第32話
砂漠を越えてきたフィリス達に待っているのは、森、荒野、山等、まだまだ過酷な道のりだった。途中モンスターだけではなく、ただの獣にも襲われる。その度に相手をしていたのでは面倒くさいので逃げたりもしていたが、食事のために狩ったりもしていた。因みにこの世界のモンスターは食べられる。魔石のみ危険なだけで、血液などは普通の獣と変わらないためである。そんなわけでその日の晩御飯はグレートホーンと呼ばれる鹿を巨大化させた様なモンスターの肉を焼いて食べていた。既にガデル王国とフレデリック王国の国境にあたる関所が見えていたが、何も夜になっていく必要は無い。不審な行動は慎もうとのマティーナの提案に従って、その日は野宿することにしたのだった。皆で枝を集めて火魔法で火を起こし、水魔法で飲み水を出して、雷魔法で灯りを点けて、風魔法で安全地帯を作り出した。料理は元々野生の中で過ごしていたフィリスが上手に焼いたので、血生臭くない素晴らしい焼き肉が出来上がっていた。
「これ、マジで美味いな。」
「うん。街で売れるよね。」
「フィリス君、何でも出来るんだねぇ。」
「幼い頃から森で過ごしていましたし、グレートホーンはよく狩って食べていましたから。」
「…普通子供にグレートホーンは狩れないよ。」
そんな話をして、夜は更けていった。
翌日、4人は関所に着いた。門番にマディソンから受け取った書状を見せると、すんなり通してくれた。関所には行商人や冒険者が沢山いる。ここまで来る道中でも見掛けてはいたのだが、用は無いので無視してきたのだが、丁度フレデリック王国のサマルの街に行くという行商人が護衛を探しているというので、乗せていって貰えることになった。フィリス達は冒険者では無いので、勿論無料での奉仕になってしまうが、テッドの父親の企業の人だったので、乗りかかった船と言うことで乗ることにしたのだった。それからも暫く野を越え山越え、フレデリック王国へと向かう。途中テッドが休憩中にキラービーの巣を誤って壊して追い掛けられた事以外、特に問題なく旅を続けていた。そして山を登り、下り坂に差し掛かった時、サマルの街が見えた。
「あれがサマルの街ですよ。」
行商人が嬉しそうに言う。馬車に乗れたので、予定よりも一日早く到着することが出来た。が、山を下り終えた時、サマルの街から煙があがった。
「マティーナ先生、あれは?」
「…急いだ方が良さそうだ!」
「おっさん、急いでくれ!」
フィリス、マティーナ、テッドがそう言うが、行商人は突然のことで手綱が上手く扱えなくなっていた。
「この距離なら、走った方が早いわ!」
ティファがそう言うと、4人は馬車の荷台から飛び降りて、サマルの街へと走り出した。
サマルの街では何軒かの家から炎があがり、街の人々が散り散りになって逃げ惑っていた。街の入り口に4人が到着した時、遠くの方から爆音がした。その方向を見ると、巨大な炎があがっていた。
「マティーナ先生!」
「フィリス君、あの場所に急いで!オルステッド君とティファ君は街の人達を!私は消火に行く!」
「はい!」
「解りました!」
「任せて下さい!」
そうしてバラバラに行動する。フィリスが爆音がした場所に到着してみると、そこには10人の男達がいた。内5人は膝をつき、肩で息をしている。残りの5人は不敵な笑みを浮かべて見下していた。
「けっ、フレデリック王国も大したことねぇな。」
「俺達格下でもやれるって事、いい加減ゼノヴィス様も解って欲しいな。」
そんなことを口にしている。どうやら立っている5人は魔人の様だった。フィリスは高速で移動し、膝をついている5人と魔人達の間に立つ。
「なんだ、てめえは?」
「1つ聞きたい。お前達は魔人か?」
フィリスが質問すると、5人は大声で笑いだし、答える。
「そうだ。俺達が魔人様だぁ!」
「そこで膝ついてるのはな、フレデリック王国の王子だ。俺達はそいつらを追い掛けて来たんだ。」
「クックックッ、既にフレデリック王国は俺達のものだしなぁ。」
そう話す魔人達。
「まさか…父上が…!」
「ふん、お前も直ぐに後を追わせてやる!」
そういって5人纏まって飛び掛かってきた。フィリスは落ち着いて散弾銃、スパス12を召喚し、魔人達に目掛けて2連射した。ズドンッ!ズドンッ!と爆音が響き渡ると、襲い掛かってきた魔人達は高速で飛ぶ散弾を避けられず、額、胸、腕、足などを撃たれて吹き飛んだ。
「ふぅ…こういう時、やはりこれは便利だ。」
フィリスはスパス12を消すと、今度はコルトパイソンを召喚し、額を撃ち抜かれていない魔人の1人を見つけると、コルトパイソンを突きつけて話し始める。
「この街に来たのはお前達5人だけか?」
「ひ、ひぃ!」
最早手足を撃たれているので、まともに動けない魔人、悲鳴をあげるのみだった。フィリスは首根っこを掴んで引き起こし、額にコルトパイソンを押し付けて更に質問する。
「如何なんだ?」
「そ、そうだ!俺達5人は、そこにいるフレデリック王国の王子を追跡して殺せと言われただけだ!モンスターは使役して連れてきたが、魔人は俺達5人だけだ!」
「…そうか。」
「た、頼む!見逃してくれ!」
そう懇願する魔人の首根っこを離して、フィリスはコルトパイソンを消すと、魔人は安堵の表情を見せた。だが、フィリスはその魔人の顔に右拳を叩き込む。魔人の体は吹き飛んだ。
「な、なぜ!?」
魔人がフィリスを見ると、フィリスは今度はデザートイーグルを構えていた。
「ひぃ!た、助けてくれ!」
「フレデリック王国を滅ぼしたお前達は、次はガデル王国を攻めるんだろう?お前を生かしておく理由などない。」
そういって、フィリスはデザートイーグルの引き金を引いた。ズガンッ!と凄まじい音と共に発射された銃弾は、魔人の頭を粉々に粉砕し、地面に穴を開けた。フィリスは後ろを振り返り、傷付いた5人の男達にデザートイーグルで回復弾を撃ち込む。直ぐに効果が現れ、男達の傷は無くなった。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。き、君はいったい?」
そう聞いてくる先頭の男。そこで街の消火活動をしていたマティーナ、人命救助をしていたテッドとティファが合流する。
「フィリス君、消火は終わったよ。被害は最小限だったけど、モンスターもいたから、殲滅しておいたよ。」
「こっちもモンスターがいたけど、街の人達はほぼ無事だ。」
「来る途中のモンスターの方が強かったけど、数が多かったわ。」
口々に話す3人の無事を確認し、安堵するフィリス。そこで再び男が話そうとするが、その前にマティーナが話し始める。
「貴方は…フレデリック王国のカディラック・フレデリックですね?」
「そ、そうです。」
「私はマティーナ・ティル。ガデル王国騎士学校の校長です。」
「まさか…生ける伝説、マティーナ・ティル様!?」
そういって跪くカディラック。しかしマティーナは優しい顔で、
「一国の王子がする事では無いでしょう?顔を上げて下さい。」
「いえ、父上が言っていました。マティーナ・ティル様に会うことがあったら、失礼の無いようにと。」
「…まあ、彼も教え子だからねぇ。これじゃ私は化け物扱いだよ。それでカディラック君、君はフレデリック王国にいるはずじゃないのかい?どうしてこのサマルの街に?」
そう言われて、カディラックは泣きそうな顔をした。
「実は昨日、魔物がフレデリック王国に攻めて来たのです。数は100人ほどでしたが、わが国の戦力では勝てず、父上から私は生き延びよと、生き延びてガデル王国に救援を要請しろと言われました。それで…」
「この街に着いた途端に追ってきていた魔人達に襲われたんですね?」
ティファがそう言うと、カディラックは頷き、泣き出した。
「もう少しで…死ぬところ…でした。そこの彼が…来てくれなければ…今頃は…」
そういって泣き出すカディラックとその付き人達に、フィリスはハンカチを渡す。
「カディラック王子、我々4人はマディソン・ガデル国王陛下より、特命を受けた者です。フレデリック王国に来たのは、魔物を討伐するためなのです。貴方はこのサマルの街に残り、少し休んでいて下さい。魔物は私達が何とかします。」
「しかし…奴等は恐ろしく強いのですよ!?」
「大丈夫、私達も強いから。」
「大船に乗った気でいて下さい。」
「任せて下さい!」
フィリスの言葉に同意するように、マティーナ、テッド、ティファも力強い言葉をカディラックにかける。そして4人は急いでフレデリック王国へ向けて走り出した。
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