第61話
久しぶり過ぎてめちゃくちゃかもよ?
フィリス達がミロに乗って出発して1時間程が経過した頃、大きな山が見えた。
「パパ、大きな山だけど、あれも越えるの?」
ミロがフィリスに尋ねる。
「いや、どうやら目的のベヒーモスは、あの山のようだ。」
フィリスの言葉に四龍、ミロが驚いた。
「フィリス様…」
「…いくらなんでも大きすぎます。」
「そうですよ。」
「そんな者と私達は戦うのですか?」
「パパ、山の向こうじゃないの?」
「気配察知を使ってみて、間違いなくあの山がベヒーモスだ。ミロ、麓に着地してくれ。」
そう告げられて、ミロは山の麓に着地し、みんなを降ろす。フィリスは山に近付くと、山肌に触れてみる。
「フィリス様?」
「やはり…この山事態がベヒーモスだ。」
「…私達でもこの距離なら解りますが…」
「どうしましょうか?」
「うーん…」
みんなで悩んでいると、ランファが告げる。
「フィリス様、私達の時のように、精神世界で話をされてはどうですか?」
「しかし…頭がどこか解らない。」
「触れた状態であれば、頭でもどこでも構わないのです。私達も入りますから。」
「…解った。」
そう言うと、いつかのように精神世界に入って行った。
ベヒーモスの精神世界は、何もない虚無の世界と言って良かった。広い地面が有るが、木も草もない…真っ白な地面がただあるだけだった。
「…」
「何もないですね…」
「…何も考えていない。」
「しかし肝心のベヒーモスがいないわ。」
「みんな、あれを…!」
ランファが指差す方向に、黒い塊があった。
「行ってみよう、」
ミロが走り出す。フィリス達も後を追いかけて走り出し、近くに行ってみると、女性が一人、膝を抱えて眠っている。
「彼女がベヒーモスですね。」
「…間違いない。」
「兎に角起きて貰いましょう。」
「フィリス様、お願いします。」
「パパ、気をつけて!」
「あぁ。」
フィリスはベヒーモスと思われる女性の肩に手をおいて、軽く揺する。すると、女性は目を覚ました。
「…お主等は?」
「貴女は…ベヒーモス?」
「…ふむ?妾の精神世界に入って来ると言うことは…それなりの力はあるようじゃな。」
よいしょと言いながらベヒーモスは眠るのをやめて立ち上がる。
「その名で呼ばれるのは久しぶりじゃのう。お初にお目にかかる。妾はそう、巨獣ベヒーモスじゃ。」
「やはり…」
「お主等も、妾を殺しに来たか?」
「…?」
「ただ殺られる訳にはいかんでの。」
「ちょっと待って…」
「私達は貴女を殺しに来たわけではありません!」
「…む?」
「先ずは話を聞いて欲しいの!」
「…訳有りのようじゃな。聞こう、話を聞いてからでも戦えるからのぅ。」
「先ず聞きたいのは、冒険者達を倒したのは貴女か?」
フィリスが尋ねると、ベヒーモスは首を横に振る。
「妾が呼吸をした際に吹き飛んだ者、寝相が悪くて身体の上にいて落ちた者、様々おるが、妾が戦いを挑んだのは一回だけじゃ。誰かを傷付けること、それをよしとはせん。」
「では次に聞きたいのは、貴女はどうしてここに?」
「ふむ?何故と問うか。妾は主を得るまで、ここである者を封印しておるのじゃ。」
「?」
「妾は神によって作られし者。その神より、承った仕事、中途半端には出来ぬ。」
「神の名は?」
「ファーリス様じゃが?この世界において、あの方以外の神の声など聞いたことは無い。既に数百年、ここでこうして封印を施しておるがな。」
はっはっはっとベヒーモスは笑う。
「ファーリス様の…そうか。貴女も…」
「そのファーリス様から、最近お告げがあったのもまた事実。近いうちに妾が仕えるべき主が現れるとな。しかし…いかにファーリス様の言葉とはいえ、生半可に使命をやめる訳にはいかん。」
「ファーリス様から伝えられたのはそれだけ…?」
「主の名はフィリス、そう伝えられているが、たかが人間。寿命等も考えると、そう長くは生きられんじゃろうし、妾を見つけられるとも思っておらん。…が、お主がフィリスなのじゃろうな。」
「そうです。」
「…よい目をしておる。しかし、妾が仕えるに値するか、見極めさせて貰う。」
「どうすればいい?」
「簡単じゃ。妾を倒せばよい。ただし、現実世界での。」
「解った。」
「では外に出て貰おう。」
そう言われて、精神世界から出る。
現実世界に戻り、フィリス達が見たのは、未だ動かないベヒーモスの姿だった。だが、恐らくゆっくりと動く部分があったので、フィリス達はそこに向かうと、ベヒーモスふ首を動かしていた。
「くっくっくっ、脆弱な人間に、妾が倒せるか?」
立ち上がりもせずに、ベヒーモスがそう言う。しかし、フィリスは告げる。
「巨獣ベヒーモスよ、敗けを認めてくれ。」
「…戦いもせずにその言葉、ふざけておるのか!
?」
「そうじゃない。貴女は恐らく他人を傷付ける術を持たないのではないか?」
「ふん、何故そう思う?」
「数百年、ずっと封印を続けていた…その相手を貴女が倒せば貴女は自由なはず。しかしそれが出来なかった。だから封印という形でなんとかした、違いますか?」
「…」
「それでも戦うと言うなら…」
フィリスは左手を前に突き出した。その手には光輝く虹色の弾丸があった。
「…それは?」
「この一撃、確実に貴女を消滅させられるだけの魔力を込めました。確実に貴女は死ぬ。」
「ふっ、ハッタリか?」
「違う!私は貴女と戦いたく無い。だから…貴女が封印している相手に使わせて欲しい。」
「…」
「そして自由に生きて欲しい。出来れば私達と共に。」
「…解った。その言葉、信じよう。」
そう言って、ベヒーモスは縮んでいき、人の姿になろうとする。その巨体が小さくなるにつれて、山が消えていく。収縮する身体を追いかけて行くと、そこにはベヒーモスの人の姿と、小さな祠のような物があった。
「フィリス殿、気を付けられよ。」
そう告げると、ベヒーモスは気絶したのか、倒れ込んでしまった。そのベヒーモスをエンレンとスイレンが抱えてフィリス達の近くに来ると、祠から禍々しい魔力を感じる。と、祠から巨大な化け物が現れた。身の丈は10メートル以上、ミノタウロスを巨大にしたような相手だった。
「…くっくっくっ、はっはっはっ!ようやく甦ったぞ!忌々しいベヒーモスとファーリスめ!全てを滅ぼしてくれる!」
そう叫ぶ化け物。ベヒーモスは目を覚まして、
「フィリス殿、やはり無茶だ!」
と、告げる。しかしフィリスはため息をついて首を横に振り、
「巨獣ベヒーモス、よく見ておいてくれ。これが!」
そう言うと、フィリスは右手にコルトパイソンを召喚し、左手の弾をシリンダーに入れて構え、
「貴女の主としての私の力だ!」
化け物に目掛けて引き金を引いた。ズドン!と、凄まじい音をたてて弾丸は化け物の胴体に命中、そして貫通せずに体内に入ると、大爆発を起こした。後に残ったのは、化け物の肉片だけだった。ポカーンとしているベヒーモスに対して、さすがと言っている四龍とミロ。フィリスはコルトパイソンを右手人差し指でくるくる回してから消し去ると、ベヒーモスに向かって、
「どうかな?主として認めてくれるかな?」
と言った。
「…認めるも何も…末恐ろしや…認めざるをえぬ…」
少し青ざめた顔で、ベヒーモスはそう告げた。
読んでくださっている方々、有り難う御座います。肩も治り、携帯壊れたりしましたが、毎日ではなく、のんびり書いていきます。宜しくお願いします!