第53話
砂漠の街の冒険者ギルドへ5人を連れて行くと、数日前に行方不明になっていたギルドニールソンのメンバーだということが判明した。体の方はフィリスの回復弾のお陰で治療されていたが、精神の方は治せないので、アンジェラ達に任せることになった。今回討伐したモンスターの数はゴブリンが283匹、トロールが52匹、ミノタウロスが31匹そしてオーガが4匹だった。その魔石をサーシャに渡して、フィリス達は屋敷へ帰る。屋敷に着くまでにミロがお腹空いたと催促するので、帰る途中で屋台によって串焼き等を買って食べさせる。夕御飯迄には消化できるだろうと思いながら、フィリス達も食べた。屋敷に到着すると、お腹一杯になったミロは眠りについて、四龍は屋敷の掃除やお風呂を沸かしたりと大忙し。手伝おうとフィリスが伝えると、何もせずに休んで欲しいと言われた。家事全般が余り得意では無いエンレンが膝枕をして、フィリスも少し眠ることにした。
夕方になり、フィリスもミロも起きて夕食を食べていると、玄関を叩く音がする。ライファが扉を開けると、サーシャが立っていた。
「こんばんは。」
「あれ、サーシャさん?」
「お邪魔して宜しいですか?」
「どうぞ。」
ライファがサーシャを中へ入れてリビングへやってくると、ランファがサーシャの分の夕食を用意する。
「有難う御座います。」
「いえ、それで如何したのですか?」
「はい…実は相談したいことがありまして…」
「…相談?」
スイレンが手を止めてサーシャに質問する。
「実はギルドニールソンが目覚めたのですが…」
「あの5人が…」
「どうやら長い間の拷問に近い事をされていた後遺症が出てまして…」
「まあ、男は殴られ続けて、女は陵辱されてましたからね。」
「そうなんです。それで…何とかしてあげたいのですが…」
「…まさか私達のギルドと合併させるとか言わないですよね?」
「…駄目ですか?」
「はっきり言って駄目です!」
ライファがテーブルを強く叩いて反論する。
「ギルドニールソンは元々Cランクなんです。たった5人ですが、元々の実力は保証しますから。」
「嫌です!私達はフィリス様の為にギルドエレメントドラゴンを立ち上げたのです、他の人を入れるつもりはありません!」
エンレンがそう言うと、ランファも溜め息をつきながら、
「そもそも私達にメリットがありませんわ。」
と言う。
「冒険者ギルドの特権として、既存のギルドに他のギルドを任せることは可能なのです。その特権を使用させて欲しいのです。」
「我々に問題を押し付けるつもりなんですか、冒険者ギルドは!?」
「そうなってしまいます…」
「サーシャさん、一つ聞きたいのですが?」
そんな中、フィリスがようやく口を開いた。
「ギルドニールソンはCランク、私達は現在Aランクですよね?受けるクエストのランクは下がるのですか?」
「はい。」
「もう一つ、その特権を使用した上で、自信を取り戻せたギルドはあるのですか?」
「…実際にはありません。こういった事例は沢山あります。しかし、他のギルドと合併して、そこから立ち直って再び独立したギルドは、今のところありません…」
「そうですか、ならお断りします。」
「フィリスさん!?」
「…代わりに平和な場所を提供します。」
「へ?」
「私が生まれ育ったソーン村は現在廃村なのですが、建物などはしっかりとしています。モンスターも殆どいないあの場所で療養させてやった方がギルドニールソンの為になるでしょう。まあ、冒険者ギルドもありませんし、他に住人もいませんから、最初は大変でしょうけど。」
「待って下さい!」
「…フィリス様はそれで宜しいのですか!?」
「あの場所はフィリス様にとって…」
「大切な場所では御座いませんか!?」
「パパ…」
「平和だけど、いつかは朽ちていってしまうだろう…それに、両親や皆も私達がいない間寂しい思いをしているだろうから。」
「フィリスさん…」
「まあ、行くか行かないかは彼ら次第ですが、恐らく私達と行動するよりはマシでしょう。私達は更に上のクエストを熟さなければ、いざという時に高ランククエストを受注出来ないなら冒険者ギルドとしても困るでしょう?」
「そうですね…解りました。フィリスさん達の話をアンジェラギルド長に話してみます!」
「そうと決まったら、食事にしましょう。これ以上冷めてしまうとランファの手料理が無駄になりますから。」
そういって皆で美味しく食事をし、サーシャは帰っていった。
その次の日、フィリス達が冒険者ギルドへ行くと、早速アンジェラの部屋に通された。
「フィリス、本当に故郷は安全なのかい?」
「そうですね、この間帰ったときにも殆どモンスターはいませんでしたから。Cランクギルドならキラーバイソンとかなら倒せるでしょう?」
「そうだね…解った。書状をしたためるから、それをガデル王国の冒険者ギルド本部へ持って行ってくれないかい?勿論、クエスト扱いで。」
「報酬は高めでお願いします。」
「勿論だ。」
そう言われて昼頃、書状がフィリス達に渡され、急いでガデル王国の冒険者ギルド本部へと向かった。
冒険者ギルド本部は、砂漠の街より大きく、人の数も半端ではなかった。暫く待って、受付が開いたのを見計らって、受付嬢に書状を渡す。すると、ここでも2階のギルド長室へと通された。アンジェラのような女性かと思っていたら、よぼよぼの爺さんだった。
「初めまして、ギルドエレメントドラゴンの皆さん。儂はキールと申しますです。」
「宜しくお願いします。」
「早速なのですが、アンジェラからの書状には、貴方方がソーン村という場所にギルドニールソンを推薦して、村おこしをして欲しいとのことですが?」
「そうなっていましたか…概ねあっていますが、私達は行きません。行くのはギルドニールソンと、冒険者ギルド本部の職員です。」
「なるほど…そう言うことですか。して、そのソーン村とは何処に?」
「ここから1日半…地図はありますか?」
フィリスがそう言うと、キールは地図を持ってきた。フィリスはある一点を指差す。
「ここです。」
「なるほどなるほど…そのような場所に村があったとは…しかも聖なる湖の近くとは、思ってもいませんでしたな。」
「そこまで行けますか?」
「解りました、我々の方で準備はします。ギルドニールソンと、他に余り戦いなどが得意では無いギルドに声をかけて、近日中に出発しましょう。直ぐにアンジェラに書状を書きますので、少しだけ待っていて下さい。」
「暫く城下町を見て来ても?」
「勿論構いません。もしよかったら泊まっていって下さい。宿屋は…」
「昔お世話になった家族の屋敷がありますので、其方でお世話になります。明日の朝、受取に来ます。」
「ホッホッホッ、それでは宜しくお願いします。」
そういって皆で部屋を出る。
「ふむ…フィリス殿…何も変わっていないようですなぁ…」
勿論キールはフィリスを知っていた。何せ、3年連続騎士学校武道大会を優勝したのだから。
「彼が薦める場所だ、きっと素晴らしい場所だろう。」
ホッホッホッと笑って、キールは書状を書き始めた。
その日、フィリスはハーヴィ家を訪れた。カーマイン、マチルダ、コール、ネーナは勿論、リースやバン達も歓迎してくれた。夕方に来たので、それからコールとネーナの成長を見て満足し、フィリス達6人はハーヴィ家で1泊お世話になった。
読んで下さっている方々、有難う御座います。