第48話
フィリスが出発して直ぐに四龍とミロは屋敷に戻る。
「でも、大丈夫かなぁ?」
ミロが心配そうな顔をする。
「パパは強いけど、サンドウォームの大群に囲まれたら、対処できないかも…」
「そうなのよねぇ…アンジェラさんの話だと、サンドウォームが大量発生してるらしいし、心配だわ…」
「…しかも足元が悪いし。やっぱり着いていくべきだったかも…しれないね。」
エンレンとスイレンがソファーに座りながら言う。
「でもきっと大丈夫ですよ。」
「ライファ、何か思い当たる節があるの?」
ライファの言葉にエンレンが質問する。
「だって、ランファ姉様と契約しているのですよ。それに、スイレンとだって。水で砂を固めたり、風で砂を吹き飛ばすことも可能ですから。」
「あっ!」
「…そうだった。」
「それにフィリス様自身の特殊な召喚魔法もありますからね。心配すべきは多少のブランクですが、この間の砦の一件を見ても、そんなものは無いでしょう。私達はフィリス様を信じて待ちましょう。」
ランファがキッチンでお茶を入れて、リビングにやって来た。5人はフィリスが戻るのを待つことにした。
それから5時間が経過した頃、
「おかしい…いくら何でも遅くないかしら!?」
「…行きに1時間以上かかるから仕方ないわよ、姉さん。」
「それにしても遅すぎませんか?」
「…うーん。」
「ミロが見てこようか?」
そう話していると、屋敷の扉が叩かれる。ドンドンッ!と強く叩かれたということは、フィリスでは無いだろう。ランファが代表して扉を開けると、サーシャが息も絶え絶えに立っていた。
「み、皆さん、大変です!」
「サーシャさん…?」
「さ、砂漠で…砂漠で沢山の行商人がサンドウォームに襲われて…ハァ…ハァ…特命が出ました!」
「落ち着いて下さい。」
「ギルドはCランク以上の冒険者を集めて…討伐を行うそうです!エレメントドラゴンも現在Cランクですので、特命が出ました!」
「解りました。」
「砂漠に大量のサンドウォームが…」
「…フィリス様が危ない。」
「急ぎましょう!」
「ミロが皆を運ぶよ!」
そういって屋敷を飛び出す四龍とミロは急いで砂漠へと向かった。
ミロが急げば砂漠まで10分とかからない。が、空から見ても、サンドウォームは何処にもいない。
「おかしいなぁ?」
「…大量発生じゃないの?」
「サーシャさんが嘘を言うわけないし…」
「ミロちゃん、少し高度を落として下さい。」
「うん!しっかり掴まってて!」
そうしてミロが高度を落としていると、人影が一つ、砂漠の中に見えた。
「あれって…?」
「…間違いない!」
「フィリス様です!」
「良かった!」
「パパ!」
空からミロが大きな声で呼ぶと、フィリスは空を見上げた。その近くにミロは着地し、子供の姿に戻る。5人がフィリスに近付いていくと、返り血で汚れたフィリスの姿があった。
「皆、どうしたんだ?」
「なんだじゃありませんよ!」
「…サンドウォームが大量発生したとのことで。」
「私達に特命が出たんです。」
「フィリス様、大丈夫でしたか!?」
「パパ、臭い…」
「御免よ…」
そう言うとフィリスは自身にクリーンの魔法をかけて汚れと匂いを落とす。
「砂漠を出るまでに、またサンドウォームに襲われると思っていたから、砂漠を出てから落とそうと思ってたんだ。」
「ではサンドウォームは…」
「無事に倒したよ。」
「…流石です。」
「では直ぐに帰りましょう!」
「こんな砂まみれの場所では話し辛いです。」
「そうだね。ミロ、頼めるかい?」
「勿論だよ、パパ!」
再びミロは鳥の姿になり、皆で乗り込むと、砂漠の街に向かった。
砂漠の街の冒険者ギルドの前には、サンドウォーム討伐隊が結成されていた。
「良いかい、なるべく多くのサンドウォームを討伐して欲しいんだ。ライバル意識はいらない。大切なのは人の命だよ!」
アンジェラが皆を束ねて叫ぶ。それに同意するように皆が頷いている。
「ったく…エレメントドラゴンが単独で出てしまうとは…」
「仕方ないですよ、大切な人が、問題の場所にいるんですから…」
「そうだね…ん?」
アンジェラが空を見上げる。それを見てサーシャも空を見上げると、ミロがギルドに向けて飛んできていた。ミロはギルドの前に着地すると、子供の姿に戻る。
「フィリス!?あんた、無事だったのかい!?」
「アンジェラさん、サーシャさん、戻りました。皆が来てくれなかったら、後1時間程かかっていました。」
「でも…大量にサンドウォームが…」
「あぁ、それなんですが、何匹か倒してきましたので、換金してもらって良いですか?」
「…はぁ?」
「なっ!?」
「おいおい、嘘はいけねぇぞ。」
「そうだ!お前、何も持ってねえじゃねえか!」
「五月蠅いね、静かにしな!フィリス、討伐したっていう証拠は?」
フィリスは胸元から小さな袋を取り出して、その中からサンドウォームの死体を取り出す。その数…28体!直ぐに冒険者ギルドの前がサンドウォームで埋め尽くされた。そして…途轍もなく臭い!
「うげぇ!」
「くっ、臭っ!」
「まあ…サンドウォームの血液は確かに臭いですけどね。」
「…あんた、なんで平気なんだい?」
「騎士団にいたとき、よく残飯を処理で燃やすために集めたりしてました。それよりはマシかなって…」
「ま、まあいい。サーシャ、あんたが鑑定しな!」
「アンジェラさん、酷すぎませんか!?」
「まあ…確かにこれでは鑑定しようが無いか。」
そう言うとフィリスはクリーンの魔法をサンドウォームの死体にかける。直ぐに匂いは無くなった。
「これで大丈夫かな?」
「先にやっとけ!」
周りから野次が飛ぶ。そしてサーシャが鑑定を始めると、
「凄い…」
そう一言漏らした。
「どうしたんだい、サーシャ?」
「いえ…サンドウォームの魔石って、大抵汚れているんですが…」
「そうだね。色が真っ黒だ。しかもでかい。」
「これをみて下さい、アンジェラさん。」
そういってアンジェラに魔石を見せるサーシャ。そこにあったのは、真っ青な色のボーリングの玉ほどの大きさの魔石だった。
「これは…!」
「一撃で倒したとしか思えません。」
「フィリス、あんた、どうやったんだい?」
「知られたくないこともあるんです。余り追求しないのが冒険者でしょう?」
「…そうだね、悪かった。この魔石達は換金させて貰って良いかい?」
「勿論です。」
「暫く預かって鑑定をするから、待ってて欲しい。で、試験だけど…」
アンジェラは一呼吸置いて、
「合格だ。むしろ、黄じゃなく赤まで上がって貰うよ。」
「それって…」
「あぁ。あんたはAランクだ。で、エレメントドラゴンもSランクからは下がるがAランクだよ。おめでとう。」
「良かったぁ!」
「…フィリス様、おめでとう御座います。」
「やりましたね!」
「今夜はお祝いですね!」
「パパ、おめでとう!」
四龍とミロに抱き付かれて少し困惑するが、その後は屋敷に戻り、ささやかながら宴会をした。その場にアンジェラとサーシャも来てくれて、一緒に喜んでくれた。
読んで下さっている方々、有難う御座います。