第40話
それからあっという間に2年半が経過した。何事も無くフィリスはテッド、ティファと共に学業に励んだ。そのお陰で力を制御されながらも2年目、3年目の武道大会もフィリスは優勝し、過去最高の生徒ともてはやされていた。遠征訓練も、共に行く人間は少し問題のある生徒ばかりだったが、教師顔負けの的確な対処が出来ており、差別すること無く接する事が出来ていた。たまにソーン村へと戻り、ミロと四龍から甘えられ、その度にどう接すれば良いのか、勉強していた。そして今日、フィリス達は騎士学校を卒業する日になった。
「なんか…あっという間の3年間だったな。」
「そうね。でも、本当に濃い内容の3年間だったわ。」
テッドもティファも恐ろしく成長していた。何せたまにガデル王国騎士団が訓練をしているところに呼び出されて、10人以上を同時に相手しても余裕で倒せるほどになっていたのだから。元々1年目の夏には既にサンドウォームを倒せていたのだ、まだまだいけると本人達は言っていたが、それ以上で戦うと、騎士達の方が自信を無くしてへこたれそうだったのでマティーナが止めたのだった。
「さて、卒業試験の準備は出来ているかい?」
校長室でマティーナがフィリス達3人に聞くと、3人とも頷いた。そして4人でグラウンドへと向かった。そこには全生徒、全教師が集まっていた。いや、それだけではなく、その家族達もいた。最早グラウンドの観覧席は満員御礼状態だった。グラウンドの中心に4人が来ると、マティーナが全員に向かって喋った。
「皆さん、お待たせ致しました。校長のマティーナ・ティルです。今日は私が特別クラスに推挙し、3年間頑張った3人を紹介します。勿論、実戦形式でね!」
ワーッ!と、観覧席から声があがる。直ぐにそれも収まり、マティーナが再び喋る。
「先ずはオルステッド・ヴァーミリオン君。彼は立派に水と雷の魔法を学び、その上で大剣を始めとした重量武器のスペシャリストになりました!」
そう紹介され、テッドは右拳を振り上げ、1歩前に出た。観覧席から大きな声援が送られる。
「次にティファ・カルマ君。彼女は火と風のスペシャリスト、そしてナイフなどの軽装武器を始めとして、様々な武器を扱えるようになりました!」
そう紹介され、風魔法で空に浮かび上がり、観覧席を一通り飛んでみせるティファ。無事に着地して、マティーナが再び紹介に戻る。
「そして、この騎士学校始まって以来、初めて武道大会3連覇を達成し、学べることは何でも学んだ今期最強の生徒、フィリス・ハーヴィ君!」
控えめに一礼をするフィリス。矢鱈と女性受けが良いようで、黄色い声援が多かった。
「紹介はこれぐらいにして、彼等の卒業試験を始めます。先ずはオルステッド君、前へ!」
そう言われてテッドが前に出る。するとマティーナは詠唱を始め、アイアンゴーレムを召喚した。しかも昔フィリスの入学試験の時に使用したゴーレムよりも更に進化したゴーレムだった。この3年でマティーナも強くなっているので当たり前だが。
「ではオルステッド君、始めて下さい。」
マティーナの声と共に、テッドは抜剣して大剣を構え、一気に間合いを詰める。アイアンゴーレムは振りかぶり、拳をテッドに目掛けて突き出す。しかしテッドはその拳に向かって大剣で斬りかかる。すると、アイアンゴーレムの拳は、チーズのように裂けていき、遂には胴体まで一刀両断され、アイアンゴーレムは動かなくなった。観覧席からは大歓声があがった。召喚されていたアイアンゴーレムは直ぐに消えた。
「では次はティファ君、前へ。」
テッドとティファがグラウンドの中央でハイタッチをして入れ替わる。同じくマティーナがアイアンゴーレムを召喚し、合図が出されると、ティファは距離を取りながら、短い詠唱をする。中級魔法以上は詠唱が必要、この世界の魔法理論ではそうであり、上級になればなるほど詠唱が長く必要…なはずだったが、詠唱時間僅か3秒で、
「フレイムソード、ウインドソード!」
2つの魔法を同時に使用して、右手にフレイムソード、左手にウインドソードを召喚してみせる。そしてその後は間合いを一気に詰めてスピードで翻弄しながら切り刻んでいく。足、腰、胸、腕、頭と順に斬り裂き、最後は両手で同時に頭から両断していく。アイアンゴーレムはぐるぐる回りながら拳を振り回していたが、一発も擦る事無く倒されてしまった。それを見ていた観客も、勝負がついたのと同時に大歓声をあげる。
「では最後に、フィリス君、前へ。」
そう呼ばれて前に出るフィリス。珍しく詠唱を始める。
「我が呼びかけに答え、その姿を現せ!」
周りはなぜフィリスが詠唱しているのか解っていない。マティーナでさえもフィリスが詠唱しているのを見たのは初めてだった。直ぐに詠唱が終わり、フィリスが叫ぶ。
「出でよ、ゴーレム!」
フィリスが叫ぶと同時に、地面からゴーレムが現れた。ただゴーレムが現れただけならば、観客もマティーナ達も驚きはしなかっただろう。しかし出現したのは100を優に超えるおびただしい数の大小入り乱れたゴーレムだった。この短時間で、元々出来ないはずだったゴーレム召喚を、マティーナを越える数を出したのだ。観客は全員口をあんぐり開けて、呆気にとられていた。
「相変わらず…洒落にならないことをするね…君は…」
「そうですか?」
「うん…ゴーレム召喚の魔法の域を超えているよ…」
マティーナも驚いていたが、それでも気を取り直す。そしてフィリスがゴーレムをしまうと、
「それでは3人の進路について話すよ。先ずはオルステッド君、君はこの騎士学校の運動系の教師になって欲しい。」
「はい、解りました。」
「次にティファ君、君も同じくこの騎士学校の魔法系の教師になって欲しい。」
「有難う御座います、これからも精進します!」
「最後にフィリス君…」
そこまで言ってマティーナが1度深呼吸をする。観客も固唾を呑んで見守っている。
「フィリス君、君はガデル王国騎士団、フレデリック王国との国境の砦に配属される。」
「…は?」
「…え?」
それを聞いて驚いたのは、観客やテッド、ティファだった。
「ちょっと待って下さい、校長先生!」
テッドが大声を出す。
「何でフィリスがそんな辺境に!?」
「おかしいですよ!」
「うん…私もおかしいと思った。だから、説明は別の人にやって貰う。ねぇ、カーマイン君?」
そう言うと、カーマインがグラウンド中央へやってくる。
「皆さん、突然済みません。私はカーマイン・ハーヴィ、ガデル王国騎士団団長です。今回の人事の話なのですが、確かにフィリスは優秀です。しかし、私の義理の息子と言うことで、更に強くなって欲しいとの陛下の要望により、未だモンスターの多いフレデリック王国との国境の砦に配属される事になったのです。勿論、フィリス本人が承諾すればですが…」
そう言うとカーマインがフィリスを見る。マティーナ、テッド、ティファだけでは無い。その場にいる全員がフィリスの方を見ていた。フィリスは目を瞑り、少し考えて、
「解りました、行きます。」
そう答えた。カーマイン達は安堵の表情をみせて、
「フィリス。早くて悪いが5日後には到着してほしいそうだ。」
「と言うことは、明日には出発しろと言うことですね?」
「…そう言うことになる。」
何とも急な話だが、フィリスは笑いながら、
「解りました。」
そう答えた。そしてその言葉を聞いた以上、観客もなにも言えなかった。
さて、話が終わってフィリス達は校長室に戻ってきた。
「フィリス、本当に良いのか?」
「何が?」
「普通、貴方ならもっと上の地位から始まってもおかしくないのに…」
「まあ、のんびりやるさ。」
「危険な場所なのに、余裕だね?」
「いや、ようやくこの日が来ましたから。」
そうフィリスが告げると、校長室の窓を開けて、指笛を鳴らす。ピュイッ!と気持ちの良い音が鳴ると、ミロとその背に乗った四龍がグラウンドに降り立った。
「パパ!」
「フィリス様!」
「…ご卒業おめでとうございます。」
「これで晴れて大人の仲間入りですね!」
「長い間、私達も待っていました!」
「皆、久しぶり。やはり空から見ていたんだね?」
「はい!」
「出発は4日後、その後一日かけてフレデリック王国の国境の砦に行くけど…ミロ、一日で行けるかい?」
「任せてパパ、半日もあれば充分だよ!」
「いざとなったら我々もいますからね。」
「さて…と、暫く会えなくなるし、明日はソーン村に行って、帰ってきたらミロの休みを作る。それから出発しよう。」
そういって帰ろうとするフィリス達。だが、それに納得していないテッドとティファがいた。
「フィリス、俺達と勝負してくれ!」
「今日じゃ無くて良いし、出発までに…お願い!」
そう言われて、フィリスも納得したようで、
「明後日の昼、私達が帰ってきたら…それで良いかな?」
「解った…」
「必ずぎゃふんと言わせてみせるわ!」
審判はマティーナとカリナが勤めることになり、観客は入れずにこの騎士学校のグラウンドでやることを決めて、その日は解散になった。
読んで下さっている方々、有難う御座います。一日一話、頑張りますので、応援宜しくお願い致します。




