第67話
無事にガデル王国騎士学校に戻ったフィリス達は、マティーナに採ってきたダイヤモンドを見せる。
「これはまた…見事なダイヤモンドだねぇ…」
マティーナも驚いていた。本来、サラマンダーや他の龍に邪魔をされて、なかなか大きなダイヤモンドは採れないらしく、フィリス達が採ってきたのはフィリスの拳ひとつ分の、大きなダイヤモンドだった。それも2つ。
「さて、これで材料は揃ったから、私と一緒に来てくれるかな?」
「何処へ?」
「勿論、ダイヤモンドの加工の為に親方君の所にだよ。」
そう話し、マティーナが鈴を鳴らすとカリナが入ってくる。
「校長、お呼びで…フィリス君…久しぶりですね。」
「カリナさんもお元気そうで。」
「カリナ、悪いけど暫く留守を頼むよ。」
「解りました。」
「じゃあ行こうか。」
9人で部屋を出て行く。
店に入って親方にダイヤモンドを見せると、親方は困惑した。
「校長先生、すぃやせん。あっしには…無理なんでさぁ。」
親方がそういう。
「え…?」
「ダイヤモンドの加工が出来たのはうちの親父で、あっしは火は使えやすが、水も風も使えねぇんで…」
「そうかぁ…忘れてたよ。」
マティーナが頭を悩ませる。
「マティーナ先生?」
フィリスが心配そうに話しかける。
「御免よ、ダイヤモンドの加工は水か風の魔法でないと出来ないんだ。一気に切断して、形を整えていく必要があってね…」
「坊っちゃん、すぃやせん。」
「いや、それならうってつけの人がいますよ。」
そういうとフィリスはスイレンとライファを見る。2人とも頷いていた。
「そうか、君のところには四龍がいたのを忘れてたよ!」
「へ?四…龍?」
親方には話していなかったので、目を丸くされた。
「…形を教えて貰えれば。」
「私かスイレンで切断していけますわ。」
「…ライファはやめといた方がいい。」
「あら、スイレン?どうして?」
「…貴女の風では粉が飛ぶ。」
「…確かに。ならスイレンにお任せしますわ。」
そうスイレンとライファが話している間に、親方がかつて父親が加工したのであろう、ダイヤモンドを持ってきた。
「えっと…この形にして貰えやすか?」
それはフィリスも見たことがある、綺麗なブリリアントカットのダイヤモンドだった。
「…大きさは?」
スイレンが親方に質問すると、2人で工房の方へ向かい、話を始める。邪魔なので、フィリス達は店の中で武器や防具を見る。一時間程すると、スイレンと親方が店に戻ってきた。
「…フィリス様、戻りました。」
「お疲れ様、スイレン。どうだった?」
「…納得のいく形にするのに、時間と材料を使いきりました。」
そういうと、親方が皆に加工したダイヤモンドのネックレスを2つ、見せてくれた。
「さすが四龍のお一人。この加工は難しいんですが、3回目でバッチリ、コツを掴んで仕上げてくれやした。校長先生、どうぞ。」
「うん、確かに受け取ったよ。親方君、お代を…」
「いや、あっしはネックレスの土台を作っただけで、スイレンさんが加工してくれなきゃどうしようもなかった。貰うわけには…」
「親方さん、それはだめです。」
「坊っちゃん…?」
「このネックレスは、親方さんが気持ちを込めて作った物。その代金は受け取らないと、御自身の名誉に関わりますよ。」
「…そうですかい?」
「それに、時間があったので他の武器や防具を見せて貰いました。造りが雑な物なんて何一つ無い、親方さんの魂が込められている。テッドもティファも、それをタダで受け取ったとなったら受け取らなくなります。」
「うんうん。そうだよ、親方君。確かにスイレン君の力は借りたけど、元々は形を教えてくれた君がいなくちゃ出来なかったんだから。」
「…すぃやせん。」
「これからも良好な関係でいたいからこそ、代金は受け取らないと…」
「…親方さんの腕に傷が付く。」
「そうですよ、私達も欲しいと思うような素敵なネックレスですもん。」
「ダイヤモンドに負けてはいませんわ。」
「自信を持って。」
「そうだよ、おじちゃん!」
「わふぅ、ですですぅ、」
そう話して、親方はしっかり代金を受け取った。そしてフィリス達はハーヴィ家へと向かった。
ハーヴィ家は少し慌てていた。急な来客、それもフィリス達だからというのは言うまでもないが、更に1人増えていたからだ。
「フィリス様も人が悪い。」
「せめて騎士学校に行く前には連絡を下さいな。食事の準備もあるのですよ?」
バン、リース達は大慌てで支度をやり直したりしていたので、フィリス達は申し訳なく思っていた。そうこうしていると、カーマインも帰ってきて、更に驚かれたが、事情を説明すると、納得してくれた。
「フィリス、明日私と城へ行ってくれるかい?」
「…?」
「実は、誰かがフレデリックの山を無くしたのは聞いていたが、それがベヒーモス…マリアーナさんだと国王に報告しておきたいのだ。」
「解りました。あと6日、滞在させて貰うのに、カーマインさん達に不利な事はさせられません。」
「うん、ありがとう。ところで…」
皆で食卓を囲んで、食事を済ませた後、マリアーナの作ったクッキーを皆で食べていた。
「このクッキー、美味しいな。」
「でしょう?マリアーナが作ったんです。」
「店売りではないと思っていたが…」
「美味しいわね、マリアーナさん、今度作り方をリースに教えて貰えないかしら?」
「すごく美味しいね、ネーナ?」
「はい!」
「ぜひ教えていただきたいです。」
マリアーナのクッキーは、ハーヴィ家の皆に受け入れられた。
読んでくださっている方々、有り難う御座います。