第68話
次の日、朝早くからフィリス、マリアーナ、カーマインの3人はガデル王国の城へと赴いていた。因みに、四龍、ミロ、ハクアはコールとネーナと訓練兼遊ぶとの事で、ハーヴィ家に残っていた。現在謁見の間の中央にて、フィリスとマリアーナはかしずいていた。
「フィリス様、いつまでこうしていなければいけないのでしょう?妾は膝が痛いのですが?」
そんなことを小声で話すマリアーナ。
「うーん、いつまで待たせるのか…検討もつかないよ。」
そういうフィリスもかれこれ30分もこうして待たされているので、腹が立ってきていた。いい加減立ち上がろうとしていると、ようやくマディソンがやって来た。
「フィリス、そしてベヒーモスよ、顔を上げよ。」
そう言われたのでフィリスとマリアーナは顔をあげる。散々待たされた挙げ句、悪気もないようなマディソンがそこにいたので、マリアーナは舌打ちをする。
「貴様、国王に対して無礼であろう!?」
騎士の1人がマリアーナに言う。
「妾達を散々待たせて、今さらやって来て偉そうに言えるのか?何様のつもりだ?」
マリアーナの辛辣な言葉を聞いて、騎士達が剣を抜こうとする。が、マディソンが片手を挙げてそれを止める。
「フィリス、そしてベヒーモスよ、申し訳なかった。我々にも色々とあってな。許して欲しい。」
マディソンが座りながらであるが、頭を下げる。
「…何かあったのですか?」
フィリスがそう訪ねる。
「まあ、国家間の話なので、そなた達には直接関係はないのだが…いささか時間がかかる話なのだ。それより…今回の件、カーマインより少し話は聞いているのだが…詳しく話をして貰えぬか?」
そう言われ、フィリスは説明をする。ギルドに依頼が来たこと、フレデリック王国での治療の話、ベヒーモス討伐に向かったがマリアーナと話をして、そこに封印されていた者を撃ち取った話、マリアーナも家族になった話を。
「ふむ…にわかには信じられんな。そこのマリアーナがベヒーモスとは…?」
「信じて貰うしかありません。ここで元の姿に戻れば、この国は崩壊するでしょうし。」
「フィリス様、大きさを調整して、元の姿に戻りましょうか?」
マリアーナがフィリスにそう言う。
「それって…どのくらい?」
「フィリス様が望めば、手のひらサイズにはなれますよ。」
「じゃあそれで…」
フィリスがそういうが早いか、マリアーナは光輝き、フィリスの手のひらに収まる大きさ、しかも宙に浮いていた。
「この大きさならば、単独で飛行することも可能です。」
「凄いな…」
「うむ…まさしくベヒーモス…失礼した。確認しておかなくては、報告に虚偽があってはならぬのでな。マリアーナよ、失礼した。」
そう言われ、マリアーナは再び美女の姿に戻る。
「さて、フィリスよ。今回の件もそうだが、私やカーマイン、他の騎士達の総意で、そなたに勲一等を与えたいのだ。」
そういうマディソンが片手を挙げると、大臣が奥に下がり、盆を持ってくる。その上には勲書があった。
「受け取って貰えぬか?」
そういうマディソン。しかし、フィリスは首を横に振る。
「国王陛下、それを受け取ることは出来ません。」
フィリスはそういう。
「理由は?」
「私がそれを受け取れば、ギルドエレメントドラゴンはこの国の為に戦わなくてはならなくなります。それは他の皆を、戦争が起きたなら巻き込むことになります。それを私は望みません。」
「うむ?」
「ガデル王国、フレデリック王国は友好な関係を築けていますが、それ以外の他国との戦争に巻き込まれたくはありません。」
「フィリス!」
「不敬が過ぎるぞ!」
「うるさい、黙れ!」
ざわつく騎士達をカーマインが一喝する。
「ですから、私には勲章は不要です。」
「…わかった。しかし、我々に否がない戦いを挑まれた時には…」
「解っています。支援はしますよ。」
「わかった。ただ、今回のベヒ…マリアーナの件について、我が国から報償金も考えていた。それだけは受け取って欲しい。」
大臣が再び後ろに下がり、カーマインが袋を持ってくる。
「金貨で150枚。受け取って欲しい。」
「解りました、これだけは受け取ります。」
「うむ。では謁見を終了する。フィリス、マリアーナ、時間を取らせた。」
そうして2人は謁見の間、そして城を出た。
「ふむ、人間の王とは不躾ですね。」
「まあそう言わないで。あの人もあの人で大変なんだ。」
フィリスとマリアーナは街へと繰り出していた。マリアーナが街を見たいと言ったのもあるが、街の紹介、そして押さえつけられた鬱憤を晴らすために買い物も良いかなと思い、フィリスが提案したのだ。その甲斐あってか、マリアーナは買い食いしながら新しいレシピを考えたりしている。こうしたい、ああしたいとフィリスにねだってくれる。それがフィリスには嬉しくあった。と、2人で裏路地へと入ったとき…
「おい、そこの2人!」
いきなり後ろから声をかけられた。見ると、3人の男が刃物を持って立っている。すると歩いていた方向からも4人の男が姿を現す。
「さっき城から出てきてから、ずっと追いかけていた。金を出せ!」
どうやら物取りのようだった。フィリスは荒事にしたくないので、男達に財布(中身は殆ど入っていない)を投げ渡す。
「へっ、素直だな。じゃあついでにその女も寄越せ!」
そう言われて、フィリスの目つきが変わる。
「金なら渡しますが、彼女は渡さない。私にとって、金なんかより大事な人ですから。」
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
と、襲いかかってきた。しかし、マリアーナは全方位に障壁を張って攻撃を防ぐ。その障壁に当たって7人は吹き飛んだ。その姿を見て、フィリスはやれやれと呟く。
「マリアーナ、暴力は嫌いなのだろう?」
「フィリス様を傷つけられる方が嫌です。」
そう言ってくれるマリアーナを愛しく思いつつ、吹き飛んで痙攣している男達を縄で縛り付けて、フィリスはどうしようかと悩んだ。
「このまま解放しても無駄だし…マリアーナを傷付けた罪は重い。」
と、フィリスは2つの魔法を7人にかけた。一つは継続して回復力を高めるリジェネという魔法。そして、もう一つはベノムという、フィリスオリジナルの魔法だった。
「ぐっ!?」
「がは!?」
「ぐぇ!?」
男達は揃って悲鳴にも似た嗚咽を吐く。このベノム、元々はポイズンという体に毒を与える魔法を、フィリスが改良したもので、毒に近いが毒ではない、最早病にも似た苦しみを相手に与える、拷問用に創った魔法だった。
「まぁ、治せるのは私だけだ。けど、死ぬことは出来るだろうけど…治してやる義理はない。一生苦しめ。」
そう言って、フィリスとマリアーナは裏路地から去っていった。
その日の晩、マリアーナは厨房を借りて、ライファとリースと共に新しいお菓子や料理を作った。そのどれもが美味しく、皆に好評だった。
読んでくださっている方々、有り難う御座います。




