第30話
国王との謁見の日、城の前にフィリス、テッド、ティファ、マティーナが正装で集まっていた。
「しかし…中々恥ずかしいな。」
「うん…そうね…」
テッドとティファはそういう。実際正装することなど、冠婚葬祭でしかない。そしていつもは年相応の格好をしているか、学校の制服を着ているので、普段との違いに困惑しているようだった。そんな様子を見て、マティーナは笑顔になっている。
「校長先生、笑い事じゃないですよ…」
「ははは、御免御免。でも3人ともよく似合っているよ。」
「そうですか?何か動きにくくて…」
ティファは体を動かすが、確かに動きにくそうだった。
「別にその格好で戦うわけじゃないし、気にしたってしょうがないよ。そろそろ時間だし、中に入ろう。」
フィリスがそう言うと、皆頷いて揃って城に入り、謁見の間に向かう。謁見の間には国王、大臣、騎士団関係者がいた。勿論、カーマインもいるのだが、今回はマチルダやヴァーミリオン夫妻、カルマ夫妻、ティッタもいた。家族も重要人物と言うことで、謁見を許されていた。フィリス達4人は謁見の間の中央まで進み、跪いた。
「国王陛下、マティーナ・ティル、フィリス・ハーヴィ、オルステッド・ヴァーミリオン、ティファ・カルマ、参りました。」
4人を代表してマティーナがそう言う。
「うむ、面を上げよ。」
マディソンも優しい口調でそう言って、4人が顔を上げる。
「さて、4人に特命を言い渡す。我等が隣国フレデリック王国に赴き、彼の国を侵略しようとしている魔物を駆逐せよ。なお、魔神王ゼノヴィス・ハンクの首を取り、見事持ち帰れ。」
「その特命、拝命致します。」
「では国からの贈り物だ。」
そう言うと、マディソンは手を挙げる。すると騎士団長カーマインが台車を押して4人の前に来る。
「陛下からの贈り物、金貨100枚及び好きな武器を持っていって良いとのことです。お受け取り下さい。」
台車の上には大きな袋が4つと、様々な武器が並べられていた。袋の中にはそれぞれ金貨が25枚ずつ入っていた。
「旅の資金だ。ありすぎて困ることはあるまい。そして武器は我が王家の家宝達だ。好きに持っていって良いぞ。」
そう言われて、マティーナは杖を、テッドは両手剣を、ティファは双剣を選んだ。だが、フィリスは何も選ばなかった。
「どうしたフィリスよ。好きなものを持っていって良いんだよ?」
カーマインにそう言われるが、フィリスは首を横に振り、
「自前の武器で良いです。」
と伝えた。そう言われるとなにも言えなくなり、カーマインは台車を下げた。
「では道中何があるか解らんが、これを渡そう。」
マディソンが1つの筒を差し出した。それをフィリスが近付いて受け取る。
「これは…書状ですか?」
「うむ。この国の代表として行って貰うのだ。そこにはフレデリック王国も其方らを援護するよう頼むと書いてある。大抵の場合はそれを見せれば何とかなるはずだ。」
「解りました。」
「では、フィリス、マティーナ、オルステッド、ティファよ。其方らの無事を祈る。」
そうして謁見は終わった。
「あー、緊張したぁ…」
謁見の後、全員がハーヴィ家に集まった。テッドが気を抜いてテーブルに突っ伏しながら、そう言うとティファも、
「そうね、まさかこの歳で陛下とお目通りするなんて…」
「こら、2人とも。済みません、ハーヴィさん。」
そう言うのはティファの父親。だが、カーマインは首を横に振る。
「仕方ないですよ。しかし、これからが大変だぞ。東の砂漠地帯を越えて、更に進まなければならない。充分な用意をしなければならないが、フィリス、大丈夫かい?」
「水は魔法でなんとかしますし、いざとなればミロを呼ぶことも出来ますから。」
「それは駄目だよ、フィリス君。」
マティーナがフィリスの発言に対して口を出す。
「隣国フレデリック王国ではフェニックスは禁忌の象徴なんだ。国の代表なのにミロ君で行くなんて、認められないよ。」
「一大事なのにですか?」
「本当に必要となったら仕方ないとは思うけど…ね。」
マティーナも腕を組んで考え事をする。
「砂漠地帯を越えるには大人の足で、しかも万全の状態でも3日はかかる。充分注意するんだよ。」
テッドの父親からそう言われて、フィリス達も頷いた。そして、暫くすると母親達が料理を運んできた。
「さあ、御飯にしましょう。」
「マチルダさん…」
「なに、フィリス?」
「料理出来たんですね?」
フィリスがそう言うと、マチルダは頬を赤らめて、
「失礼ね、フィリス!普段はリース達に任せているけれど、私だって料理位は!?」
「殆ど切っていただけですよね?」
「味付けは私達がしたから心配ないわよ?」
「2人まで!?」
母親達は仲よさそうにそう話す。それを見て、皆で笑いあった。そして出発は2日後ということになり、暫く会えないからと家族にしっかり甘えるようにすると話をして皆帰っていった。
フィリスは次の日、親方の元にいた。良い機会だから武器である籠手に変化する腕輪と、軽鎧に変化するようにした指輪の点検をしてもらうためだ。親方は直ぐに点検を行い、どこも異常がないとフィリスに告げた。
「フィリス坊ちゃん、本当に点検だけで良いんですかい?」
「…?」
「せめてプレゼントするんで、こいつだけでも持ってってくだせぇ。」
そう言うと、親方はフィリスに1本の短剣を渡した。特別な加工はされていない、ただの鉄の短剣に見えるが…
「親方、これは買わなければなりません。金貨100枚でも足りない、素晴らしい短剣ではないですか。」
「流石坊ちゃん。こいつがオリハルコンでさぁ。」
世界最高の金属、そう言われているオリハルコン性の短剣だった。
「持っていってくだせぇ。以前からこいつが持ち主を見つけたように輝いているのは、坊ちゃんが店に来てからなんで。だから、こいつが主と認めたと思うんでさぁ。」
「…解りました。いつかお金は払います。」
「坊ちゃん、我々職人にとって1番嬉しい事ってなんだと思いやす?」
フィリスは答えられず、首を捻る。すると親方は笑顔で、
「それはその人に合った武器や防具を提供するときでさぁ。まさに今がその時なんでさぁ。だから…受け取ってくだせぇ。」
そう言われて、フィリスも納得し、胸にしまった。
「大切に使わせて貰います。」
そういって店を出た。
翌日、朝早くフィリス達は城下町の中心でおちあった。荷物も万全の状態で各人持って出発しようとしていた。
「なんでこんな朝早くに出発しなきゃいけないんだ?」
「皆に見送られながら行きたいのかい、テッド君は?」
「そういうわけじゃないですけど…」
「まぁ、良いじゃないですか。早く行きましょう…」
フィリスがそう言った瞬間、緊急事態を知らせる鐘が鳴った。
「…この音って!?」
「まさか!?」
4人は城門の方へと向かう。すると、巨大な陰が過った。4人が空をみると、巨大な龍が2体、取っ組み合いをしながら飛んでいた。
「あれって…!」
「まさか…伝説のウィンドドラゴンとサンダードラゴンか!?」
「くっ!」
フィリスは3人をおいて風魔法で空を飛び、2体を追いかけた。
2体の龍は城からほど近い森の上空で更に組みあいながら地面に落ちていった。地響きを上げ、木々を薙ぎ倒しながら地面に激突する2体。直ぐに起き上がり、睨み合う。そこへフィリスが追いつき、ランファの隣に立つ。
「ランファ、無事か!」
「フィリス様、申し訳御座いません。ガデル王国に到着する前に叩き落としておきたかったのですが…」
グルルゥと唸るサンダードラゴン。その体色は緑色のウィンドドラゴンであるランファと違い、黄色い体色をしていた。
「あれが四龍の1体、サンダードラゴンか?」
「そうです。フィリス様、彼女を助けて下さい!」
そう話していると、サンダードラゴンはブレスの態勢に入る。
「ランファ、時間稼ぎを!あのブレスを止めてくれ!」
「解りました!」
そう言うと、ランファもブレスの態勢に入り、双方同時に口からブレスを吐いた。強力な風と雷のブレスがぶつかり合い、凄まじい衝撃が森を襲う。均衡を保っているブレスの中、フィリスは2体の龍の足元を進み、腕輪を手首に装着して籠手を出し、サンダードラゴンの足元までやってくると、
「これで…どうだぁ!」
と叫びながら、飛び上がり左手で強烈なアッパーカットをサンダードラゴンの腹に叩き込んだ。
「ぐふぉあああ!」
殴った瞬間、ブレスを吐いていたサンダードラゴンが悲鳴をあげてブレスを止める。それに伴ってランファもブレスを吐くのをやめた。そしてフィリスは空中で回転し力を込めて、
「目を…覚ませぇ!」
再び叫びながら頭に右拳で殴りつけた。
「きゅうううぅ…」
地面に頭を叩きつけられたサンダードラゴンは気絶した。白目になり、泡を吹いていた。フィリスは地面に降り立つと、右手にデザートイーグルを召喚し、ランファに向けて回復弾を撃つ。撃たれたランファの体が光り輝き、光が収まるとランファの体にあった生々しい傷が塞がった。
「これは…!フィリス様、有難う御座います。」
「うん。ランファ、彼女をどうしたらいいのかな?」
サンダードラゴンを見てフィリスが首を捻る。
「フィリス様、私の時と同じく、額に触れてあげて下さい。そして意識の中に入りたいと強く念じて下さい。」
フィリスはランファに言われた通り、サンダードラゴンの額に触れて、目を瞑り意識を集中する。すると、ランファの時のような感覚に包まれた。
目を開けたフィリスが見たのは、山の山頂だった。目の前にはうつ伏せで倒れている女性がいた。衣装はランファと同じく露出度の高い物だが、やはり清楚なイメージがある。フィリスは近寄って抱き起こすと、声をかける。
「大丈夫か?」
「う…うぅ…」
身じろぎして女は目を覚ます。
「…貴方は…ここ…は?」
「私はフィリス。ここは君の意識の中だよ。」
「フィリ…ス?…フィリス様!」
そう叫んだと思うと女はフィリスに抱きついて泣き始めた。
「サンダードラゴン、無事で良かったわ。」
急に声がかかり、声のした方をフィリスとサンダードラゴンが見ると、人間の姿をしたランファが立っていた。抱きついていたサンダードラゴンが抱きつくのをやめて、ランファに話しかける。
「お姉様…?そう、私は…魔物に操られて…お姉様、申し訳御座いません!お怪我は!?」
「大丈夫よ、フィリス様が癒してくれたわ。それより、もう大丈夫なの?」
「はい。痛みのお陰で、嫌な感情は消えました。」
「御免なさい。手加減せずにお腹と頭を殴りつけてしまって…」
フィリスがサンダードラゴンに謝る。しかしサンダードラゴンは首を横に振り、
「あの痛みが無ければ、私はフィリス様とお姉様を傷つけてしまっていました。有難う御座います、フィリス様。」
そういって再びフィリスに抱きついた。それを優しく抱きしめ返すと、サンダードラゴンは嬉しそうな顔になった。
「フィリス様、この子にも名前を付けてあげて下さい。」
「お姉様はお名前を?」
「えぇ、今の私は、ウィンドドラゴンではなくランファと呼ばれているわ。フィリス様が付けて下さった、大切な名前よ。」
「ランファ…良い名前ですわ。フィリス様、私にも名前を!」
「2人は姉妹なのかい?」
「はい。私とこの子は姉妹で、ファイアードラゴンとウォータードラゴンも姉妹同士なのです。」
「じゃあ…ライファはどうかな?ライは雷を意味する。そしてランファは嵐を意味するから。」
「ライファ…素敵なお名前です。気に入りました、私は今日からライファです!」
「良かったわね、ライファ。」
「はい、ランファお姉様!」
フィリスに抱きつくのをやめて、今度はランファに抱き付くライファ。その様子を見て、フィリスも喜んだ。
「それでライファ。他のファイアードラゴンとウォータードラゴンはどこにいるんだろうか?」
「…!そうですわ、大変なのです。」
ランファに抱きつくのをやめて、ライファが話し始める。
「魔物達はフレデリック王国に攻め込む為に、ファイアードラゴンとウォータードラゴンを操っています。私はその牽制になるだろうとこのガデル王国に行くよう命令されて…お姉様を…フィリス様を…」
そこまで話して泣き始めるライファの頭をフィリスは優しく撫でて、
「解った。残りの2人も、フレデリック王国もガデル王国も助けてみせる。その為にもライファ、君の力を貸して欲しい。」
「勿論です!フィリス様、私の全てを貴方様に捧げます!」
そう言うとライファは再びフィリスに抱き付くと、額にキスをする。光に包まれて、ライファの力がフィリスに渡される。
「これでフィリス様は雷魔法を更に強力に使うことが出来るはずです!」
「有難う、ライファ。大切に使わせて貰うよ。」
「そろそろ時間ですね。」
「フィリス様、お慕い申しております。」
そうランファとライファが告げると、意識が遠のいていった。
フィリスが目を開けると、大きなたんこぶが出来たライファがまだ気絶していた。フィリスはデザートイーグルを構えて回復弾でライファを撃つ。するとたんこぶが消えて、ライファの体にあった無数の傷も消えた。そして目を覚ましたライファはフィリスに甘えるように体を擦り付ける。
「これからよろしくね、ライファ。」
「はい、フィリス様。」
「フィリス様、これからフレデリック王国に向かわれるのですよね?」
ランファがフィリスに尋ねる。
「そうだよ。」
「私達に乗っていきませんか?」
そういうランファに対して、フィリスは首を横に振る。
「傷は癒したけど、ライファはまだ心のケアが必要だ。ランファにはライファを見てあげて欲しい。」
「フィリス様…」
「姉妹で暫く過ごして、落ち着いたら追いかけてきて。その時には、ファイアードラゴンとウォータードラゴンとも戦わなくちゃならないだろうから。力を貸して欲しい。」
「勿論です!」
「頼りにしていて下さい!」
そう告げると、ランファとライファは空高く飛びたっていった。それを見届けて、フィリスはガデル王国へと戻った。
城門の前に行くと、沢山の騎士団が集まっていた。その先頭にはカーマインがいた。カーマインはフィリスの姿を見て、
「フィリス、無事か!」
と、声をかける。
「大丈夫です、カーマインさん。」
フィリスもそう声をかけるが、カーマイン達は周りを見渡すばかり。
「それで、ドラゴン達は何処だ!?」
「帰りました。もう安心ですよ。」
そう告げられてカーマイン達もホッとして、解散となり騎士達は城へと戻っていった。そしてマティーナ、テッド、ティファがフィリスと合流する。
「フィリス君、無事で良かったよ。それで、サンダードラゴンとも契約を…?」
「はい。彼女はライファ。ランファの妹だそうです。」
「なぁ、話が見えないんだが…フィリス、まさか龍と契約したって…」
「この間のバーデンの街の天気の変化もフィリスとウィンドドラゴンが…?」
「そうだよ。」
「…最早フィリスは人間なのか?」
「わかんない。でもフィリスはフィリスよね…?」
「まあそんなことは置いといて、どうするフィリス君?出発は明日にするかい?」
「いえ。今すぐ行きましょう。」
そうマティーナ達に告げて、フィリスは歩き出した。それを見て、マティーナ達も後に続く。目指すはフレデリック王国、先ずは砂漠を越えなければならないが、フィリス達は進んでいった。
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