第42話
テッドとティファとの戦いの翌日、フィリスはミロと四龍と共に国境の砦に向かって出発した。出発の際、カーマインとマチルダからは激励され、コールとネーナからは泣き付かれて大変だった。リースやバン達執事やメイド達も寂しそうな顔をしていたが、余り長くいると名残惜しくなるので、出発したのだった。ミロはゆっくりと飛んでいる。勿論、全速力でとばせば30分程で着くのだが、予定では明日到着すれば良いので、のんびり行こうと言うことになっていた。それでもガデル王国東の砂漠を越えて、暫くすると砦が見える。予想以上にミロは飛ぶスピードが上がっていたようだった。
「もう着いちゃうんですね。」
「…なんか拍子抜け。」
エンレンとスイレンがそう話す。
「フィリス様、以前仰った通りで宜しいのですか?」
着く前にライファがフィリスに確認をする。
「うん。さっき通った砂漠の村からなら、私の知らせは届くだろうし、直ぐに駆けつけられるだろう?」
「私達は冒険者として、砂漠やこの周辺のモンスターの駆逐をしておけばいいんですね?」
ランファがそう言うと、フィリスはコクリと頷く。
「恐らく安全が確認されれば、私も直ぐにガデル王国に帰れると思う。それで無くても砂漠や森には危険なモンスターが多いからね。皆なら、余裕でモンスターも倒せるし、安心して任せられるから。」
「たまにはフィリス様に会いに来ても良いですよね?」
エンレンがそういう。
「毎日だと困るけどね。」
「…回収した魔石とか素材はどうしましょうか?」
スイレンが質問する。
「皆の生活費にしたら良い。人の世で暮らすことは中々難しいから、その辺もしっかりと…ね。」
「ソーン村はどうしますか?」
ランファが申し訳なさそうに質問する。
「たまに行ってきてくれないかな?私は恐らくそんなに帰れないだろうし、折角育った花を枯らすわけにはいかないから。」
「了解しました、フィリス様。ご意志にそえるように頑張ります。ですが…その…」
ランファが照れながらそういって続ける。
「せめて別れの前に…抱きしめては頂けませんか?」
そう言うと、四龍全員が顔を赤らめながらフィリスを見つめる。
「…ミロ、この辺りで良い。降りてくれ。」
砦近くの森にミロは着地する。フィリスは人の姿になったミロ、エンレン、スイレン、ライファ、ランファの順に抱きしめて、額にキスをする。
「フィリス様…」
「…有難う御座います。」
「何時でも何時までも私達は…」
「貴方様に従います。」
「パパ、お仕事頑張って!」
「ミロ、皆の言うことをしっかり聞くんだよ。エンレン、スイレン、ライファ、ランファ。後は頼む。」
そういってフィリスは1人、砦に向かって歩き出した。その背を見えなくなるまで5人は見つめた。
砦に到着したフィリスは、門番に話しかけた。
「済みません、私はフィリス・ハーヴィ。明日からこの砦に勤務せよと言われた、ガデル王国騎士団の者です。」
そういって書状をみせると門番は、
「そうか君が…既に受け入れ態勢は出来ている。ここの2階に隊長室があるから行ってくれ。」
そう言われて2階に上がり、隊長室と書かれた部屋をノックする。
「入れ。」
そう聞こえたので、フィリスは中へと入り、隊長の机の前に立つ。
「フィリス・ハーヴィ、明日からこちらでお世話になる予定の新人です。」
「む…?明日では無いのか?」
「一日早く到着しましたので…駄目でしたか?」
「いや、では明日から仕事をしてもらおうか。この部屋を出て右に真っ直ぐ行くと、お前達の部屋がある。今日非番の者がいるはずだから、そいつに話を聞け。」
「解りました、失礼します。」
そういってフィリスは隊長室を出た。
暫く行くと大きな部屋があった。20人程が泊まれる大きな部屋だ。その中に起きている者が3人いたのでフィリスが話しかける。
「済みません、隊長からここで話を聞くように言われたのですが?」
「ん、お前がフィリス・ハーヴィか?おかしいな、到着は明日じゃなかったか?」
「想像以上に早く着きましたので。」
「まあいい。荷物は?」
「この中に…」
フィリスは小さな袋を取り出すと、その中から衣類や雑貨を取り出した。
「これは…収納魔法つきか!?」
「はい。校長先生から教えて貰って、自分で作りました。」
「そうか…噂には聞いていた。あのマティーナ・ティル先生の教え子…この100年内での最優秀生徒がここに来るとは聞いていたが…あっ、ベッドはそこで、ロッカーはそっちの右端だ。まあ、腐らず頑張れよ。」
最前線と聞いていたのだが、何とも落ち着いた様子ではあるのだが…フィリスは既に違和感を覚えていた。仕方なくロッカーを開くと、カビ臭い。いや、カビだけではない、様々な悪臭が立ち篭めていた。仕方なくフィリスはクリーンという、匂いや汚れを落とす魔法を使う。すると、綺麗になったロッカーがそこにはあった。その中に衣類を入れて、雑貨はベッドの下に入れて、ベッドに座る。
「可愛そうになぁ…」
「明日から地獄だぞ…あいつ…」
そんな声が聞こえてきたが、フィリスは本を取り出して読み始めて聞いていないふりをした。
翌日、フィリスは隊長室に呼び出されて、
「そんなわけでフィリス、お前の仕事は先ずは雑用だ。お前はこの砦の中で1番下っ端なんだ。上司の言うことをしっかり聞いて、精進しろ。先ずは洗濯、その次は掃除、食事の準備をしろ。」
そう告げられて、フィリスは隊長室から追い出された。洗濯場に行ってみると、汚れた衣服や破れた衣服が乱雑されていた。そして汗臭い。
「…クリーン。」
一瞬にして汚れが落ち、汗臭さもなくなった洗濯場で、フィリスは1枚1枚衣服を畳んでいく。名前は書かれていたので、各人事に分ける作業も忘れてはいない。そして掃除に取りかかるが、どの部屋も汚く、異臭がする。各部屋、廊下でフィリスはクリーンを使い、塵一つ残さず綺麗にする。食事の準備にキッチンに行くと、腐った物が沢山置いてあって、料理どころでは無い。流石に腐った物をクリーンで綺麗にしても食べれはしないので、ゴミ箱にまとめて入れて、外に出して火魔法で燃やす。そして再びキッチンに戻りクリーンをかける。
「本当に便利だな、この魔法。」
実はフィリスは最初固有魔法の一部を学ぶことは否定的だった。それは、魔法のキャパシティの問題だったのだが、それを解決してくれたのは四龍との契約だった。四龍との契約により、普通の人間のキャパシティを遙かに超えたらしい。普通の人間のキャパシティを100とするなら、四龍1人に対して100ずつ上がったらしく、今現在常人の5倍のキャパシティをフィリスは持っていることになる。そのお陰で、元々キャパシティを埋める恐れのあった魔法でも、使うことが出来るようになっているので、フィリスはマティーナから役に立ちそうな固有魔法を修得した。ゴーレム召喚、ヒール、キュア、リカバリー、クリーンから勿論、ゼノヴィスが使っていたサイキックさえも修得したのだった。さて、綺麗になったキッチンで使えそうな食料を探すが、なにも無かった。仕方なく、フィリスはたまにやってくる行商人に交渉を持ちかけた。食材の費用に関しては国が持つので、定期的に補充してくれるように頼み、今ある食料だけは砦にあった金貨と交換して貰った。
「さてと、料理をするか。」
そうしてフィリスは1時間ほどでガデル王国で馴染みの深い郷土料理を作る。その匂いに誘われて、駐屯騎士達が集まってきた。フィリスが皿に盛ってやると、全員が美味しいと言いながら何杯もおかわりをしてあっという間に無くなった。
「そう言えば、この近くの森に食料になる動物を狩りに行きたいのですが?」
「隊長に進言するしかない。」
先輩騎士に言われて、フィリスが隊長に進言すると、朝早くなら行っても良いと許可を得たので、フィリスは翌日から狩りに行くことにした。
読んで下さっている方々、有難う御座います。