第37話
謁見の日の夜、カーマイン達に暫くソーン村に行って来ることを伝えると、コールとネーナも行きたいと言ってきたが、偶には一人で考えたいこともあると説得して、3日後に出発することにした。その間に親方の元から腕輪、指輪、短剣を受け取り、少しばかりの食料を持ってフィリスはミロを呼び寄せてソーン村に向かった。ソーン村は相変わらず人がいない、無人の廃村だった。だが普段はミロがいてくれているし、昔魔物に襲われた場所はフィリスがガデル王国に行く前に修繕技術を学ぶために直していたので、村自体は綺麗なものだった。フィリスとミロが到着すると、待ってましたとばかりに四龍の4人も寄ってくる。
「フィリス様ぁ!」
「…お待ちしていました。」
「会えなかった時間、長く感じましたよ!」
「まあまあ、皆。フィリス様もミロちゃんも疲れているのですから。」
口々にそう言ってくるが、疲れているのはミロであり、フィリスは人の姿になったミロを背負うと、村の外れへと4人と共に行く。そこには変わらず両親と家族同然だった村の人達のお墓があった。ミロを降ろし、荷物から袋を取り出す。袋の中身は植物の種だった。フィリスはそれをお墓の前に埋めた。
「フィリス様、それは?」
ランファがフィリスに質問する。
「ガデル王国にあった綺麗な花から採ってきた種だよ。きっと…綺麗な花が咲くはずだから。」
「…そうですね。」
「スイレン、水をあげてくれるかい?」
「…勿論です!」
そう言うと少し水をかけるスイレン。
「この花を私だと思って皆で育てて欲しい。中々会えないけれど、それが繋がりになるから。」
「はい、大切に皆で育てます!」
「…綺麗な花が咲きますよ。」
「太陽にも負けない光なら私に任せて下さい!」
「嵐が来ても必ず守り通します。」
四龍の4人はそう言ってくれた。と、そこでミロのお腹がぐ~と鳴った。
「パパ、お腹空いたぁ…」
「ふふっ、ミロちゃんったら。」
「待ってなさい、私がとびきりの獲物を捕まえてくるわ!」
ライファが優しくミロを撫でて、エンレンが意気揚々と森へと走っていく。その様子を見てフィリスは、
(あぁ…家族って良いな。)
そう思っていた。
さて、その日はフィリスも久しぶりにソーン村に泊まることになった。懐かしい自分の生まれた家に入り、両親が寝ていた寝室へと向かう。フィリスの部屋も復元出来ていたのだが、何分ベッドが子供時代のままだったので、ある程度成長してからは両親が使っていたベッドで寝ていた。両親は仲が良かったので、キングサイズの大きなベッドだった。と、フィリスがベッドに寝転がると、ミロと四龍4人が入ってくる。ミロは普段と変わらない服装だが、四龍は違う。とても扇情的な服装で入って来た。4人とも緊張しているのか、顔を赤らめている。ミロはフィリスに飛びつき、
「パパ、一緒に寝よ!」
と元気よく言ってくる。しかし四龍4人は更に顔を赤らめて、
「あの…フィリス様…」
「…お願いが。」
「私達に…」
「お情けを…」
口々にしどろもどろに言う。しかしフィリスは首を横に振り、
「皆、そんな格好も恥ずかしがることも無いですよ。しかし…今はそれも出来ません。私はまだまだ若輩者。責任が取れるようになるまで、待って頂けませんか?」
フィリスのその言葉に、緊張していた4人は笑顔になり、
「そうだよね…」
「…早すぎた。」
「フィリス様の気持ちを考えていませんでした。」
「申し訳御座いません。」
そう告げる。
「でも一緒に寝ることは出来ますから。皆で寝ましょう。」
フィリスのその言葉に更に笑顔になり、全員でベッドに入った。6人で寝てもまだ余るほどの大きなベッドだったので、ぐっすり眠れる、そう思っていた。
その夜、また不思議な感覚に包まれた。目を開けると、やはり真っ白な世界にいた。前と違うのは、フィリスの隣にはミロと四龍4人が眠っている。
「皆、起きてくれ。」
フィリスがそう言うと、皆目をこすりながらまたは欠伸をしながら起き上がる。
「ムニュー…」
「…眠い。」
「おはようございますぅ…」
「もう朝ですかぁ?」
「パパぁ、まだ寝たいよぅ…」
そんなことを口にしていると、後ろから声がかかる。
「皆さん、済みません…」
その声の方を全員見ると、ファーリスが立っていた。全員1度立ち上がり、跪く。
「お久しぶりです、ファーリス様。」
「ファ、ファーリス様!?」
「…驚いた。」
「まさか…こんな時にお目にかかるとは!?」
「失礼を致しました!」
「むぅ…眠たいよぅ…」
「御免なさい、でもこういう時でもないと、話が出来ませんので…」
そう言うとファーリスはミロに近付き、抱き締める。するとミロはすぅすぅ寝息をたてる。
「大きくなりましたね、ミロ。やはりあの時、フィリスに預けたのは正解でした。」
「ファーリス様が森に置いていたのですか?」
「はい。人の手で育てて欲しい、それがミロの前世の願いでしたから。」
「前…世?」
「不死鳥フェニックスは、死期が近付くと灰になり、灰の中から卵が生まれます。本来は前世の記憶を受け継ぐのですが、恐らくもう灰になって復活することは無いのでしょう。最後は優しい人の元で過ごしたい、それがミロの最後の願いだったのですが…記憶に無いでしょうね。」
「そうだったんですか…」
「さて、フィリス。今回の魔物討伐、特に魔神王ゼノヴィスの討伐、お疲れ様でした。正直に言うと、貴方にはまだ彼を倒せる実力は無いと思っていました。」
「確かに、私だけでは無理でした。魔神カーギル、魔神サラサ、そして100人超の魔人の相手は今の私では無理です。恩師と親友達、そして四龍の力を借りなければ、私はとっくに死んでいました。」
「そんな!?」
「…大袈裟です。」
「私達こそフィリス様がいなければ死んでいました。」
「フィリス様は私達の恩人でもあるのですよ。」
「ふふふ、良い絆が出来ていますね。」
そういって笑顔になるファーリス。一呼吸置いて、話し始める。
「それでですね、今回の事に関して、少しばかりのプレゼントを用意しました。」
「プレゼント…ですか?」
「はい。フィリス、貴方が以前住んでいた世界へ、半日だけ戻る権利を与えます。これは私以外の神からの同意でもあるのです。」
「…あの世界に…?」
「どうですか、戻ってみたくありませんか?」
「以前もお話ししましたが、最早知り合いもいないのですが?」
「少しばかりの気晴らしになればと思ったのですが…」
残念そうな顔をするファーリス。その様子を見て、フィリスは少し悩んで、
「解りました、お言葉に甘えて帰ってみます。」
そう答えた。すると、パァッ!と明るい顔になるファーリス。
「では今から貴方を送ります。」
「ちょっ、ちょっと待って下さい、ファーリス様!」
エンレンが叫んだ。
「…フィリス様だけずるい…」
「私達も行きたいです!」
「フィリス様の元いた世界、興味がありますわ。」
スイレン、ライファ、ランファもそう言う。するとミロも起きて、
「パパ、どっかへ行っちゃうの?」
そう告げる。フィリスもファーリスも困ってしまったが、ファーリスは、
「仕方ありませんね。フィリス、貴方達6人を送ることにします。」
「宜しいのですか?」
「まあこの子達も頑張りましたから。しかし特例ですし、向こうでは魔法も変身も出来ません。半日たったら自動的にここへ戻ってくる、それが条件です。」
「解りました。」
「ではフィリス、これを渡します。」
そういってファーリスは小さな鞄、いや財布をフィリスに渡す。
「これは…?」
「貴方が転生前に使っていた財布です。中にお金が入っています。」
フィリスが中を開けると、32000円程入っていた。
「服も向こうで違和感のない物に替えておきますね。」
そういってファーリスが指をパチンッ!と鳴らすと、フィリス達の服が光り出し、姿を変えた。
「あららぁ?」
「…これは…」
「可愛いですね、お姉様!」
「これがフィリス様の元いた世界の服装…?」
「わーい!」
それぞれが違う感想を述べる。
「ではフィリス、時間は朝6時から夕方18時まで。魔法等は使えませんから、注意するのですよ。」
「解りました。有難う御座います、ファーリス様。」
「良い旅を。」
そう告げてファーリスが再び指をパチンッ!と鳴らすと、フィリス達は光に包まれた。
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