第69話
テッドとティファの結婚まで2日と迫った日、フィリス達は冒険者ギルドに来ていた。というのも、何か目新しい依頼が無いかと探しに来ていたのだった。定期的にソーン村からも連絡が来ていることはキールから聞いていたので、心配はしていないが、元々砂漠の街より人口が多いのだから、依頼の数も半端ではない。現在Cランクになっているギルドエレメントドラゴンにも可能な依頼は沢山ある。そう思って来てはみたものの…元々Sランクだったギルドエレメントドラゴンに入りたいという冒険者にもみくちゃにされていた。全てを突っぱねた頃、冒険者ギルドに慌てた様子の男達が入ってきた。
「た、助けてくれ!」
そう叫ぶ男の方を、冒険者ギルドにいた全員がみる。どうやら、城下町の農夫達のようだった。
「どうしたんです?」
受付嬢の1人が訪ねると、
「た、大変なんだ!畑で作業していたら…キリングボアの大群が!このままだと作物がやられちまう!助けてくれ!」
元々城下町に畑はなく、城壁の外にある。普段から騎士達がその護衛について、農作業を行い、帰ってくるのがこのガデル王国の農作業だ。
「騎士の方々は?」
「とんでもねぇ数のキリングボアの大群なんだ!対処できてねぇ!頼む、冒険者達に手助けを…!」
そう叫ぶ男達。そこへキールがやってくる。
「ふむ…緊急クエストとして受注しますが、報償金は割高になりますが、よろしいかな?」
「構わねぇ、飢え死にするよりゃましだ!」
「現時刻をもって、クエストを発令する。受けるギルドはあるかの?」
そう話すキールに、誰も返事をしない。と、そこで挙手をしたのは、フィリス達だった。
「私達でも宜しいですか?」
「ギルドエレメントドラゴン…すぐに行って貰えますかな?」
「勿論。皆、行くよ。」
そう言って、ギルドエレメントドラゴンは農夫の男達と一緒に出ていった。
畑の中には30を軽く越えるキリングボアがいた。一心不乱に作物、特に奴らの好物の芋が食い散らかされていた。
「頼む、このままじゃ…」
「解っています。」
そう言って、フィリスが前に出ようとすると、
「…フィリス様、私がやる。」
スイレンが前に出た。
「…フィリス様も他の人間も間違っていることを証明する。」
そう言ってスイレンは両手をあげて、空中に大量の水の槍を作り出す。
「…行け、ウォータースピア!」
そう叫んで両手を振り下ろすと、1体に1本ずつ、ウォータースピアが刺さる。息つく暇もなく、キリングボアの大群が殲滅された。
「スイレン、私達が間違っているとは…?」
「…本来水魔法の水魔法たる所以は、温度低下じゃない。」
「え?」
「…それは人が勘違いした事。それなら水と言わず氷魔法と付ければいい。」
「確かに。」
「…それに私のあだ名もウォータードラゴンだった。アイスドラゴンではなく。」
「…つまり?」
「…本来、私が得意なのは、切断や刺突。切れ味を上げることこそ、水魔法の真骨頂。」
「なるほど…だから私も含めて間違っているということか。わかったよ、スイレン。もっとしっかりと学んでいくよ。」
「…フィリス様なら大丈夫。だけど、他の人に教える必要はない。」
そう言って、笑顔になるスイレン。
約50頭のキリングボアの死体、それの回収には夕方までかかった。こんなに食べきれないし、収納魔法にいれておくのもどうかと思ったので、半分は冒険者ギルドで換金して貰い、半分は無償で農夫達に配られることになった。大切な畑の収穫物の被害以上の収益になると、農夫達は喜んでいた。が、そこへキリングボアより更に大きな猪が現れた。
「あれは…?」
「…ギガントボア。なるほど、この子達の今回の襲撃にはこいつが関わっていた。」
「…?」
「フィリス様、スイレンはこのギガントボアが森の作物を食い荒らしたので、キリングボアがこちらに来たと推測したのですわ。」
ランファがそう説明する。
「しかし、ここまで巨大なギガントボアは初めて見るわね?」
「…100年生きてるかも。」
「まあともあれ、美味しそう。ゴクリ…」
「こら、ライファ。不謹慎ですわよ。」
「妾にはどうしようもない。防御しか出来ぬゆえ…」
「ミロも。」
「わふぅ…私もです。」
そう話していると、臨戦態勢をとるギガントボア。と、そこでフィリスが何かを閃いた。
「そうか、テッドとティファの結婚式の料理にしよう。」
「なるほど、妙案ですね。」
「…でも姉さん。そこまでこいつは日持ちしない。」
「大丈夫ですわ、ライファ!」
「はい、お姉様!」
そう言うと、ライファはギガントボアに向かって突っ込んで行く。ギガントボアも突進しようとするが、それより先にライファは右手を突きだし、
「パラライズ!」
と、痺れを引き起こす、雷魔法の中で最も威力の無い魔法を放つ。流石四龍の一角だけあって、その威力は凄まじい。巨体であるギガントボアであっても、すぐに痺れて動けなくなった。
「さて、ライファが動きをとめてくれたし、どうしようか?」
「収納しておいて、後で料理をしましょう。」
「うん…けど、でかすぎないかな?」
「大丈夫ですわ。こちらにはエンレンがいますもの。それに、私とマリアーナも。」
「うむ。料理なら任せていただきたい。」
そんな話をして、フィリス達は帰っていった。
読んでくださっている方々、有り難う御座います。