第27話
折角バーデンの街に来ているのに、翌日も天気が薄暗い曇り空、雨も風も無いが、海は行かない方が良いと言われ、フィリス達は屋敷にいた。
「あーもう、泳ぎたいわ!」
「ティッタ姉さん、はしたないわよ。」
ソファーに寝っ転がり、足をバタバタさせるティッタにティファが注意する。
「仕方ないよ、ティファ。昨日もこんな天気だったんだ。2日もゴロゴロしていたら気も滅入って来るさ。」
テッドがそう言う。そんな話を聞きながら、コールとネーナはジャンケンをしながら遊んでいる。ヴァーミリオン夫妻とマチルダは楽しく談笑しているが、カーマインは昨日のことを思い返しているのか、疲れているのか、目を瞑ったまま椅子に腰掛けていた。と、フィリスがうん…と頷いて席を立った。
「如何したの、フィリス君?」
ティッタがそれに気付いて声をかけると、その場にいた全員と、今し方お茶の用意が終わって部屋に入ってきたカリナとリースもそちらを見る。
「なんとか出来るかもしれません。」
そういって外に出ていった。そして15分ほど経った頃、ドンッ!と凄まじい音がして、全員が驚いた。音はマティーナの屋敷の裏庭からしたので、全員そちらに向かう。すると、上空目掛けてスナイパーライフル、レミントンM40A3を構えたフィリスが立っていた。
「フィリス、何やってんだよ!」
テッドがそう言うが、フィリスは聞いていないのか、首を捻りながら、
「後の問題は…距離か。」
そう言って再びレミントンM40A3を構えて、発射した。すると、再びドンッ!と凄まじい音をたてたかと思うと、上空高く上がった弾丸が空中で弾けて雲の層を晴らした。そこからは青空が見えていた。
「なっ!?」
「嘘…?」
「そんな馬鹿な!?」
皆口々にそう言うが、フィリスはふぅ…と、息を吐いて銃をしまった。太陽が顔を出して、とても良い天気になっていた。
「これで海に行けますね。」
皆の方を向いてフィリスがそう言うが、呆気にとられて開いた口が塞がらないとはこの事だろう。あんぐりと口を開けて間抜けな顔をしている皆を見て、フィリスは笑っていた。
そこからが大変だった。天候が回復して、海に行けるようになったが全員水着の準備も何もしていなかった。慌てて水着の購入に走っていく女性陣、水着は適当で良いから兎に角パラソルの準備などに追われる男性陣、2つに大きく分かれた。1時間後、男性陣はマティーナの屋敷の裏にあるプライベートビーチに、パラソルや椅子、バーベキューの準備等を終わらせていた。
「しっかし、こういう時女って遅いよなぁ…」
「そうぼやくな、テッド。女性は色々と忙しいんだ。」
テッドと父親がそんな話をしている。そうこうしていると、女性陣が帰ってきた。なるほど、趣味に分かれているようで、マチルダやネーナ、テッドの母親は清楚なワンピースの水着、ティファ、マティーナ、カリナとリースはビキニ、ティッタに至っては何故かVフロントの水着を着ていた。
「ちょっ、ティッタさん!?」
その姿を見てテッドが顔を赤面させて鼻血を噴いた。
「あらら、テッド君たらいやらしいわね。だいたい、貴方は5年ぐらい前までティファや私とお風呂に入ってたじゃない。」
艶めかしいポーズを決めながらティッタがそう言うが、テッドの父親もカーマインも目をそらしていた。
「如何かなフィリス君、似合うかしら?」
ティッタがフィリスに聞くと、
「よく似合っていますね。」
平然とそう答えるフィリス。女性陣全員の水着姿をじっくりと見るが、いやらしい目つきはしていない。真面目に答えているのがよくわかる。
「はぁ…やっぱり…」
「…マチルダさん、どういう意味ですか?」
マチルダが溜息交じりに言った言葉にフィリスが質問する。答えたのはマティーナで、
「ははは、実は皆でどんな反応するか予想していたんだよ。で、オルステッド君達は予想通りの反応をしてくれたんだけど、君だけ何も反応しない。それはある意味失礼だと思うよって事。」
「はぁ…皆さん綺麗で、普段の衣装も良くお似合いですから。服が変わっても私の反応は変わりませんよ。」
そう言うフィリスに、女性全員顔を赤らめる。
「駄目だわ、この子。本物のタラシになるかも。」
「まあ良いじゃない、フィリス君らしくて。」
「それもそうね。」
マチルダ、テッドの母親、ティッタがそう言う。そして皆思い思いの楽しみ方を始めた。コールとネーナ、リースは波打ち際で砂遊び、テッド、ティファ、カーマイン、テッドの父親、ティッタは海に泳ぎに行った。さてフィリスは椅子に陣取って寝っ転がっていると、
「ふっふっふっ、フィリス君。」
マティーナが怪しい声をあげながら近付いてきた。
「どうしたんですか、マティーナ先生?」
「私にクリームを塗って欲しいんだよ。日に焼けないようにね。」
この世界にも日焼け止めクリームがあるらしく、マティーナはフィリスに瓶を渡して、自身はタオルを敷いてその上にうつ伏せになる。仕方ないなとフィリスは考えて、背中にクリームを塗り始めた。
「うん、気持ちいいなぁ…」
「そうですか。」
今後ろのひもを外しているので、背中は完全に無防備な状態であり、マティーナのきめ細やかな肢体がそこにはある。
「ん…そうそう、フィリス君。この水着もダマスクス鉱石製なんだよ。」
「そうなんですか、何か勿体なくないですか?」
「ん…ふぅ…でね、こうしたらどうなるのかなぁ?」
そういって、マティーナは詠唱を始めて、以前騎士学校入学式兼クラス分けの際に見せた、美しい大人の女性の姿に変わる。体のサイズも変わるので、豊満な胸、臀部になる。
「あっ…ん…如何かな、この方が君の好みかな?」
そうフィリスに質問するマティーナ。
「ん…背中だけじゃなく、足とかもお願いするよ。」
そう告げるマティーナの足や手にもフィリスはクリームを塗っていく。
「あんッ!気持ちいい…フィリス君、お尻にも塗ってぇ…」
そう言われて何の躊躇いもなくお尻に触り、クリームを塗っていく。
「あっ…ん…良いよぅ…あはん!」
どんどん艶めかしい声をあげるマティーナ。そして…
「胸も…胸にも塗ってぇ!」
そう言いながらマティーナがフィリスの方を見ると、カリナがクリームを塗っていた。
「カ、カリナ!?なんで、どうして!?フィリス君は!?」
パニクるマティーナを見て、カリナはやれやれと溜め息をついて、
「校長が馬鹿なお願いを始めた時、つまりお尻からは私に代わっていましたよ。」
「なんでだよ!?」
「はぁ…校長、教え子にセクハラをする先生が何処にいるんですか?いい加減にしないと、おやつ半年間抜きにしますよ。」
「そんなぁ!」
マティーナとカリナの声が聞こえているのかいないのか解らないが、フィリスは釣り竿やその他の器材を持って岩壁の方へと向かった。
1時間程フィリスは釣りに没頭し、かなりの量の魚を釣った。そして魚を持って行くと、マティーナが男3人と話しているのが見えた。因みにマティーナは元の小さな姿に戻っていた。
「だから、ここは私のプライベートビーチだって言っているでしょう?」
マティーナがそう言うが、男3人は聞く耳持たないように、
「誰が決めたんだよ、お嬢ちゃん?」
「海は皆のもの…これ常識だろ?」
「何処で遊ぼうが俺達の自由だろう?」
そんな声が聞こえてくる。男達は周りを見渡す。すると、椅子の方にティッタが寝そべっているのを見ると、
「おい、あの女…!」
「あぁ、やべぇ水着着てやがる…」
「痴女じゃねえか?声かけようぜ!」
そう話してマティーナを無視してティッタに近付こうとする。すると、コールとネーナ、リースがティッタに近付いていくのが見えた。
「おいおい、連れのガキか?」
「なぁ、あの女も凄ぇいい女じゃねぇ?」
「一緒に声かけてお持ち帰りってどうよ?」
「賛成!」
気にもせず3人は再びティッタ達に近付いていこうとする。そこで、マティーナの堪忍袋がキレたようだ。
「貴方達ねぇ!」
そう声を荒げると、男3人はマティーナの方を見て、
「うるせぇぞ、ガキ!」
「沈めるぞ、コラ!」
そこまで言った相手に対して、マティーナが何かをしようとした瞬間、フィリスが一瞬で近付いて、首筋に手刀を叩き込んで沈黙させた。
「…マティーナ先生、殺すつもりですか?」
「フィリス君!?」
「こんな所でゴーレムを召喚したら、ティッタさん達にも被害が出ていたかも知れませんよ?」
「…そうだね。少し浅はかだったよ。でも、よくわかったね?」
「地面が若干振動していましたから。それより、食事にしませんか?魚を沢山獲ってきましたから。」
そういって釣果を見せると、マティーナは喜んで、
「うん。でもこの人達を警務隊に引き渡すのが先だね。」
そういって笑いあった。
さて昼になり、バーベキューが始まると、豪勢な肉やフィリスが釣った魚、野菜を焼いて食べる。
「やっぱり美味いよなぁ。」
「そうねぇ…いくらでも食べれそう。」
「コール、ネーナ。野菜も食べなさい。」
「はい、母上。」
「コール兄さん、それは私の人参です!」
和気あいあいと昼食をとり、お腹一杯食べた後、マティーナが言った。
「食事の後、皆に着いてきて欲しい場所があるんだよ。」
「近くですか?」
「うん。直ぐそこの岩壁があるだろう?その裏だよ。」
そう言われて、全員で食事の片付けを行い、岩壁の裏へと向かった。そこには、とても綺麗な光景が広がっていた。青や赤、様々な珊瑚礁がおり、煌びやかに輝いて見えた。
「凄い…」
「こんな光景、見たこと無い…」
「ふふふ、そうだろう?」
マティーナが得意げに話す。
「ここはね、年にこの時期にしか見られない珊瑚礁の産卵場なんだよ。彼等は動かないけど動物だからね。こんな光景を見せてくれるんだよ。」
「マティーナ先生、この光景を守るためにこの場所をプライベートビーチにしたのですか?」
そうフィリスに言われて、頭をポリポリ搔いて照れるマティーナ。その姿を見て、全員が微笑んだ。
「まあ私は普段ここには居ないから、ラバンダ君達に任せているけれど、ここだけは手を加えないようにお願いしているんだ。私は…この場所が好きだからね。」
そういって髪の毛を掻き上げるマティーナ、その姿は幼い容姿をしているが、美しさを醸し出していた。
「さて、大切なものも見せたし、もっと遊ぼうよ!時間は有限なんだから。」
そういって再びビーチに戻り、思い思いの楽しみ方をした。とても良い時間が流れている、もっとこんな時間が続けば良いな、そう思わずにいられないフィリスだった。
読んで下さっている方々、有難う御座います。話の筋は考えてあるのですが、中々纏めるのがむずかしいです。感想や意見、激励等頂けたら励みになります。これからも宜しくお願いします。