第47話
フィリスが騎士を辞め、新しい道へ進んだ次の日、騎士学校の校長室ではマティーナ、テッド、ティファが集まっていた。
「…で、フィリス君は冒険者になるそうだよ。」
「そうなんですね…」
「しっかし、その隊長も馬鹿だな。」
「フィリスはよく我慢したわね。」
「元々フィリス君は、カーマイン君達とこの学校で学ぶ事を約束していたからね。その負い目もあったらしい。カーマイン君に迷惑がかからないように騎士になって、まさか勤務した先があんな事になっていただなんて、私も思ってなかったよ。今後はしっかりと見定めてから生徒達を送り出さないとね。」
「はい、校長先生。」
「でも水臭ぇな、会いに来てくれても良かったのに…」
「そうだね、でも近々彼等にお願い事を頼もうと思っているから。直ぐに会えると思うよ?」
「それまで私達も…」
「あぁ、しっかりと仕事をしよう。」
そういって、3人で笑いあった。
さて、砂漠の街では、
「へっくしっ!」
フィリスがくしゃみをしていた。
「フィリス様、風邪ですか?」
ランファが心配そうに聞くと、
「いや、噂話だと思う。」
そうフィリスは答えた。フィリス達は朝早く起きて、冒険者ギルドに向かっていた。フィリスの冒険者登録をするためだ。
「あらかじめ話はしてありますが、何を言われるか心配です。」
「皆の時は何か言われたのかい?」
「…特に何も。」
「ただ、女5人で行って、ミロちゃんは年齢制限の為駄目だと言われて…」
「私達もどういう理由か聞かれたのです。…3時間程。」
「あの時は暇だったよ…」
そんな話をしていると、冒険者ギルドの建物の前に来た。扉を開けて中へと入る6人。受付嬢の前まで行くと、
「あら?エレメントドラゴンの皆さん、おはよう御座います。」
「おはよう御座います、サーシャさん。」
サーシャと呼ばれた女は四龍とミロを見て、
「済みません、皆さんに紹介出来るほどの仕事はまだ入ってません。」
「いえ、サーシャさん、今日は別の用事です。」
「そうですか…って、この方は?」
フィリスに気付いて質問するサーシャ。
「私達の主…」
「…フィリス様です。」
「えっ、この人が!?失礼しました、砂漠の街で受付嬢をしているサーシャと言います。初めまして!」
「フィリスです、初めまして。皆がお世話になっています。」
「いえいえ、私達の方が助けられています!難関なクエストも熟してくれる、貴重な上位ランカーですから…」
「そうですか、彼女達が認められ、褒められることは自分の事のように嬉しいです。」
「それで…用事とは?」
サーシャがランファの方を見て言う。ランファは、
「フィリス様の冒険者登録に来たのです。」
と答えた。
「あの話…本当だったのですね…」
「…?」
「いつかは解りませんが、エレメントドラゴンの4人から1人ギルドに加入して貰いたい方が居られると聞いていました。それがまさか、貴方だとは…」
「…何か問題がありそうですね。」
「…はい。あっ、先に手続きを済ませましょう。話はそれからでも問題ありませんので…」
そう言うと、サーシャは1枚の紙をフィリスの前に差し出した。
「えっと、この紙に氏名と年齢、出身地、得意な武器、得意な魔法、出来ること全般を書いて下さい。」
フィリスは20歳、ソーン村、素手、四大属性魔法、建築等様々な事を記入した。
「書けました。」
「では紙を預かります。質問しますので、この水晶に手を当てながら正直に答えて下さい。」
そういってサーシャは大きな水晶の玉を取り出す。フィリスはそれに手を当てる。
「まず、本名は?」
「フィリスです。家名は…ありません。」
「年齢は?」
「20歳。」
「出身は?」
「ガデル王国から離れたソーン村です。」
「得意な武器は?」
「素手…というよりは何でも使えます。…その紙に書いたことですか?」
「あぁ、疑問に持たれると思っていました。皆さんそうですから。実はこの水晶、嘘を見抜く事が出来るんです。例えば…ミロちゃん、触れてみて。」
ミロが水晶に触る。
「ミロちゃん、貴方は20歳ですか?」
「うん!」
そう言った瞬間、水晶が真っ赤に染まる。
「と、このように嘘か真実かが解るのです。嘘が一つでも解った時点で、その方は冒険者にはなれないのです。」
「なるほど…」
「でも、貴方は問題無さそうです。ここまで嘘は一切ないですし、今冒険者は多く必要ですし…冒険者として認めます。」
そう言うと、サーシャは黒いペンダントをフィリスに渡す。
「これが冒険者の証です。」
「真っ黒ですね…」
「功績が認められたり、多くのモンスターを討伐すると、ランクが上がります。最初は黒から、そしてある程度頑張れば青、緑、黄、紫、赤、白の順に上がっていきます。」
「では皆は…?」
「最上級の白です。Sランクとも言われていますね。途方もない時間が本来必要なのですが、彼女達は異例のスピード、僅か2年弱でそこまで上がったのです。」
「そうなんですね…」
「で、ここからが大切なお話しです。エンレンさん、スイレンさん、ライファさん、ランファさん。フィリスさんを貴女達のギルド、エレメントドラゴンに入れると言うことは、貴女達のギルドのランクを下げなければならないんです。」
「どういう事ですか?」
「新米冒険者を現存のギルドに入れる場合、そのギルドのランクを平均的なランクに落とすことになる、それが決まりなのです。つまり、貴女達が今まで受けて来たクエストよりも、下位のクエストしか受けられなくなります。」
「具体的に、今Sランク、白ですが、どのくらい下げられるのでしょうか?」
「Cランク、黄までですね。そのクエストにもフィリスさんを連れては行けません。」
「そうですね、解りました。」
「ランファ、良いのかい?」
「勿論です。フィリス様の実力なら、あっという間に上がれます。」
「上がれなくても、何とかします!」
「…だって、フィリス様は。」
「私達の大切な人ですから!」
「そうだよ!」
皆の言葉に感謝しても足りない、そう思うフィリスだった。と、そんな話をしていると、奥の階段から女の人が1人降りてきた。
「朝から騒がしいねぇ…何事だい?」
女はそう言うと、フィリスの方を見る。
「おや?見ない顔だね…新人かい?」
「初めまして、フィリスと言います。」
「礼儀正しいねぇ、好感が持てるよ。あたしはアンジェラ。宜しく。で、エレメントドラゴンとなんで一緒に居るんだい?」
「今日から新しいメンバーなんだそうです。」
「…そうか。ランファ、あんたが前に言っていた大事な人かい?」
「そうです。」
「確か騎士団勤務じゃ無かったのかい?」
「ちょっとありまして、騎士は辞めました。」
水晶に触ったままのフィリスだが水晶は反応しなかった。
「ふむ…まあ、うちには騎士を辞めた連中も多いから、問題ないさね。でも、仕事は仕事、しっかりやってもらうよ。」
「勿論です。」
「ふっ、気に入ったよ。どうだいフィリス、入ったばかりのあんたを、一気にCランク、つまり黄まで上げてやる代わりに、あたしのクエストを受けないか?」
「…内容次第ですが?」
「なーに、簡単さ。最近サンドウォームが増えて来ていてね。砂漠を通るのが大変らしい。どうだい、サンドウォームを倒してくれないかい?」
「アンジェラギルド長、それは…!」
「あんたは黙っときな。どうだいフィリス、やってみるかい?」
「やります。」
「そうかい。なら、エレメントドラゴンの4人は手出し無用、てか家に居て貰う。1人で行ってきてくれ。期限は無し、証拠は魔石だけで…」
「いいえ、死体を持ってきます。」
「解った。楽しみにしてるよ。」
はっはっはっと笑ってギルド長は2階へ戻っていった。
「そんなわけだから、皆は家に居て欲しい。」
「解りました。」
「…気を付けて下さい。」
「色々準備した方が宜しいかと…」
「そうですね、水とかは何とかなるでしょうが…」
「パパ、頑張ってね!」
「ちょっ、皆さん!?」
慌てているのはサーシャだけだった。
「入ったばかりのFランク、黒のフィリスさんが1人でサンドウォームに挑むんですか!?」
「そうですね。」
「無茶ですよ!一個騎士団級の化け物なのに!?」
「大丈夫です。5年前に倒していますから。」
「はぁ!?」
「じゃあ行ってくる。」
「はい!」
「…フィリス様。」
「ご武運を!」
「料理して待っています。」
「気を付けてね!」
そう見送られて、フィリスは砂漠へと向かった。
読んで下さっている方々、有難う御座います。




