第66話
ビラル火山…標高約1200mのその火山へはミロの飛行能力で3時間程で着くことが出来た。火口近くに拓けた場所があったので、ミロがそこに降り、全員地上へと降りる。事前に体感温度を一定に保つシールドを張ることが出来ないライファ、ランファ、マリアーナ、ミロ、ハクアにエンレンとスイレンが魔法をかけているので、問題はなかったが、兎に角暑いのだろう。生きている生物は見当たらないし、勿論植物など無かった。それでも更に火口へと向かうと、8人の上空から叫び声が聞こえる。どうやら、火に耐性のある生物がいるのだと解ったところで、いきなり影がさした。皆が上空を見上げると、巨大な龍が飛んでいた。
「エンレン、あれは?」
「サラマンダー…存在を忘れてました。」
「ぐるぁぁぁ!」
エンレンがサラマンダーと呼んだ存在が、地上へと降りる。その体は、エンレンの龍形態とほぼ同格、しかし薄いピンクに近い風貌をしていた。そして、念話で話しかけてきた。
“くっくっく、久しぶりだなぁ、ファイアードラゴンよ。”
“サラマンダー、久しぶり。”
“府抜けたなぁ、よもや人間に使役されるとは…地に堕ちたとも言えるか。”
“失礼な、我が主を侮辱すると許さないわよ!”
“サラマンダー、お初にお目にかかります。私はフィリスです。”
“ほう…念話が使えるか…中々に稀有な存在よ。だがな、人間ごときが我々龍を従えてなんとする?”
“一緒にいたい…それだけでは不服ですか?”
“くっくっく…はっはっはっ!”
そうサラマンダーは笑うと、大きく息を吸い込んだ。
「フィリス様、危ない!」
そう言ってマリアーナはフィリスとサラマンダーの間に立ち、障壁を張る。次の瞬間、サラマンダーは灼熱のブレスをフィリスに目掛けて吐いた。ゴー、と、凄まじい勢いで吐かれたブレスは、マリアーナの障壁に阻まれ消滅していく。
“まさか…ベヒーモスも使役しているとはな。だが、脆弱な人間に何が出来る?この場で全員まとめてしぬがいい!”
そう言うと、サラマンダーはその巨体の尻尾を振り回してくる。と、エンレンが龍形態に戻り、それを防ぐ。
“人語も話せないあなたが言うことじゃないわ!相手になるわよ!”
そう叫び、二頭の龍は上空へと飛び、取っ組み合いを始める。最初は尻尾、後ろ足の爪での引っ掻き、体当たりだったが、数回打ち合った後、器用なことに前足同士での掴み合いに発展する。が、エンレンは実力を出せていないのか、サラマンダーの後ろ足での爪先蹴りを腹に食らい、首筋に食い付かれた。その体勢のままサラマンダーは地面へとエンレンを咥えて落下し、叩きつけた。
“ぐはっ!”
エンレンを叩きつけた後、サラマンダーは上空へと再び上がり、8人を見下ろしていう。
“ふん、昔のお前ならば、我より強かった。しかし…やはり府抜けているお前では我には勝てぬ。このまま殺してやろう!”
そう言うと、サラマンダーは大量の龍を呼び寄せる。大小入り交じった龍の数、およそ100。しかし、黙って見ている他の四龍ではない。
「…フィリス様、姉さんをお願いします。」
「どうやらエンレンは本気を出してないわね。」
「ここは私達にお任せくださいませ。」
そう言うと、龍形態をとって3人で呼び寄せられた龍と対峙する。
「マリアーナ、ミロとハクアを頼む。」
「心得ました!」
「パパ、気を付けて!」
「ですですぅ!」
やり取りの後、フィリスはエンレンに近付く。エンレンは噛まれた首筋から血を流して、苦しそうにしている。
“フィリス様…申し訳ありません…”
“エンレン…本気を出してないのか?”
“…”
フィリスの言葉に、エンレンは一筋の涙を流す。
“…私が本気を出せば、きっと…フィリス様は私が嫌いになります。それだけは…嫌なのです。”
“どういう事だ?”
“限界を超えて力を使うとき、我々龍は見境なく暴れるのです。理性が働いている、人の姿をしているのも、それをフィリス様に知られたく無いからなのです。”
“…”
“フィリス様…失望なさったでしょう…?”
“…はぁ。エンレン、君達は私をなんだと思ってるんだ?”
“…?”
“好きな人達が必死に戦っているのに、理性が無くなるとかの理由で嫌いになるわけ無いだろう?それに、初めてあったとき、魔神王ゼノヴィスに操られ、あの時でさえも理性を少しは保てていたはず。そうでなければ、ランファを死なせていただろう?”
“フィリス様…”
“エンレン、君は君だし、皆もそれぞれの生き方がある。その意思を無駄にしては、本当の家族じゃない。嫌なこと、辛いこと、楽しい事や幸せを共有するからこそ家族なんだよ。頼む、エンレン。私に君の力を見せてくれ!”
“…!”
そこまでフィリスが話すと、エンレンの体が光輝き、首筋から凄まじい炎が吹き上がる。炎が静まると、サラマンダーに噛み付かれた傷が無くなり、エンレンは立ち上がった。
“フィリス様、済みませんでした。私の力、見ていてください!”
そう言うと、エンレンは、サラマンダーに向かって飛び立った。後ろで他の四龍と龍の戦いを傍観していたサラマンダーがそれに気付くが、復活したエンレンは恐ろしい程のスピードでサラマンダーの首筋、それも頭のすぐ下に噛み付いた。
“ぐっ…ファイアードラゴン!?まだ力が!?”
“お返しだ、食らえ!”
その噛み付いた状態で、エンレンは灼熱のブレスを吐く。密着状態、しかも傷口に炎を浴びせられて、流石のサラマンダーも吹き飛ぶ。
“くっ!…だが、これならどうだぁ!”
サラマンダーはフィリスの方へ向き直り、再びブレスの体勢に入る。エンレンはその間に陣取る。
“死ぬがいい、人間!”
先程の灼熱ブレスと違い、レーザーとも言える光熱線がエンレンに当たる。が、エンレンは体を貫通されるどころか、そのブレスを体で吸収する。
“なっ!?”
“これで…終わりだ、サラマンダー!”
エンレンは体に受けた光熱線のエネルギーを集約し、額から巨大な赤熱の角を生やした。そして、サラマンダー目掛けて突進する。
“食らえ!バーニングホーンクラッシャー!”
赤熱の角での突進を食らい、サラマンダーの腹部は貫通された。刺さった状態から、地上に向けてエンレンは首を振り、サラマンダーを地面へと落とす。と、サラマンダーにフィリスが近付いて治療を始める。元々サラマンダーに呼ばれただけの他の龍は、サラマンダーの敗北を察知し、逃げていった。エンレン達四龍も地上へと降り、再び人の姿を取る。
「…」
黙って見守る四龍だが、フィリスの回復魔法も練度が上がっているので、安心して見ていた。と、しっかりと腹部が再生されたサラマンダーが、意識を取り戻す。
“…そうか…負けたか。”
“サラマンダー、なぜこのようなことを?”
エンレンがサラマンダーに質問する。が、答えたのはフィリスだった。
“エンレン、サラマンダーは寂しかったんだよ。”
“…へ?”
“君がこのビラル火山に帰って来ないから、遊び相手がいなくて、それで私に嫉妬していたんだ。…違うかい?”
“…ふん。”
“サラマンダー…”
“帰ってきたと思えば、人間と一緒。しかも他の龍やベヒーモス、フェニックスにフェンリルだと?我の気持ちも知らぬくせに…”
“…ごめんなさい、サラマンダー。でも…”
“いや、戦っている間に解った。確かにこのフィリス殿は信頼出来る。だが…たまには遊んで欲しい…それだけだ!”
“…解ったわよ、サラマンダー。”
皆もニヤニヤ笑っていた。
“さて、フィリス殿。そなたらの目的は、ダイヤモンドだろう?”
“よく解りますね?”
“ふん…好きなだけ掘るがいい。ただし…”
“…?”
“ファイアードラ…エンレンを宜しく。”
“解りました。”
そう告げて、サラマンダーも去っていった。その後、しっかりとダイヤモンドを探して、フィリス達は納得のいく大きさのダイヤモンドを2つ手に入れることが出来た。
読んでくださっている方々、ありがとうございます。