第28話
翌日は朝から天気が良かったので、カーマイン、マチルダ、ヴァーミリオン夫妻は海で日焼けをすると言い、海へと出掛けた。残りの面々は買い物に行くことにした。勿論、お土産等を買うためだ。流石観光地なだけあって、様々な物が売られており、見移りしながらフラフラと店に入っては出てを繰り返し、ウィンドウショッピングをしたりしていた。途中屋台で美味しそうな物を各々買って、シェアしながら食べていると、こちらに向かってラバンダが歩いてきた。
「ティル様、皆さん、こんにちは。」
「ラバンダ君。」
「こんにちは。」
各人挨拶をすると、ラバンダが話し始めた。
「この街の裏名物の1つ、サウナには行かれましたかな?」
「サウナがあるんですか?」
「おや、フィリス君、知っているのかい?」
「確か、石などを焼いてそれに水をかけて蒸気を発生させて発汗を促す物ですよね?」
「まあ概ね合っているけどね。どうする?皆でいってみるかい?」
「是非行ってみたいわ。」
そう言うのはティッタ。その言葉に皆が賛同して、サウナハウスへと向かった。
サウナハウスではサウナ用の衣装を着て入るので、全員が同じ部屋に通された。中に入ると気温約90度程で、暑い熱気が立ち篭めていた。
「フィリス、どっちが先にギブアップするか、勝負しようぜ!」
テッドのその言葉にフィリスは首を横に振り、
「楽しみに来ているのに、勝負なんてしないよ。私はゆっくりするよ。」
「そうかよ…」
そういってフィリスは座席に腰掛けて目を瞑った。と、マティーナが今度は話しかけながら膝に頭を乗せてきた。
「うぅ…暑いよぅ、フィリス君。」
「マティーナ先生、また巫山戯ているんですか?」
「だってぇ、枕が無いと横になれないしぃ…」
「良いなぁ、先生…」
ネーナが指をくわえてこっちを見ているが、マティーナは怪しい笑みを浮かべながら膝に頭を擦りつける。
「撫でても良いんだよぅ、フィリス君。」
「そうですか…」
カリナがそう言うと、マティーナの頭をわしわしと撫で始めた。
「痛たたた!ちょっ、カリナ!?」
「半年どころか1年間おやつ抜きです。」
「うわーん!フィリス君、カリナが苛めるぅ!」
「自業自得でしょう。早くちゃんと座って下さい。」
そう言われて、マティーナは座席にしっかりと座る。すると今度はティッタがフィリスの肩に寄りかかってきた。
「フィリス君、お姉さんとあ・そ・ぼ!」
「静かに入れないんですか?」
「ずるいわよ、校長先生ばっかりぃ。」
やれやれと思いながらフィリス達は他愛の無い話をして、ゆっくりと汗を流した。汗を流した後、全員でこれまたバーデン名物のお茶を飲んで、体をすっきりとさせた。
サウナから出て、また屋台を巡る。色々と買い込んで、街の中心にある噴水の近くの座席に座って食べ始めると、エイドスとローリィが歩いているのが見えた。
「あれ?エイドスさん、ローリィさん。」
フィリスが声をかけると向こうも気付いてフィリス達の方へ向かってくる。
「よう、フィリス。校長先生も。」
「こんにちは。」
「2人一緒にどうしたんですか?」
「いや、ギルドからの帰りなんだが。」
「フィリス兄さん、誰ですか?」
「あぁ、カーマインさんの後輩でギルドシルバーウルフの長のエイドスさんと、ギルドガルーダの長のローリィさんだよ。」
コールの質問にフィリスが答えると、コールとネーナが立ち上がって挨拶をする。
「初めまして、カーマイン・ハーヴィの息子のコール・ハーヴィです。」
「同じく娘のネーナ・ハーヴィです。」
「なるほど…確かにカーマインさんの面影がある。フィリスの義兄妹か。しかし…強そうだ。」
「そうね…これほどの気迫、子供からは普通しないわ。2人はカーマインさんに鍛えて貰っているのかしら?」
エイドスとローリィがそう言うが、コールとネーナは首を横に振り、
「フィリス兄さんに教えて貰っています。」
「なっ!?」
「嘘でしょ…?」
「嘘じゃ無いよ、エイドス君、ローリィ君。2人ともフィリス君が戦い方や魔法を教えたんだよ。将来が楽しみな2人だろう?」
ははは、とマティーナが笑う。それに続いてテッドやティファも笑った。
「俺達もフィリスに鍛えて貰ったんだ。」
「3か月前からですけどね。」
「…たった3か月で、ここまでとは。」
「ねぇ、フィリス、うちにこないかい?女しかいないけど、歓迎するよ?」
「ずるいぞ、ローリィ!うちに来い、フィリス。」
それを聞いてフィリスは首を横に振り、
「私はまだそんなことを決めるつもりはありません。」
そう告げた。それを聞いて、エイドスもローリィも頭を搔いて、
「そうだよなぁ…」
「まあ、気が向いたら考えておいておくれよ。」
と、言った。
「そんなことより、2人のギルドを合体させたらどうですか?」
フィリスがそう言うと、その場にいた全員が驚いた。
「はぁ!?フィリス、何の冗談だ!?」
「いくら何でもそれは出来ないよ!?」
「そうですか…シルバーウルフの戦い方は見ていませんでしたが、魔法使いが多いですよね?逆にガルーダは近接戦に特化している。2つのギルドが1つになったら、更に強くなると思ったのですが。」
屋台で買った串焼きを食べながらフィリスはそう言った。先日の戦い方を見て、そう分析したようだった。
「それとも、何か出来ない理由でも?」
串焼きを咀嚼してフィリスがそう言うと、エイドスとローリィ、2人はまんざらでもない顔をしていた。
「まあ…どうしてもって言うなら…」
「考えなくも…ない…かなぁ…」
そういって、2人は顔を見合わせた後、フィリスを見て、
「じゃあフィリス、ギルド名を付けてくれ。」
そう告げた。
「そうですね…シルバーガルーダはどうですか?」
「却下!」
「嫌よ!」
2人とも秒で返答してきた。
「安直すぎて面白くも無い!」
「もっと真面目に考えなさい!」
そう怒鳴る2人に、フィリスはたじろいだが、今度こそ真面目に考えて、
「…パーチェ。」
そう答えた。
「パーチェ?」
「意味はわからないけど、良いかもしれないね。」
「平和って意味があったと思います。」
「へぇ、良いな、それ。」
「よし、早速仲間達に伝えてみるよ。」
そう言うとエイドスとローリィは冒険者ギルドの方へと走って行った。
「うーん、安直に言ったけど、良かったのかなぁ?」
「まさか、ただの思いつきなのかい!?」
フィリスの一言に突っ込みをいれるマティーナ。その様子を見て唖然とする他の面々。
「まあ、2つのギルドが強いのは確かですし、あの2人もこれでいがみ合うことなく付き合えるでしょう。」
「まさか、2人をくっつけるために…?」
「さあ、どうですかね?」
フフッと笑って、また串焼きを頬張るフィリスを見て、マティーナも唖然とするしか無かった。
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