第39話
朝になり、フィリスはガデル王国へ帰ることになった。その際、四龍は悲しそうな顔をしていたが、会おうと思えば何時でも会えるし、また会いに来るとのフィリスの言葉を聞いて笑顔になる。フェニックスの姿に戻ったミロの背中に乗り込み、ソーン村を後にする。暫く飛んでいると、ミロが話しかけてきた。
「パパ、下の様子が変だよ?」
フィリスが下を見ると、土煙をあげて物凄い勢いで走っている集団を発見した。その進路は…ガデル王国だ。
「…ミロ、全速力で頼む!」
「任せて!」
最速で飛ぶミロ、それに捕まるフィリス、僅か10分程でガデル王国のハーヴィの屋敷の上に到着し、
「ミロ、直ぐにソーン村に戻ってくれ。そして皆に直ぐに来るように伝えてくれ!」
そう告げると庭に目掛けて飛び降りる。ミロは方向転換し、ソーン村へ向かう。フィリスは風魔法で着地に成功し、直ぐに庭の窓から屋敷に入る。
「あら?フィリス様、お早い上に変なところから入ってきましたね?」
「リースさん、カーマインさんは?」
「まだお休みですが?」
「急いで起こして欲しい。」
「なんだ、フィリスじゃないか?」
階段の上を見ると、カーマインが降りようとしていた。
「もう少しゆっくり眠ろうと思っていたけど…何かあったのかい?」
「カーマインさん、今すぐこの国の全勢力を集めて下さい。」
「…へ?」
「あと1時間ほどで、モンスターの大群がこの国に来ます!」
「なんだって!?」
「さっきミロに送って貰って、上空から見ました!」
「解った、城下町の人々にも知らせよう!私は城へ向かう!」
カーマインは急いで準備して城へと向かった。フィリスは城下町を囲う防壁の警備員達に進言に向かった。
1時間後、モンスターを迎え撃つ準備は整っていた。防壁の上でカーマイン率いる精鋭騎士団約150人が外を警戒していると、凄まじい勢いでこちらに向かってくる土煙が見えた。
「あれが…全部モンスター…なのか…?」
「恐らく魔物の生き残りが組織しているのでしょう。」
「フィリス、四龍は?」
「既に到着してますけど、彼女達にはそれぞれ別の場所を守って貰っています。」
「そうなのか?」
「だからこそ、正面に全勢力を向けていられるんですよ?」
「いや、その作戦、聞いていないのでな…」
「カーマインさんは忙しそうにしていましたから…」
そう話していると、伝令がやって来た。
「申し上げます。偵察部隊からの報告、モンスターの数、約2000体。うち、ゴブリンが1000体、トロール、ミノタウロスが200体前後、ラウンドウルフが600体前後、それと…」
「それと…なんだ?」
「見たことの無い人型のモンスターがいたと。恐らく魔物では無いかとの報告です。」
「フィリス、どうする?」
「…」
流石にこのままガデル王国に接近されるわけにはいかない。フィリスはふと考えて、
「…試してみたい方法があります。」
「どんな作戦だ?」
「それは…公表されたくないことですので言えません。」
「…解った。魔物とまともに闘えるのはフィリス、君だけだ。雑魚は私達に任せろ。」
「いや、まとめて倒します。」
そう言うと、フィリスは防壁から外の方へと飛び降りて、降りながら右手にコルトパイソンを召喚する。そして左手に意識を集中する。
「エンレンから貰った火力、スイレンから貰った制御力、ライファから貰った飛距離、そしてランファから貰った範囲、その全てを込めて…」
そう呟き、魔素を左手に込める。すると左手から眩い光が漏れる。手を開くと、そこには虹色に輝く1発の弾丸が出来上がっていた。
「これなら…!」
その弾丸を、コルトパイソンのシリンダーに入れ、撃鉄を起こし、
「喰らえ、アルティメットバレット!」
接近してくるモンスターの方向へと発射した。ズドンッ!と音をたてたコルトパイソンのその反動で、フィリスの体は防壁にめり込んだ。だが、発射された弾丸は光よりも早くモンスターへと到達し、その内の1体のゴブリンに直撃すると、一気に大爆発を起こす。凄まじい衝撃波を引き起こし、巨大な爆発雲があがると、そこにはクレーター以外何も残っていなかった。
「あのクレーターに向かう!半数は私に続け、残りは防壁を守れ!」
カーマインは指示を出すと、防壁を降りてクレーターへと向かおうとした。が、防壁の扉の前でふと気付くと、扉の横の壁にめり込んでいるフィリスを見つけた。
「フィ、フィリス!?」
息はしているが、凄まじい威力だったのだろう、その場にいた全員で壁を掘り、ようやく脱出させた。防壁は普通の堅さでは無いというのに…だ。
「あの威力…隠せという方が無理だと思うのだが…」
なんにせよ、義息の活躍を称えると同時に隠し通せるか心配になるカーマイン。そこに、マティーナが到着する。
「カーマイン君…やっぱりフィリス君が…?」
「はい。今回も私達を助けてくれました。」
「…そっか。」
そう言うとマティーナはフィリスに回復魔法をかける。
「目を覚ましたら、直ぐに私の元に来るように伝えて欲しい。それまではこの事をマディソン君にも内緒にしておくんだ。そうだね…四龍の皆…」
そうマティーナが言うと、物陰から四龍の4人がこちらを見ていた。
「マティーナさん…」
「…フィリス様は?」
エンレンとスイレンが心配そうに言う。
「大丈夫。外傷はないから、多分魔素がなくなったんだと思う。」
「そうですか…」
「良かった…」
ライファとランファも安堵の表情を見せる。
「カーマイン君、彼女達に君の屋敷までフィリス君を運んで貰おう。」
「はい。」
そうして四龍によってフィリスは屋敷まで連れて帰られた。その際、誰が運ぶかで言い合いがあったが、結局ランファがフィリスを背負って運んだ。屋敷にはミロもいて、心配そうな顔をしている。直ぐに部屋に寝かされ、その周りで皆で看病をした。
フィリスは次の日には目を覚ました。その時のミロと四龍の嬉しそうな顔は、フィリスは一生忘れないと思った。フィリスが元気になったので、名残惜しいとは思いながらもミロと四龍はソーン村へと帰っていった。そしてカーマインから元気になったらマティーナのところへ行くように言われた。体調は戻っていたので、直ぐにマティーナの元へと行く。校長室に着いてノックをして入っていくと、マティーナがフィリスを抱きしめた。
「マティーナ…先生?」
「無茶は駄目だよ、フィリス君。」
「…はい。でも、試してみたかったのです。四龍から貰った力を…」
「それは解るよ。私でもそれは思ったりするだろうけど、もう少し皆を信用しよう?騎士団も強いし、この国の冒険者達も優秀なのだから。」
「解りました。」
「で、これは私からの贈り物だよ。」
抱き付くのを辞めてマティーナがフィリスに腕輪を渡す。金色の、何の装飾もされていない腕輪だった。
「それを着けると、体力や魔素が一定以上出せなくなる。ただし、その分体の成長は今まで以上になる。これを渡すのは、2年後にしようと思っていたけど、好きなタイミングで着けて。そしたら君は更に…」
マティーナが後ろを向いてそう話始め、言い終わる前にフィリスはその腕輪を右手に装着した。
「あー、まだ大事な話をしてるのに!?」
「私は何時でもいいんです。強くなりたい、その為ならばもっと辛い授業でも耐えますよ。」
「…解った。しっかりと着いてきてね。」
「解りました。」
そう告げてフィリスは屋敷へと帰る。体に倦怠感はあるが、やる気に満ちあふれているフィリスには関係ないようだった。
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