第60話
それから1週間経ったある日、サーシャが大慌てで屋敷にやって来た。
「ギルドエレメントドラゴンに緊急クエストが発令されました!」
そう言われ、リビングに集まっていた6人と一匹は話を聞く。
「実は、数ヶ月前に出たフレデリック王国の開拓のクエストで問題が発生しました。フレデリック王国の北、距離にして60キロ離れた場所において、巨大なモンスターを確認したそうなんです。つきましてはそのモンスターの討伐のクエストが出ました。」
「そのモンスターとは?」
「解らないそうです。しかし、冒険者ギルド本部からもSランク、Aランクのギルドが来るそうですので、一緒に…」
「必要ないですね。」
「…私達だけで充分。」
「例え相手がどんなに大きくても!」
「私達が負ける要素はありません。」
「そうだよ!」
「ワフッ!」
「…」
皆そう言う中、フィリスだけが考え事をしていた。
「フィリス様?」
「一つ、確認したいのですが?」
「何でしょうか?」
「そのモンスター、どれくらいの速度で動いていましたか?」
「情報提供者からは動いていなかったと…」
「…ならば問題無いですが。」
「如何したのですか、フィリス様?」
「動いていた場合、フレデリック王国や国境の警備に回って貰おうと思ったんだ。だが、その必要は無さそうだ。サーシャさん、私達は今すぐ行ってきます。その間、ハクアの面倒を冒険者ギルドで見て欲しいのですが?」
「へ?」
「ハクアはミロに乗れませんから。」
「まさか…ギルドエレメントドラゴンだけで討伐すると…?」
「他のギルドがいると、私達は本気を出せませんから。」
「あぁ、切り札は見せない為ですね。」
「そうです。」
「解りました。出来れば急いで頂きたいので…」
「今から行きます。皆、準備は…?」
「出来ています!」
「…大丈夫です。」
「任せて下さい!」
「御心のままに!」
「私も大丈夫だよ、パパ!」
「ワフッ!」
「ハクア、君はお留守番だ。」
「クゥン…」
サーシャにハクアを任せて、フィリス達はミロに乗ってフレデリック王国へと向かった。
出発して1時間、フレデリック王国に到着した。慌ただしい雰囲気があり、フェニックスであるミロが近くに降りても誰も気にしなかった。フレデリック王国の冒険者ギルドに足を運ぶと、冒険者ギルド内は騒々しかった。
「おい、早く神官を呼んでこい!」
「回復薬を!」
そんな声が聞こえて来る。フィリス達はとりあえず受付嬢に話しかける。
「済みません…」
「後にして下さい!今は冒険者の傷の手当てで忙しいんです!」
そう言われたので、フィリス達は周りを見渡す。殆どの冒険者が寝転がされて、手当てを受けているが、深刻な症状の者が多い。仕方なくフィリスは近くの男に近付き、回復魔法を使う。直ぐに男の傷が塞がる。
「フィリス様…」
「皆、重傷者から治療していく。症状が重い人から合図していってくれ。」
四龍とミロは別れて冒険者達を見に行く。フィリスはとりあえず近くの冒険者から順に看ていった。その間にも神官や回復薬が届き、何とか死者の数は最低限ですんだ。しかしそれでも何人かは亡くなっていた。その仲間と思われる冒険者からは、何故もっと早く来てくれなかった!など、辛辣な言葉を言われたが、フレデリック王国の冒険者ギルドの長がそんな連中を厳しく注意した。フィリスの魔素も無限では無い。治療が終わった頃にはかなり疲れていた。
「フィリス様、大丈夫ですか?」
「…顔色が。」
「やはり魔素の使いすぎで…」
「今日は休みましょう!」
「そうだよ!」
「はぁ…はぁ…大丈夫。」
「君達のお陰で多くの冒険者が助かった、有難う。」
冒険者ギルド長が礼を述べる。
「君達は確かギルドエレメントドラゴンの…?」
「そうです。」
「そうか…君達が来てくれていたなら、こんな事にはなっていなかったかもしれない。」
「…何があったんですか?」
「解らん…だが、山のように大きなモンスターがいたらしい。殆どのギルドは壊滅状態だ。」
「そうなんですね…」
「君達に頼みがある。早くそのモンスターを討伐して欲しいのだ。」
「解っています。しかしとりあえずフィリス様を休ませて下さい。」
「以前来たとき、その青年はいなかったが?」
「我々の主です。4ヶ月前に冒険者登録して、現在Aランクです。」
「何…?では君達、今はAランクなのか?」
「そうですけど?」
「相手はSランクのギルドをも壊滅させた相手だぞ!?その青年では…!」
「五月蠅いな!」
冒険者ギルド長に、エンレンがキレた。
「早くフィリス様を休ませたいの!それ以上五月蠅く言うなら、私達は帰ります!」
「なっ…!?」
「…だいたい、フィリス様がいなかったら死人が沢山出てた。」
「それを私達のせいにするなんて、お門違いもいいところです!」
「フィリス様、行きましょう!」
「パパ…」
そこまで言って、フィリス達は冒険者ギルドを出た。
フレデリック王国城下町の宿屋に行くと、全ての宿屋で既に満室で入れないと言われた。フィリスはかなり疲れていて、ライファとランファに肩を借りて歩いている。
「駄目ですね…」
「…こうなったらミロちゃんに乗って砂漠の街に帰るしか。」
「フィリス様、しっかり!」
「しかしここまで消耗したフィリス様を見たのは初めてです。」
「はぁ…はぁ…」
「あれだけの数を治療したんだもん、仕方ないよ!」
「皆…フレデリック王国の城へ向かおう。」
フィリスの発言に皆驚いた。
「城に行くのですか?」
「…誰か知り合いでも?」
「あぁ…」
「解りました。」
「着くまで頑張って下さい!」
6人は城へと向かって歩く。
無事に城の前まで来ると、門番に止められる。
「この城に何用か?」
「…アリシア様は居られるか?」
「王女様に何用だ?」
「フィリスが会いたいと伝えて下さい。」
「…怪しいな。しかし、かなり疲れているようだが?」
「お願いです…」
「解った、しばし待て。」
門番の1人が城の中へ入っていく。その間、フィリス達は城門前で待たされる。暫くして、門番が戻ってくると、
「申し訳御座いません!直ぐにお通しするように言われました!どうぞ!」
そう言われて、その門番に案内されて、謁見の間へ行くと、カディラックとアリシアが玉座に座っていた。かなり疲弊しているフィリスを見て、2人は驚いた。
「フィ、フィリス殿!?」
「如何したのですか、フィリス!?」
「カディラック王、アリシア王女、お久しぶりです。」
「そんな挨拶など必要無いですわ!」
「そうです!急いで客間へ案内せよ!」
2人は大慌てで客間を準備させ、フィリスは客間で一夜を過ごした。客間は広く、四龍とミロも同じ部屋に泊まった。
翌朝、再び謁見の間へフィリス達は通された。
「カディラック王、アリシア王女、有難う御座いました。」
「この国に平和をもたらしてくれた貴方に対して、門番が失礼をしました。」
「私達2人の恩人なのですから、気兼ねなく来て頂きたいですわ。」
「それでフィリス殿、何故あのような状態に?」
「実は、回復魔法を使いすぎまして…魔素がきれてしまいました。」
「おかしいですわね、貴方程のお人が?」
「まあ300人近くの治療をすれば疲れますよ。」
「…へ?」
「…休みも無かったし。」
「なっ!?」
「人使いが荒いのに…」
「あのギルド長と他の冒険者と来たら…」
「私、あの人達嫌い!」
「フィ、フィリス殿!?」
「無茶苦茶ですわね、貴方は…」
「まあ一日で回復出来て良かった。宿屋が一杯で、失礼ながらここを使わせて貰いました。有難う御座いました。」
「いえ…」
「まあ、貴方が無事で良かったですわ。」
「それでカディラック王、アリシア王女、この国の北に巨大なモンスターが出たとか…」
「そうなんです。」
「Sランクギルドでも歯が立たない相手だと聞いておりますわ。」
「私達はそれを討伐しに行きます。つきましては何か情報はありませんか?」
「確かに貴方方なら勝てるかもしれません。」
「あなた、いくらフィリス達でも勝てるかどうか…」
「いや、魔神王をも倒したフィリス殿達なら…」
「信頼しているのですね…まあ、私もフィリスの力は信じておりますが…」
「フィリス殿、相手は恐らくこのフレデリック王国の伝説にある巨獣ベヒーモスかと。」
「特徴は?」
「山のように大きなモンスター、そして恐ろしく堅い…倒すことは不可能で、我々の先祖は近付かない事にしていました。」
「そうなんですね…」
「その正体は巨大な亀ではないかと言われていますが、私も見たことが無いのです。しかし、ベヒーモスを倒さなければ開拓は不可能…」
「解りました。ベヒーモスの相手は任せて下さい。」
「フィリス、勝算はあるのですか?」
「大丈夫。」
「…私達も。」
「普通の存在じゃありませんから!」
「そうですわ。」
「私達に任せて!」
そう告げるとカディラックもアリシアも安堵の表情を見せる。そうしてフィリス達は巨獣ベヒーモスの討伐へと向かった。
読んで下さっている方々、有難う御座います。




