第58話
直ぐに風呂を沸かして、フィリスはミロと子犬と共に入る。子犬は思いの外綺麗だったが、病気や怪我をしていないか確認し、キュアとリカバリーをかけておいた。とても利口な犬で、人語を理解しているのか体を洗われている間も大人しい。
「ミロ、名前は決めたのか?」
「ううん、まだだよ。パパに駄目って言われたらどうしようか悩んでたから。」
「生き物の命は安くない。ましてや1匹でいたならモンスターにやられる可能性だってある。私はねミロ、命を大切にするなら何でも許してあげるよ。」
「うん!パパ、大好き!」
「わおん!」
ミロがフィリスに抱き付くと、子犬もフィリスに甘えてきた。風呂の中でミロが考えて、子犬はハクアと名付けられた。
ハクアが来て1週間後、難しい依頼がフレデリック王国の冒険者ギルドから来たとサーシャが尋ねてきた。何でも、未開拓のまま放置していた地域に、大量のモンスターが住み着いているらしく、大規模な討伐を行いたいから手を貸して欲しいらしい。以前フィリス達が国境の砦を防衛するために戦ったモンスターがどこから来たのか、それさえも解ってはいないのに、あれから数ヶ月でいきなり大遠征を行う、おかしな話もあったものだと思い、フィリス達はその遠征に参加はしない、代わりに他の雑用みたいなクエストを受けると突っぱねた。元々クエストを受けるか受けないかは各ギルドの自由だし、ハクアがまだ小さいし楽にフレデリック王国に行くのにミロの力が必要なのだ。ミロは基本屋敷で待機し、フィリスとランファが風魔法を使えるので、エンレン、スイレン、ライファの内2人を抱えて空を飛んで、緊急性の高いクエストを熟していた。残った1人がミロとハクアの面倒を見る。今日もフィリス達は近くのクエストを熟して帰ってきた。今回はエンレンが残ることになっていたのだが…
「ただいま。」
「あっ、フィリス様、皆、お帰りなさい!」
「…姉さん、変わったことは?」
「特になにも無かったわよ。私の料理の腕も上がったから。」
「そうですよねぇ。あれ?ミロちゃんとハクアちゃんは?」
「庭にいなかった?」
「見なかったから屋敷にいるんだと思ってたのですが?」
「おかしいなぁ…庭で遊ぶって言うから、屋敷の掃除をしてたんだけど…」
「昼食は食べたんだよね?」
「勿論です。」
「なら夕方までには帰ってくるだろうから、心配はいらないと思う。」
「…信頼してるのですね。」
「可愛い子には旅させよとは言いますが…」
「疲れたから私達も癒されたいです、フィリス様…」
そういって4人共じりじりと近づいて来る。仕方なくフィリスはソファに座り、四龍の頭を撫でていった。
夕方になってもミロとハクアが帰ってこない。
「おかしい…いくら何でも遅すぎる。」
「ミロちゃん…ハクアちゃん…」
「…何処に行ったのか。」
「探しに行きましょう、フィリス様!」
「そうですね。皆で探せば…」
「…いや、その心配は無さそうだ。」
フィリスはそう言うと、屋敷の玄関の扉を開けた。すると、泥だらけになったミロがハクアを抱いて立っていた。
「ミロ、お帰り。」
「…」
「ミロちゃん?」
「遅くなったの、御免なさい…」
「大丈夫よ、ミロちゃん。」
「パパ、絶対怒ってる。」
「そんなことないわ。ねぇ、フィリス様?」
「実は少し怒ってる。」
フィリスはそう言うと、ミロとハクアの頭を撫でて、
「私達もミロやハクアと遊びたいんだ。遠くへ出掛けるなら一言言いなさい。」
「パパ!」
「ワウン!」
「さあ、泥だらけなんだから風呂に入ろう。」
そう言うと、フィリス達は全員で風呂に入った。
読んで下さっている方々、有難う御座います。