第41話
次の日、フィリスはソーン村に帰った。そして直ぐにお墓へと向かう。この2年半で、お墓の前には立派な花畑が出来上がっていた。四龍とミロのお陰だ。そのお墓に皆で祈りながら報告をする。
「父さん、母さん、皆。昨日無事に騎士学校を卒業しました。そして、騎士団に配属されました。配属先はここから遠いフレデリック王国との国境の砦です。中々会いに来れませんが…元気にやっていきますから、安心してください。」
そういって手を合わせるフィリス。その様子を見て、ミロ達もお墓に手を合わせる。暫く後、フィリスは四龍に頼み事をする。
「皆と手合わせをしたい。」
「フィリス様!?」
「…どうしてですか?」
エンレンとスイレンが驚き、質問する。
「…テッドとティファと戦う前に、少しでも訓練をしておきたい。万全の状態で臨まなければ、2人に失礼だと思うんだ。」
「フィリス様…」
「解りました。」
ライファとランファがそう答える。そしてソーン村から離れた場所で、フィリスと四龍の戦いが始まった。
その翌日、テッドとティファは騎士学校のグラウンドの中央でフィリスの到着を待っていた。少し離れたところにはマティーナとカリナも立っていた。
「おかしいなぁ、約束は今日の昼だった筈なんだけど…」
「まさかフィリス君、時間を間違えているんじゃ…」
そう心配するマティーナとカリナ。しかしテッドとティファは落ち着いてフィリスの到着を待つ。と、4人が空を見上げると、巨大な鳥がこちらへと飛んでくるのが見えた。間違いなくミロだった。ミロはグラウンドの中央へ降り立ち、その背からはフィリスと四龍が降りてくる。と、四龍はいつもと変わらない格好なのだが、フィリスだけは衣服がボロボロだ。
「待たせたね、2人とも。」
「…フィリス…お前…!?」
「いったい…何があったの!?」
「2人と生半可な状態で戦うのは失礼だと思って、四龍の皆と訓練をしていたんだ。」
「でも…その格好…」
「あぁ、怪我は治せるけど、服は直せないから。でも、関係ないよ。」
そう言うとフィリスは腕輪と指輪を取り出し、両腕に腕輪を、右中指に指輪を装着すると、籠手と軽鎧を具現化させる。軽鎧が守っていない部分が破れていたようで、肌が露出している部分は隠れていなかった。
「さてと、準備は出来ている。早くやろう!」
「あぁ!」
「フィリス、本気でやってよね!」
ティファにそう言われ、フィリスは右手首に着けていた金色の腕輪を外し、地面に落とした。
「まさか…!」
「…フィリス様!」
「私達との訓練の時は…!」
「本気では無かったというの…?」
「パパ、頑張れ!」
驚愕の顔をする四龍、その横で無邪気に応援をするミロ、そしてマティーナとカリナが審判を勤めて、戦いが始まった。まず突っ込んだのはテッド。一気に間合いを詰めて大剣を横薙ぎに振るう。その攻撃をフィリスは跳躍して躱す。しかし、そこにティファが風魔法で空を飛び、双剣で斬りかかる。その攻撃をフィリスは右の籠手で防ぐと、下ではテッドが魔法を詠唱し、
「いけ、フローズンプリズン!」
一気に水魔法をフィリスに目掛けて放つ。しかしフィリスは右の籠手に力を込めてティファを吹き飛ばし、その勢いでテッドの魔法を避ける。それを解っていたのか、ティファが詠唱を完了して、
「フレアバースト!」
火魔法を放つ。フィリスは左の籠手でそれをテッドの方へと弾き飛ばす。テッドは飛んできたフレアバーストを大剣で一刀両断し、テッドの左右で大きな爆発が起こる。
「凄い…」
「最早人間レベルじゃ無いですよ!?」
マティーナとカリナがそういうと、今度はフィリスが着地すると同時にテッドに接近し、頭を掴む。
「なっ!?」
次の瞬間、フィリスはテッドの顎に目掛けて右足で膝蹴りを見舞っていた。
「ガフッ!」
凄まじい衝撃に、テッドは意識を持って行かれたようで、両膝を着いた。
「テッド!?」
ティファがそう叫びながら空中で高速移動をしながら突っ込んできた。フィリスは落ち着いて、風魔法で飛行すると、双剣の攻撃を躱してティファの右足を掴み、地面に向かって急降下して、勢いそのままに地面に叩きつけた。
「がっ!?」
頭から叩きつけられて、ティファも意識を失った。
「そこまで!」
マティーナの声が響き渡り、勝負は決した。フィリスは直ぐにデザートイーグルを召喚して、回復弾を2人に撃ち込む。外傷は殆ど無いが、脳震盪を起こしていたので、中々目を覚まさなかった。1時間ほどして、2人とも目を覚まして、
「…あー、やっぱり負けたか…」
「そうね。でも…楽しかったわ。」
そう話した。
「2人の連携は見事だったよ。でも、まだお互いの攻撃が当たるんじゃ無いかって心配なんだろうね。私には通用しなかったけど、並大抵のモンスター相手なら何とかなるよ。」
「…並大抵…か。四龍の皆には勝てないな。」
「…そうね。」
「でも、2人ともなんで私と戦いたかったんだ?」
フィリスが疑問を口にする。
「もしお前が敵になったら、止められるか試したんだよ。」
テッドがそういう。
「まあ、結果は無理だってわかったけどね。」
「…私が魔物になると思ったのか?」
「いや。そうじゃねぇよ。」
「多分フィリスはフィリスのまま、別の国に行っちゃうんじゃ無いかって…思ってね。」
ティファのその言葉に、考えさせられるフィリス。
「…私は、個人的に誰かの敵になるつもりはありません。しかし、いずれ私はこの国を出るとは思います。でも、2人とも、誰とも敵対したいと思ってはいません。」
「解ってるさ。でもな、親友として、お前を止める抑止力にはなりたいなって思ったんだよ。」
「大事な友達のために、命をかけたい。それは大切なことだから…」
そういう2人を、フィリスは強く抱きしめた。そのフィリスを優しく抱きしめ返す2人。
「良いなぁ…」
「…うん。」
「親友としての強さ…か。」
「私達には私達の強さがありますが…うるっときますね。」
四龍は少し泣いていた。そしてミロはこんな時なのに眠っていた。
「フィリス君、オルステッド君、ティファ君、納得したかい?」
「はい。2人は…私の大切な親友です。これからもずっと…」
「今日改めて実感しました!」
「先生、有難う御座いました!」
そう言われてマティーナも喜びの顔を見せた。これから3人は別の道へ進むが、これからも親友であること、それを再認識することが出来た。
読んで下さっている方々、有難う御座います。