第26話
爆音がした場所は山頂だった。そこにミロが降りると、フィリス達は飛び降りて周りを見る。周囲にはシルバーウルフのメンバー達が吹き飛ばされたのか、突っ伏していた。
「大丈夫か!」
フィリスが1人に近付いて起こすと、その男は息も絶え絶えに答えた。
「ま、魔物が…だ、団長が…」
そこまで話して倒れた。息はしているが、危険な状態だった。マティーナ達が調べた人達も同じで、このままでは死んでしまうかもしれない。が、山頂から少し下がったところから再び爆音がした。
「マティーナ先生、彼等をお願いします!」
「フィリス君、気をつけて!彼等の処置をしたら私も行くから!」
そう話すマティーナにコクリと頷くと、フィリスは爆音のした方へ走り出す。後に残されたマティーナとローリィ達ガルーダのメンバーは、シルバーウルフのメンバーを集めて、マティーナが回復魔法をかけていった。なんとか死人はいないようで、マティーナ達はホッとした。
フィリスが到着したとき見たものは、吹き飛ばされて岩壁に叩きつけられているエイドスと、今まさに鍔迫り合いをしているカーマインと魔物がいた。
「貴様は…いったい何者だ!」
カーマインが叫んで剣を押し込むと、それを魔物は後方へと飛んで距離を取る。
「カーマインさん!」
フィリスが叫ぶとカーマインと魔物が気付いてフィリスの方を見る。
「フィリス、逃げろ!奴は危険だ!」
そう叫ぶカーマインに目掛けて魔物が魔法を放つ。
「ぐはっ!」
カーマインの胸部に魔法が直撃し、後方へと吹き飛ぶ。魔物はふん…と息を吐いて、フィリスに向き直り、同じ魔法を放つ。しかしフィリスはマジックシールドで魔法を弾き飛ばした。
「ほう…これを防がれたのは初めてだ。フィリス…と言ったか?」
「…何者だ。」
「俺は魔人、魔人ダンジンだ。どうだ、フィリス。俺の仲間にならんか?」
「どうしてそういう話になる?」
「くくく、俺の主は強いやつが好きでな。最強の魔神と魔人を集めて軍団を作ったのだ。その軍団にお前を入れてやろうと言うのだ。光栄に思え、ただの人間ではなく、魔神か魔人に昇華させてやろうというのだからな。」
「断る!」
「魔物は良いぞ、何にも縛られることなく暴れられる。偶にはそこの男のように、強い奴とも戦えるのだ。悪い話ではあるまい。」
「断るって言っただろう?私はお前達に服従するつもりは無い。」
「残念だ…ならば死ね!」
魔人ダンジンが両手を振り上げ、魔法を使う。魔人ダンジンの上空に巨大な魔法の玉が形成されていく。
「これをくらって生きていた者はいない!一瞬で殺してやるぞ、フィリ…」
そこまで言った魔人ダンジンがまさに魔法をフィリスに向けて放とうとした瞬間、前を見た魔人ダンジンは驚いた。フィリスがいないのだ。
「ど、何処へ…?」
周りを見渡すが、いない。と、そこで魔人ダンジンは気付いた。後ろから途轍もない殺気を感じたからだ。
「まさか…!」
魔人ダンジンが後ろを振り向くと同時に、フィリスは魔人ダンジンの顔面を右拳で殴り飛ばした。
「うがっ!」
あまりの衝撃に後ろに吹き飛ぶ魔人ダンジン。その瞬間、上空に溜めていた魔法が霧散する。フィリスは追撃して腹部を殴り、地面に叩きつけた。
「ぐぶほぅ!」
口から血を吐き出す魔人ダンジン。そのままフィリスは魔人ダンジンの腹の上に乗り、マウントを取ると、その顔面を殴り始めた。
「ぐっ…げぇ…ぐばっ…」
血を吐きながら、両手でガードしようとするが、高速の左右からの連打を浴びて、足をバタつかせる魔人ダンジン。ガードしようとする両手が力無く地面に落ち、大の字になったとき、フィリスは殴るのをやめた。
「ふぅ…」
一息ついてマウントを外して立ち上がり、フィリスは急いでカーマインとエイドスの元に行き、回復魔法を使う。2人とも生きていたので、安堵するフィリス。そこへようやくマティーナ達がやって来た。
「フィリス君、無事かい!?」
「マティーナ先生、私は無事です。」
マティーナの言葉に笑顔でそう返すフィリス。そこでマティーナが魔人ダンジンを見て驚く。
「また魔人を倒したのかい?」
「はい。前に戦った魔人ザナックよりも油断していましたから、楽に勝てました。」
「…本来、二個騎士団で戦うような相手なんだけど…ね?カーマイン君とエイドス君は?」
「気絶していますが、急所は外れていましたので…」
「そうかい。それで、この魔人をどうしようか?」
「捕まえておく魔法があったら良いんですが、私は知りません。」
「解った。ガデル王国に送ろう。」
「危険では?」
「大丈夫。」
そう言うと、、マティーナは魔人ダンジンに、固有魔法サイレントとバインドをかけた。
「マティーナ先生、その魔法は?」
「危険な魔法なんだけどね。生涯魔法を使えなくするサイレントと、手足を拘束するバインドだよ。固有魔法の中でも難しい方なんだけどね。相手が無抵抗の時に、じかんをかけなければならない欠点があるんだけど、こうして君が気絶させてくれたから、安心して使える。」
そう話しているうちに完全に魔法がかかり、そこには両手足を光の輪に拘束された魔人ダンジンの姿があった。
「さて、シルバーウルフのメンバー達も無事だったから、早く帰ろう。」
「そうですが…どうやって帰りますか?ミロでもこの人数は無理ですよ?」
フィリスがそう言うと、大きな陰が一帯を覆う。なんだ?とその場にいた全員が空を見ると、ミロよりも巨大な龍がいた。
「なっ!?」
「皆、伏せろ!」
マティーナが驚愕の声を出し、フィリスが全員に伏せるように言った瞬間、龍は下へと降下してきて、地面に降り立った。
「まさか…ウィンドドラゴン…?」
「ウィンドドラゴン?」
「四大龍の一角だよ。人前には姿を現さない、幻の龍だよ。」
そうマティーナとフィリスが話していると、ウィンドドラゴンは周りを一頻り見た後、フィリスの方を向き、
「人の子よ、私の額に触れよ。」
そう言った。フィリスはゴクリと唾を飲むと、ウィンドドラゴンに近付いていく。
「駄目だ、フィリス君!」
マティーナはそう言うが、フィリスはマティーナの方を1度振り返って、
「大丈夫です。」
と告げてウィンドドラゴンの額に触れた。次の瞬間、フィリスは光に包まれた。
光に包まれ目を瞑ったフィリスが目を開けて最初に見た光景は、広い草原だった。
「ここ…は…?」
何やら不思議な感覚に包まれていた。フィリスが手足を確認していると、
「ほう、やはり自由に動けるか。」
不意に声がする。フィリスが声のする方向、後ろを振り返ると、そこには年の頃20歳程の女性が立っていた。露出度の高い服を着ていたが、いやらしさは殆ど無い、逆に清楚とも言える雰囲気を醸し出す不思議な女性だった。
「私はフィリスといいます。貴女は…?」
そう質問するフィリスに、女は一瞬驚いた顔をして、跪いた。
「やはり、貴方がフィリス様でしたか。失礼をお許し下さい。」
何のことかさっぱり解らないフィリスは、
「顔を上げて下さい。貴女はいったい誰なんですか?」
そう告げる。すると女は顔を上げて、フィリスの顔を見る。
「優しそうな顔、しかし意志をしっかりと持った瞳、やはりファーリス様のお告げの通りです。」
そう言って立ち上がり、フィリスに抱きついた。いきなり抱きつかれて驚くフィリスだが、嫌な感じはしない。暫くして女はフィリスを離すと、
「重ね重ねの御無礼、お許し下さい。運命の女神ファーリス様からのお告げに従って参った、四龍が一体、風を操るので人々からはウィンドドラゴンと呼ばれています。」
「先程の龍でしたか。名前を聞いても?」
フィリスがそう言うと女、ウィンドドラゴンは首を横に振る。
「名前はありません。しかしファーリス様から言われておりました。主となる者が付けてくれると。ずっと長年待ち望んでおりました。フィリス様、私に名前を頂けませんか?」
「うーん、いきなり言われてもなぁ…」
暫く考えて、フィリスは答えた。
「うん、風の龍なんだよね?」
「そうです。」
「じゃあランファは如何かな?」
「ランファ…?」
「ランの部分は嵐とも呼べるし、綺麗だから。」
「ランファ…はい!今日から私はランファです。」
どうやら気に入ってくれたようだった。
「それでランファ。ここは何処なんだろうか?私達は山にいたはずですよね?」
「私に敬語は必要ないのですが…まあ良いです。ここは私の精神世界です。こうして話をするために失礼ながらお招きしました。」
「精神世界…?」
「私の心の中です。」
広い草原を見渡して、フィリスは深呼吸をする。柔らかな風が心地よかった。
「君の心は優しいんだね。だからこんなに優しい風が感じられる。」
「お褒め頂き有難う御座います、フィリス様。」
そうしてランファが話し始める。
「フィリス様、私はただ挨拶をするために来たのではありません。貴方様にお願いがあって参りました。」
「…話を聞くよ。」
「私達四龍を探して頂きたいのです。私は運良く貴方様を見つけられましたが、残りの3匹は魔物により操られています。」
「…操られている?」
「フィリス様に会うために各地を放浪しておりますが、私には解ります。奴等魔物は我々の力を使って人間、世界を破滅させようとしているのです。」
「そんなことをして何の特になるんだろうか?」
「このままでは世界が、ファーリス様が不幸になります。どうか…お助け下さい!」
「…運命の女神、ファーリス様は私にとっても大切な神様です。必ず助けます。ランファ、力を貸して下さい。」
「私の力、貴方様に託します。」
そう言うと、ランファは再びフィリスに抱きつくと、額にキスをした。するとフィリスとランファが光り輝きだし、その光は徐々に収まっていく。
「この力は…!」
「これで貴方様は風の加護を受けました。今まで以上に風魔法が使いやすくなったはずです。」
「有難う、ランファ。この力、大切に使わせて貰います。」
「そろそろ精神世界で会話できる時間の限界になります。フィリス様、本当はもう少しゆっくりと話したいのですが、申し訳ありません。」
「君と繋がった様な感覚がある。この暖かさが寂しさを紛らわせてくれるよ。」
「はい!フィリス様、お慕い申しております。」
ランファがそう言った途端、再び光に包まれた。
フィリスがハッとすると、先程から時間は経っていないようで、フィリスはランファの額に手を置いていた。
「フィリス君!?」
マティーナの声がするが、フィリスはランファの額から手を離して、
「ランファ、これからよろしくね。」
そうランファに告げる。ランファはコクリと頷いて、
「フィリス様、宜しくお願いします。」
そう言った。そして空高く飛んで行ってしまった。
「フィリス君、何があったんだい?」
マティーナの質問に、フィリスは体験したことを話した。しかし、運命の女神ファーリスの事は黙っていた。
「…にわかには信じられない話だよ。あの四龍の一角と契約するなんて…」
「ランファは優しい人でしたよ?」
「そうかぁ、ランファ君と言うんだね。」
そう話しているうちに、カーマインとエイドスも起き上がっていた。
「フィリス君、ランファ君の話、カーマイン君には黙っておくんだよ。」
「…何故ですか?」
「私から話をするから。例え親子でも信じて貰えなさそうだし。彼はかなり堅物だからね。私が話した方が伝わりやすいだろうから。」
「解りました、お願いします。」
フィリスとマティーナがそんな話をしていると、街の方から馬車が4台走ってきた。
「ティル様、お迎えに参りました!」
見るとラバンダやリーダ達が迎えに来てくれていた。その馬車に乗り込んで、フィリス達はバーデンの街に帰っていった。
街に帰ってすぐにまたギルドに行き、捕まえた魔人の処置の事や、倒したモンスターの魔石の換金の話が行われた。倒したモンスターは両方の山をあわせてオークが57体、トロールが32体、ゴブリンが80体、ミノタウロスが12体いた。うち巨大なミノタウロスの魔石は見事だったので、フィリスに譲ると全員一致したが、フィリスが拒んだので、街の資金に換金されてラバンダが責任を持って預かることになった。残りの魔石の換金額はシルバーウルフが3割、ガルーダが5割を持っていき、マティーナとカーマインが2割を貰い、カーマインの取り分からフィリスにお小遣いとして金貨1枚が渡された。
「大切に使うんだよ。」
カーマインから釘を刺されたが、元々無駄遣いしないフィリスなので、大切に貯金しようと考えていた。そうして解散となり、フィリスとカーマインは屋敷へと戻る。マティーナはまだラバンダやリーダ達と話をしていたので別行動することになった。帰り道で、
「フィリス、魔人の捕獲は素晴らしいことだが、まだ油断はしないようにな。」
「解っています。今回も運が良かっただけですから。」
「うん…そうだな。はぁ…私もフィリスの訓練を受けた方が良いのかな…」
そんなことを愚痴るカーマインを見て、クスッと笑うフィリスだった。その後、屋敷に帰って皆から質問攻めにされるわ、連れていって欲しかったとコール達に愚痴られたフィリスは、その日の疲れを温泉で癒し、ベッドに入って眠りについた。
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