第29話
その後も天気は晴れが続き、海へ行ったり、買い物したりをして、名残惜しいがガデル王国へ帰る日になった。街の知り合い達に挨拶をすると、皆も名残惜しいと言ってくれた。沢山のお土産を馬車に詰め込んで、フィリス達は出発する。行きがけにはオークやトロールに襲われているシルバーウルフの面々に会い、その次の日には山のモンスターや魔人ダンジンとの戦いもあったが、帰りは何にも無くスイスイ山を登ったり下りたりして速やかにガデル王国に到着した。騎士学校前に馬車が到着して、荷物を降ろし、その日は解散になったが、カーマインは前日の魔人ダンジンの件について国王と話があるとのことで別行動になった。屋敷に荷物を持って帰ると、バン達が出迎えてくれた。
「皆様、お帰りなさいませ。」
「ただいま。」
そうして皆にお土産を渡して、部屋に戻るとフィリスは暫く眠った。その時、また不思議な感覚に包まれた。
光の中、フィリスが目を開けるとファーリスが立っていた。身を起こして一礼すると、ファーリスは笑顔を見せてくれた。
「久しぶりですね、フィリス。」
「お久しぶりです、ファーリス様。」
「風の龍と会ったのですね?」
「はい。ファーリス様から私の力になるようにと言われたと。そして名前を付けて欲しいと言われました。彼女は今、ランファと言います。」
「そう…ランファ…良い名前ですね。貴方には四龍に会って欲しいのです。彼女達は大きな力を持っています。必ず貴方の力になってくれるでしょう。」
「はい。ランファとの繋がりが、私を天候すらも変える力を与えてくれました。しかし、それを悪用する気はありません。ファーリス様の御心に添えるよう、頑張ります。」
「えぇ。貴方は強い人ですから、心配はしていませんが…貴方はこの先、もっと過酷な運命を辿るでしょう。しかし、それを乗り越える強さを持っています。更に強くなって下さい、肉体的にも精神的にも。」
「解りました。有難う御座います、ファーリス様。」
そう告げると、ファーリスは消えていき、フィリスは目を覚ました。暫くしてコールとネーナが食事の時間だと呼びに来てくれた。
夕食を食べていると、カーマインが口を開いた。
「フィリス、明日私と城へ行って欲しい。」
そう言われてフィリスはやはりと思った。
「魔人ダンジン絡みですね?」
「うん。どうやら奴は君と話がしたいそうなんだ。」
「そうですか…私も聞きたいことがあるので、構いませんよ。」
「では明日の朝食後、私と城へ行こう。」
その日はゆっくりと夕食を食べた。勿論、バーデンの街に行けなかった者達にどんな街だったかを話ながらだった。
翌朝、少し遅めの朝食を食べてフィリスとカーマインは城へと向かう。国王からバーデンの街は如何だったなどと聞かれて事細かく話していると、衛兵が国王に話をする。
「申し上げます。マティーナ・ティル様が来られました。」
「うむ、お通ししてくれ。大臣、それから衛兵は下がってくれ。」
そう言われて大臣達は部屋から出て行き、代わりにマティーナが入って来た。
「朝早くからなんのようかな、マディソン君?」
「先生、解って仰っているでしょう?」
「まぁ…ね…」
「フィリスよ。今回捕まえてくれた魔人ダンジンの件なのだが。」
「私は殴り飛ばしただけで、魔法で拘束してくれたのはマティーナ先生ですが?」
「うむ。本人からもそう聞いているのだが、ダンジンは其方と話がしたいそうでな。こうして来て貰ったのだ。」
「カーマインさんからそのように聞いておりますし、私も聞きたいことがあります。」
「…解った、では地下牢へと行こう。」
そう話してフィリス、カーマイン、マティーナ、マディソンの4人は地下牢へと行く。そこはカビ臭く薄暗い場所だった。
「重罪人を入れておく場所だが、ここ最近使われたことはない。罪を犯す様な者は少ないから。しかし、今回は違う。まさか魔物の一角、魔人を捕まえたのは大きな成果だ。直接話が聞けるのは、国としても魔物の情報を得る良いことだ。」
「そうですね…」
「…あまり乗り気では無いようだな。」
「こんな場所に来たのは初めてですから。」
「うむ…普通は来ない場所だからな。」
そんな話をしていると、魔人ダンジンが入れられている独房の前に着いた。独房は中央にベッドがあり、それ以外なにも無かった。独房の前にいた衛兵が鍵を開け、4人が中に入り、魔人ダンジンの様子をみる。頭、腕、足に拘束具を着けられ、横たわっている。口と耳のみ使える状態なのは、恐らく尋問でもしたのだろう。痛々しい傷が見て取れた。
「久しぶりですね、ダンジン?」
「ほぅ、その声は…フィリスだな?」
魔人ダンジンが口を開いた。
「俺は貴様と話がしたかった。何、最早抵抗するつもりはない。語り合おうじゃないか。」
「聞きたいことがあります。答えてくれますか?」
「ふん…条件がある。俺を殺せ。聞きたいことが終わった後でいい。」
「え?」
「魔法も封じられ、不自由な状態…耐えられんのだよ、我々魔物にはな。」
「陛下、それで宜しいですか?」
「解った。ただし、正直に答えよ。」
「ふっ、この期に及んで嘘などつかんよ。」
「まず最初に聞きたいのは、魔物の事です。貴方達は何者ですか?」
「我々はお前達人間と同じ様に生まれ、育ったただの人間だ。いや、だったと言うべきかな。お前も固有魔法を使えるのだろう?」
「使えます。」
「その固有魔法を極限まで成長させ、殺戮に特化した存在、それが魔人だ。我々は四大属性に縛られない、新たな魔法のあり方を探求する存在なのだよ。昔はモンスターや獣を倒していたが、それに飽きた者が多数だが、一部は違う。」
「それは…?」
「…我々は、裏切られたのだよ。お前達人間にな。」
「…」
「人のために力を使っていたが、それが間違いだった。我々のような異端者を許せないと、迫害された者、それこそが魔物の発端だ。私もその1人なのだよ。」
クックックッと魔人ダンジンは笑う。
「皮肉なものだろう?お前達が守ろうとしている人間が、いつの日か魔物に変わる、恐ろしい話と思わないか?」
「では、魔神とはなんなのですか?」
「我々魔人はまだ人なのだよ。その存在に飽き足らず、モンスターから手に入れた魔石を体に取り込んだ、人をも超えた存在、それが魔神だ。ただし、欠点もある。」
「魔石に適合するかどうかですか?」
「なんだ、解っているんじゃないか。その通りだよ。魔神になるには魔石の力に浸食されないほどの強い精神力、憎悪が必要になる。我々でも今解っている魔神の数は、3人しかいない。」
「その者達の名前は?」
「魔神カーギル、魔神サラサ、そして我等が王、魔神王ゼノヴィス様だ。」
「ゼノヴィスだって!?」
マティーナが驚愕の声をあげる。
「マティーナ先生…?」
「…」
フィリスが声をかけるが、マティーナは返事をしない。と、マディソンが口を開いた。
「…私が騎士学校にいた頃、マティーナ先生の特別クラスにいた生徒だ。ゼノヴィス・ハンク、恐ろしく強かった…」
「…そうなんですか、先生?」
「…優秀な生徒でね。フィリス君に教えたヒールの使い手でもあったんだ。しかし…彼がまさか…」
「ほぅ、お前達の知り合いだったか。これは傑作だな。まああのお方は我々にとっても別格だ。この世の誰にも勝てんよ。他に質問は?」
「そのゼノヴィスというのは、何処にいる?」
「聞いてどうする?」
「良いから答えて下さい。」
「あの方はもうすぐこのガデルの隣国、フレデリックを襲撃すると言っていた。その為にも、この国の、そこにいるマティーナ・ティルが邪魔だと仰っていた。だからこそ、俺やザナックがこの国に来たのだ。」
「お前達の戦力は?」
「…約100人超。少ないと思うだろうが、貴様達人間相手ならそのぐらいでも充分だと判断したのでね。後々更に増やすことになっていただろうがな。」
「解った。…最後に残す言葉を聞こうか。」
「…フィリスよ、会ったときにいったが、我々の仲間にならんか?」
「どうしてそれを望む?」
「ふん…人間であった時に感じたのは、自らの力を誇示して何が悪いと言うことだ。言いように使われ、そのまま死んでいくなど、むなしいにも程がある。貴様もいずれ人間共に良いように使われ、邪魔者扱いされるときが来るだろう。そうならない世の中を作るのが、我々の役目だと思わないか?」
「…」
「…いい目だ。俺にもそんな目をしていた頃があった。最後に言い残すことは、お前と最後に戦えて本望だった。以上だ。」
そう言いきった後、魔人ダンジンは静かになった。そしてフィリスはコルトパイソンを召喚して、魔人ダンジンの頭に向けて発砲した。ズガンッ!と凄まじい音がした後、残されたのは頭部に穴の開いた魔人ダンジンの死体だけだった。
「隣国のフレデリック王国に攻め込む…か。」
「陛下、危険では?」
「うむ。フィリスよ、頼みがあるのだが、ここではなんだ。1度会議室へ行こう。」
「…はい。」
そう話して4人で会議室へ向かう。
会議室には4人の他に大臣や騎士団の上役が集められた。
「皆揃ったな。先ほど魔人ダンジンから得た情報によると、どうやら隣国であるフレデリック王国に魔物が侵攻するそうだ。」
そこまでマディソンが話すと、ざわめきが起こる。
「陛下、確かなのですか?」
「我々4人がそう聞いたのでな。間違いない。」
「そんな…」
「フレデリック王国が滅ぼされれば、次はこのガデル王国が狙われるだろう。そうなればこの国も終わりだ。それで、魔物の討伐に、そこにいるフィリスを向かわせようと思う。」
マディソンの言葉に皆が驚愕の顔をした。フィリスは椅子に腰掛けて腕を組み、目を瞑っている。
「陛下、正気ですか!?」
「こんなガキに何が出来ると!?」
「…皆、彼の実力を知らないからそう言えるのだ。彼の実力は、そこにいるカーマインをも越えている。この国に、そんな人物がマティーナ・ティルを除いて存在するか?」
そこまで言われて全員が絶句した。
「陛下、質問です。私はまだただの騎士学校の学生です。そんな私が奴等に、魔人ダンジンの言葉通りであれば、魔神王ゼノヴィスに勝てるとお思いですか?」
フィリスの言葉にマディソンは一瞬口を閉ざし、目を瞑って、考え事をする。
「確かに解らんが、其方なら勝てるのでは無いか?」
「…」
「この国最強の力でもって、魔物を討伐して欲しい。それこそが人間の為なのだ。」
「解りました。しかし、騎士学校はどうしたらいいんですか?」
「その点は問題ないようにする。なあ、マティーナよ?」
「陛下、フィリス・ハーヴィが行くというならば、私も行きます。」
そうマティーナがいうと、ざわめきが再び起こる。
「ならん!其方はこの国の重要人物なのだぞ!?」
「私にとって、フィリス君はそれ程大切なのです。それが許可できないというならば、私はこの国を去ります。」
「む…むぅ…」
「大丈夫です。夏休み中に終わらせますから。ねぇ、フィリス君?」
「…そうですね。陛下、もう一つお願いがあります。」
「なんだ、申してみよ。」
「あと2人、連れていきたいのですが?」
「それは誰だ?」
「同級生、同じ特別クラスのオルステッド・ヴァーミリオンと、同じくティファ・カルマの2人です。」
「なっ!?特別クラスに3人もいたのか!?マティーナ先生、聞いていませんよ!?」
「その2人を連れて行けるなら、教育は行きがけ、帰りがけにも出来るので。マティーナ先生も楽でしょう?」
「それはそうだけど…大丈夫なのかい、あの2人は?」
「解りません。でも、連れていかなかったら文句を言いそうですから。」
「確かに…ね。陛下、それでお願い出来ますか?」
「…国の一大事だが…仕方がない。許可しよう。だが、その2人への説得は…」
「勿論、私達でやります。ねぇ、フィリス君?」
「はい。」
「解った。準備ができ次第、再び城へ来なさい。色々と渡すものがある。」
そう話をして、会議は終わった。
フィリスとカーマイン、マティーナの3人はそのままテッドとティファの家へと向かう。テッドとティファの家は隣同士なので、テッドの家にはヴァーミリオン家とカルマ家の面々が集まってくれた。そしてカーマインとマティーナが全てを話すと、ヴァーミリオン夫妻もカルマ夫妻も驚いていた。
「そんな…戦争にこの子たちが…!?」
「まだ早いでしょう!?まだ子供なのに…」
そう言うのは母親達で、父親の方は静かに聞いていた。
「確かに戦争なのですが、お二人は充分に強いからと言うのがフィリスの言い分で…」
カーマインがそう話すと、テッドの父親がフィリスを見て、
「フィリス君、テッドはそんなに強いのかい?」
と、聞いた。
「…はっきりと言いますが、カーマインさんには勿論劣ります。ですが、実力はフレデリック王国に行くまでにも鍛えられるでしょうから、更に上がる。それをみこして推挙させて貰いました。ティファについても同じです。」
フィリスがそう言うと、ティファの父親が口を開く。
「正直に言うと反対だ。危険すぎる。しかし…フィリス君がいなければ娘もテッド君も強くはなれていなかったはず。ティファ、テッド君、どうしたいのだ?」
その質問に対して二人の答えは、
「行きたいです!」
「私も!」
力強い答えが待っていた。その言葉を聞き、ヴァーミリオン夫妻もカルマ夫妻、ティッタも頷いて、
「ティル校長先生、フィリス君。2人をお願いします。」
そう言ってくれた。
「まだ出発の日は決めていませんが、近日中に出発します。しかし、その前に陛下も何か渡すと言っていました。」
「ではこうしては?2日後、陛下と謁見する、その時に出発の日を決めるというのは?」
カーマインの言葉に全員が頷き、その日はお開きとなった。次の日、朝早くからテッドとティファがハーヴィ家へとやって来て、いつもの訓練以上の事をやり、更に自信を付けた2人がそこにはいた。
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