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魔弾転生  作者: 藤本敏之
第2章
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第38話

光が治まると、フィリス達は噴水の前に立っていた。もう夜は明けているようだが噴水からは水は出ていない。キョロキョロ周りを見渡すミロと四龍達。と、フィリスだけは見覚えのある光景をしみじみと見ていた。

「フィリス様、ここは?」

「私が生まれ育った元の世界、皆にとっては異世界になるけど、大阪の高石市という場所だよ。」

そう言うと、フィリスはある場所を指差す。そこには駅があり、“高石駅“と書かれていた。

「あのぅ…」

「…フィリス様?」

「これって…」

「字…なのですか?」

確かに異世界で使われていた文字は複雑な記号のような文字であり、四龍は勿論、ミロも首を捻っていた。

「あぁ。私の母国語なんだけれど、高石駅と書かれている。」

「駅とは?」

「電車っていう、馬車より速く動く乗り物に乗り込める場所のことだよ。」

「…あれは?」

スイレンが駅の前の大きな建物を指差す。

「あぁ、商業施設アプラだね。買い物するところだよ。店が何軒も入っていて、あの場所だけで食料や服、他の雑貨も買うことが出来るんだ。」

「彼処に留まっている黒い鉄の塊は?」

「タクシーかい?車っていう馬車より速い乗り物だよ。行き先を告げるとそこまで行ってくれるんだ。お金は払わないといけないけど…」

「フィリス様、何やら怪しい人が2人、此方に近付いて来ますが?」

「彼等は…警察。騎士団や兵士のようなものだけど、治安維持の為に組織された人達だよ。」

「おい、あんたら。そんなところで何しとるんや?」

警察の1人が話しかけてくる。

「済みません、私は昔ここに住んでいたのですが、懐かしくて周りを見ていました。他の者は初めて来たので説明をしていました。」

「せやったんか。そらすまなんだな。近頃この辺も物騒になっとるし、変な病気も流行っとるから。あんたら、マスクは?」

確かに警察の2人はマスクを着けていた。フィリス達が持っていないと伝えると、駅の反対側に交番があるからと言われてついていくと、優しい警官達で、マスクを1人1枚ずつくれた。

「良いんですか?」

「あんたら余所の国の人やろ?買いもんも録にでけへんやろうからサービスや。まあ、そっちの姉ちゃん達美人やし、その子も小さい。あんたも大変やろうからな。しっかしこんななんもないところへよう来たもんやな。ヨーロッパの人か?」

「全員ドイツから来ました。」

「エヒト(本当に)!?グーテンモルゲン(おはよう)!」

「ヤー(はい)、グーテンモルゲン(おはようございます)。」

「ヴィーランゲブライベンズィーヒア(どれぐらいここに滞在するの)?」

「エトバツェーンシュトゥンデ(およそ10時間ぐらいです)。」

「ははは、えらい懐かしいわ。わい、昔はドイツに行っとったことあんねん。」

「そうなんですね。」

「悪いなぁ、突然変なこと言うて。まあ高石の観光、楽しんでや。」

そう言って笑顔で送り出してくれた。

「余り聞き慣れない言葉が飛び交っていましたね。」

「ん、方言のことかい?確かに泉州弁は解りにくいからなぁ。」

「…でも、優しい人達でした。」

「そうだね。」

「それでフィリス様、これから何処へ?」

「まだ店も開いてないし、私が育った家へ行こうか。」

そう言って北へ向かって歩いていく。


線路沿いを10分程歩くと、フィリス達は少し大きい道に出た。その道を西に向かうと、突然フィリスが看板の前で止まる。

「フィリス様?」

ランファが心配そうにフィリスに話しかける。看板には“伽羅橋遺跡・伽羅橋東遺跡“と書かれているが、ミロと四龍には読めない。

「着いた…懐かしいな…」

その看板の前に家が建っている。ピンク色の壁に窓がある2階建ての家だった。

「ここが…?」

「うん。こっちは裏側なんだけどね。」

そう言うと十字路から迂回して家の正面に周り、表札を見るが、表札は砕けていて読めない。長い間誰も住んでいなかったのだろう、かなり老朽化していた。フィリスはファーリスから預かった財布を開けると、中から鍵を取りだし、玄関のドアに近付くと鍵を差し込んで捻る。カチャッと音をたてて鍵が開いた。ドアノブを引くと、ドアが開き、中からカビ臭い匂いが立ち篭めた。

「うわっ!」

「…これは。」

「くっ、臭い!」

「こら!」

「鼻が痛いよぅ!」

皆口々に言うが、フィリスは中へ入っていく。廊下を進み、階段を上って更に廊下を進むと、3つの部屋があり、その内の真ん中の部屋にフィリスは入っていった。

「ここは…?」

「私の部屋だよ。」

最早なにも残っていないし、床は朽ちていたが、それなりに広い部屋だった。

「幼少の頃、7歳から22歳まで過ごしたんだ。たまに母親が寝ていたり、他の国に行っていたときは別の人が使っていたけど。」

「…22歳からは?」

「自衛隊っていう騎士団みたいなところに入った。そこで13年ぐらい過ごして、また帰ってきたんだ。」

「どうしてですか?」

「…真面目に仕事をしていたけど、無理が祟ってね。病気になった。その後は仕事を転々としてた。あの状態で80歳まで生きたんだから奇跡だったよ。」

「どうして病気に?」

「…上司は無茶苦茶な事ばかり押し付けるし、部下は言うことも聞かない。本当に腐りきった場所だった。いや、私も悪かったんだろうね。何でもはいはい言っていたから…」

「そんな…!」

「でも今は違う。暖かい家族が出来たんだから。」

そう言いながらフィリスはみんなの方を見る。

「実はミロは昔飼っていた犬の名前を少し変えて、好きだったアニメのキャラから取ったんだ。」

「そうなの?」

「アニメってなんですか?」

「うーん、演劇みたいなものだよ。」

難しい説明をしなければならないので、フィリスははぐらかした。

「さてと…ここに居ると思い出したくも無い事を思い出さなきゃならないから、そろそろ出ようか。」

そう言って6人は家を出た。


家から北西に向かい、大きな公園に着いた6人は、そこそこ人の多いその公園の芝生でゴロゴロしていた。フィリスはミロに膝枕をしながら座っている。

「フィリス様、モンスターもいないし、危険な動物もいない、良い世界ですね。」

「昔は危険だったんだけどね。恐竜っていう大きな生物がいたり、戦争も多くあった。今でも台風や竜巻、地震もあるし。何より魔法が無いからね。」

「確かに。魔素を感じないし、変身できないのは辛いわね。」

「フィリス様、この世界に残りたいと思わないのですか…?」

ランファがフィリスにそう告げる。フィリスは目を閉じて少し考えて、

「いや、この世界は私には辛すぎた。それに、ファーリス様がいなかったら私はただ死んでいく身だった。皆とも…会えていなかった。今が楽しいから、それで良いんだよ。」

と、笑顔で答えた。それを聞いて、四龍は嬉しそうに微笑む。と、眠っていたミロがパチッと目を覚ます。

「パパ、お腹空いた!」

近くにあった公園の時計を見ると、11時50分だった。

「じゃあ私が好きだった店に行こうか。」

そうして皆で元来た道を戻っていく。


フィリスの前世の家から北西に歩いて3分ほど歩いた場所、大きな道路の道沿いに、その店はあった。赤い提灯に“友泉“と書かれていた。

「ここだ。」

「珍しい店ですね?」

「でもこの雰囲気、嫌いじゃ無いです。」

そう話して店に入ると、カウンターに10席程の小さな店だった。

「いらっしゃい!」

店主のおじいさんが元気よく挨拶してくれた。他の客はいないので、奥の方に座る。直ぐに店主が水を出してくれる。

「あれ、水なんて頼んでませんよ?」

「この国ではお冷やはタダで出してくれるんだ。」

「…へぇ。」

「何にしましょ?」

「そうですね…カレーうどんを。」

「お嬢さん方は?」

「全員同じで。」

「他の物でも良いんだよ?」

「字が読めないですし、カレーうどんってどういう物か気になります。」

「それに、フィリス様が即座に注文した物、美味しい物なんでしょう?」

「まあ…あっ、この子だけ他人丼にしてあげて下さい。」

「なんで?ミロも同じが良い!」

「辛いんだよ?」

「辛いのやだ!」

「ははは、おでんはいりますか?」

「じゃあ一通り下さい。あっ、大根は全員分で。」

「毎度!」

おでんの盛り合わせを箸の使い方を教え、フゥフゥしながら食べていると、カレーうどんと他人丼が出て来た。それぞれ小さな他人丼とカレーうどんがついてきていた。

「あれ?」

「サービスです。」

そう言われて食べ始めると、フィリス以外やはり

カレーうどんを盛大に跳ねさせながら食べた。


お腹もいっぱいになり、再び公園に行き、今度は奥にある運河に行く。対岸には工業地帯が広がっていて、絶景とは言えないが、のどかな時間が流れていた。

「しかし…こういう時困るんだよな。」

「…?」

「フィリス様、如何したのですか?」

「のどかなのは良いんだけど、やることが無い。遊ぶ場所が圧倒的に無いんだよ、この街は。隣町まで行けば色々あるけど…ね。」

「私達は大丈夫です。」

「…こうしてるのも楽しい。」

「そして何より…」

「フィリス様が傍にいて下さるから。」

「うん!」

「…有難う、皆。」

それから運河沿いで昼寝をしていると、ファーリスとの約束の時間になり、フィリス達は再び光に包まれた。


そこにはファーリスが待っていて、ニコニコしながら、

「どうでしたか?」

と、聞いてきた。

「楽しかったです。久しぶりにうどんも食べることが出来ましたし、今の生活がどれだけ恵まれているのか、解りましたから。」

「そうですか。お土産は?」

「…あっ!」

「ふふふ、冗談です。もし向こうの物を持ち込もうとしていたら、取り上げるつもりだっただけですよ。」

笑顔でファーリスはそう話す。そして指をパチンッ!と鳴らすと、フィリス達の服装や装備が戻ってきた。

「ではお別れです。これからの人生も頑張って下さいね、フィリス。」

「はい。」

「貴方達にも幸あらんことを。」

「有難う御座います!」

「…この命に代えても。」

「フィリス様を御守りします!」

「お約束致します。」

「ミロも頑張る!」

そんな話をして、再び光に包まれた。次にフィリス達が目を覚ますと、そこは眠りについたベッドの上だった。

読んで下さっている方々、有難う御座います。まだまだ続きますので、応援宜しくお願い致します。

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