。何せ、調達にはフィリス君達の力を借りたからね。」
「まさか…あの火山に!?」
「まあ彼らの力なら余裕だと思って行って貰ったんだ。」
「全騎士団を派遣しても、ダイヤモンドは取れない…そんな危険な場所から…」
「…末恐ろしいですわね。」
そんな話をしていると、食事の時間になった。教会の庭で、沢山の料理が並べられる。因みに、今回の資金は全て王国持ちである。マディソンが、魔神王ゼノヴィス事件の時の報酬を払っていない、せめて資金は払わせてくれないか、と言ってくれたからだ。だからこそ、こんなにも人が集まれたということもあるのだが…
「フィリス…まさか冒険者ギルドから呼び出しでも受けたのかな?」
「ん~、可能性はあるわね…」
「そんなことは無いさ。」
テッドとティファが心配していると、後ろから声がかかる。そこにはフィリス、マリアーナ、ミロ、ハクアが立っていた。
「やあ、2人ともおめでとう。」
「フィリス!」
「遅いわよ!」
「ごめんごめん、支度に戸惑ったんだ。でもようやく出来たから。」
そう言うと、フィリスは後ろを向く。テッド達もその方向を見ると、四龍が皿の四角をもって、巨大なギガントボアの丸焼きを運んでいた。
「ちょうどそこのテーブルが頑丈そうね。」
「…そうね、姉さん。」
「まあこれくらい軽いけど。」
「まあそういうものではないわ。大切な料理なのですから。」
「皆、そっと置いてね。」
「解りました。」
「スイレンお姉ちゃん、もう少し前です!」
「ランファ、傾いておるぞ。」
「そこです!」
ゆっくりと四龍達が運び、マリアーナ、ミロ、ハクアが誘導して、立派なギガントボアの丸焼きが机に置かれる。焼きたてだけあって、香ばしい香りと、脂が滴っていた。
「…フィリス?」
「…これは?」
「2日前に依頼で倒したギガントボアだよ。」
「…いくらなんでも。」
「…大きすぎ。」
「そうかな?皆さんに振る舞えば、あっという間に無くなるわよ?」
「…姉さん、ランファ、マリアーナが料理した。」
「早く食べましょう!」
「まずは主役のお2人分を取り分けますわ。」
「うむ。妾も手伝おう。」
「でもその前に言わなきゃだね!」
「わふぅ、ですです!」
そう言うと、8人並んでテッドとティファの前に立ち、
「結婚、おめでとう!」
声を揃えて伝えた。テッドとティファも、嬉し泣きの涙を流した。結局、ものの30分程でギガントボアの丸焼きは無くなった。焼きたてで、普段口にしていない食材であったので、参加者全員があっという間に食べ尽くしたからだ。骨は収納しておいて冒険者ギルドに渡す予定である。そうして、テッドとティファは皆から盛大に祝って貰えた。その嬉しそうな顔を見て、フィリスも自分の事のように喜んだのは間違いなかった。
読んでくださっている方々、有り難う御座います!