第25話
次の日は生憎の曇り空、しかも風が強い日だった。海に行く予定をしていたが、マティーナから大時化のこの日に行くのは危険だと言われて皆屋敷に籠もっていた。と、マティーナが不意に言った。
「カーマイン君とフィリス君にお願いがあるんだけど、良いかな?」
「私は構いませんが、フィリスもですか?」
「そうなんだよ。今日中に終わらせるためにね。」
「フィリス、大丈夫か?」
「大丈夫です。それでマティーナ先生、何処へ行くんですか?」
「取り敢えず行きがけに話すよ。」
そう話して3人で屋敷を出た。
「実は最近、この街の周辺でモンスターが増えていてね?昨日のオークとトロールの件もそうなんだけど、もっと厄介な存在が私達が通ってきた山に住んでいるらしいんだ。」
マティーナは歩きながら話す。それをフィリスとカーマインは聞いていたのだが、厄介な存在…何だろうかと考えるばかりだった。と、急にマティーナが止まる。そこは昨日フィリスが1人で来た冒険者ギルドだった。
「冒険者ギルド…」
「うん。昨日フィリス君は1人で来たらしいね?街の人達も噂をしていたよ。」
そう言うとマティーナは扉を開いて中へと入る。フィリスとカーマインもそれに続いていく。昨日と同じく酒の匂いが立ち篭めていたが、フィリスは少し驚いた。メインフロアに昨日は無かった大きなテーブルが置かれていたからだ。
「ティル様、お待ちしておりました。」
1人の初老の男がマティーナに話しかけた。
「やあ。昨日も話したけど、彼等が今回の助っ人だよ。」
「そうですか。…もしや、カーマイン・ハーヴィ殿では!?」
男がそう言うと、周りでザワついていた人々がこちらを見た。
「カーマインさん、有名人何ですか?」
「私はこう見えても、ガデル王国の騎士団長だからね。以外と顔は利くんだが…この反応は中々無いよ。」
そう話をしていると、マティーナが近くの椅子に座って、
「カーマイン君、フィリス君。君達も座りなよ。」
席を勧めてきたので、マティーナの左にカーマインが、右にフィリスが座る。すると、今までザワついていた人々が一斉に椅子に座り、静かになった。
「皆さん、お集まり頂けて良かったです。私はこの街の長、マティーナ・ティルです。訳あって普段はガデル王国の騎士学校の校長をしているので、この街にはいませんが、今回帰ってきてみたら、何やら問題があるとのことなので、関係者全員に集まって貰いました。説明をどなたかして頂けますか?」
マティーナがそう言うと、先程の初老の男が立ち上がって話し始めた。
「ティル様の代理で長を務めております、ラバンダと申します。今現在、この街には200人が住んでおりますが、最近になって交通手段である山にモンスターが蔓延っておりまして、観光客の足も疎らになり、また冒険者にも被害が出ております。」
ラバンダがそう言うと、今度は1人の女性が立ち上がって話し始めた。
「バーデンの街、冒険者ギルド、ギルド長をしていますリーダです。昨日その問題の山へと向かわせた調査隊10人が帰還し、オークとトロールに襲撃されたとのこと。しかし、その10人は、そちらにおられますカーマイン・ハーヴィさん達によって助けられたと聞いています。」
「そこでですな、今回戦力を見積もったところ、カーマイン殿にも加わって頂いて、あの山のモンスターの駆逐を行いたいと思っているのです。」
それを聞いてカーマインが口を出す。
「ちょっと待って頂きたい。確かに私は戦うことは可能ですが、戦力はどの程度あるのですか?」
するとリーダが答える。
「冒険者ギルド所属の、総勢30人からなるシルバーウルフと、15人所属しているガルーダが同行します。」
「エイドスがいるのか?ならば問題ないだろう。」
そうカーマインが言うと、ギルドの2階からエイドスともう1人、女性が降りてきた。
「お久しぶりです、カーマインさん。」
「おぉ、エイドス。久しぶりだな。」
「久しぶりだね、エイドス君。」
「先生もご無沙汰しております。」
「3人はお知り合いだったのですか?」
フィリスが質問すると、マティーナが答える。
「うん。カーマイン君の3年後輩なのがエイドス君なんだよ。彼も優秀な騎士だったんだけどね…」
「命令無視してクビになったんだ。でも、後悔はしていません。」
「命令…無視?」
「作戦行動中に人命優先したんだ。あの時は庇ってやれなくて済まなかった。」
「カーマインさんは俺を弁護してくれたじゃないですか。」
「そのくらいにしてくれないかね?あたしの自己紹介がまだなんだよ、エイドス。」
「あぁ…済まない。」
そういってもう1人が話し始める。
「あたしはローリィ。ガルーダの長だよ。宜しく。」
「そうか、噂には聞いている。少数精鋭の強者、ガルーダ。その長が女性とは知らなかったがね。」
「そうかい、あたし達は知っているよ、カーマイン・ハーヴィさん?で、なんでそのカーマインさんが子供を2人も連れているんだい?」
「口の利き方に注意した方が良いぞ。こちらはこの街の長、マティーナ・ティル校長先生だ。」
「…あのガデル王国の騎士学校の!?そりゃ失礼したね。」
「ん?別に構わないよ。宜しくね、ローリィ君。」
「で、そっちは?」
「初めまして、フィリス・ハーヴィです。」
「へぇ…カーマインさんの子供かい?」
「養子なんです。」
「そうかい。でも、相当強いんだろうね、こんな所に連れてくるんだったら。」
「あのぅ、ティル様、そろそろ話して宜しいですか?」
ラバンダが申し訳なさそうにそう言った。
「御免、御免。話が逸れてしまっていたね。それで、作戦とは何かな?」
「はい。ともかくモンスターの駆逐を目的としていますので、ここへ来るまでの2つの山、こちらから近い方をカーマイン殿とシルバーウルフにお願いして、ティル様とガルーダに遠い方をお願いしたいのです。」
「うーん、それで良いと思うけど…」
「如何したんですか?」
リーダが口を挟む。
「いくら何でも私でも時間がかかるんだよ、あの山まで行くと。その間に更にモンスターが集まるかもしれない。そうなると、いかにガルーダと云えども駆逐は難しいんじゃないかな?」
「確かに…」
「難しいわね…」
皆頭を抱える。しかしフィリスが発言する。
「ではマティーナ先生、私に任せて貰えませんか?」
「フィリス君、君が全力で走っても3時間はかかるよ。山道だし。」
「そうだよ、まして全力で走って疲れた状態でモンスターに襲われたら如何するんだい?」
マティーナとローリィかそういうが、フィリスは落ち着いて、
「大丈夫です。皆さんを運びますから。」
そう答えた。
「風魔法を使うのかい?君でも大勢、17人も運べないだろう?」
「私が運ぶんじゃないです。」
そういって、フィリスは皆をギルドの外へと出して、指笛を力強く吹いた。すると、ミロが直ぐに飛んできた。
「まさか…モンスター!?」
「違います。武器を下げて下さい。ミロが怯えています。」
直ぐに臨戦態勢を取るエイドスとローリィ、そしてリーダだったが、1度見ていたカーマインと、フィリスを信頼しているマティーナは落ち着いていた。フィリスがミロを宥めていると、
「まさか…フェニックス!?」
マティーナが驚いた様に声をあげる。
「この毛並み…やっぱりフェニックスだよ!フィリス君、何処で出会ったの!?」
マティーナが質問して来るので、フィリスは、
「ソーン村の森の中で卵を拾い、そのまま育てました。」
「そうなの!?」
「校長先生、フェニックスというと…!?」
「あの伝説の鳥ですか!?」
「そう…涙は傷を癒し、血は永遠の命を授けてくれる。」
「フィリス、君はいったい何者なんだ!?」
その場にいた全員が驚いていたが、
「マティーナ先生、ミロに遠くの山まで運んで貰います。恐らく10分程で着くでしょう。」
「そうだね…ローリィ君、それで良いかな?」
「は…はい!伝説の鳥に乗れるなど、光栄です!」
そして直ぐに他のメンバーを連れてやってくる。ミロはフィリスに言われて、頭を下げて乗りやすくしてくれた。全員が乗った後、
「ではカーマインさん、行ってきます。」
「フィリス、無理はしないように。校長先生、宜しくお願いします。」
「大丈夫、私がついているんだから。」
そうしてフィリス達は飛び立った。後に残されたカーマインとシルバーウルフの面々は、
「遅れてしまったが、我々も急ごう。」
「そうですね!」
そう話して暫くしてから出発した。
山に到着すると、ミロは降りやすい場所を見つけて着地した。ガルーダのメンバー達は、少し酔っている様子だった。
「大丈夫ですか?」
フィリスが声をかけると、
「はは、空を飛んだのは初めてでね。」
「済みません、少し休ませて下さい…」
そう口々に言う。しかしマティーナが言った。
「そんな余裕は無さそうだよ。」
「え?」
その場にいたフィリスとマティーナを除く全員が驚いた。ミロが降りた場所は、モンスターの住処の前だった。洞窟があり、中からオーク、トロール、ゴブリン、ミノタウロスがわんさか湧いてきた。
「うわぁ!」
「マジで!?」
「どうしよう!?」
焦るガルーダのメンバー達。しかしフィリスとマティーナ、ローリィの3人は平然として、
「怯むな、臨戦態勢を取れ!」
ローリィの一言でメンバーは落ち着きを取り戻し、戦闘態勢を整えた。その間にもモンスターは接近してきていたが、
「ファイアボール!」
「フレイムランス!」
フィリスとマティーナの魔法で見えている半分近くが消し飛んだ。
「凄い…」
「臆するな、あたし達もやるよ!」
そう口にして、ガルーダのメンバー達は斬り込んでいく。戦闘時間僅か5分で、モンスター達は駆逐された。
「はぁ…はぁ…」
「どんな…もんだい…」
「これで終わりかな?」
そう話すガルーダのメンバー達。だが、
「気をつけろ!」
フィリスが急に大声を出した。洞窟から、新しいモンスターが出て来たからだ。その体は今までのモンスターよりも大きい。洞窟の幅ギリギリにまで大きくなったミノタウロスだった。
「まさか…!」
そう驚いた次の瞬間、ミノタウロスのタックルでガルーダのメンバー3人が吹き飛ばされた。
「ぜ、全員で掛かれ!」
そうローリィは言うが、メンバー達は怖じ気づいてしまって動く事すらままならない状態だった。
「くそぅ!」
悪態つくローリィだったが、ミノタウロスは容赦なくローリィの方を向いて、タックルをしようと構えた。最早、ローリィがそう思った瞬間、ズガンッ!と、凄まじい音がした。その音とほぼ同時にミノタウロスの頭が吹き飛ばされていた。
「なっ!?」
何が起こったのか解らず、ローリィが周りを見ると、フィリスが右手にデザートイーグルを構えて立っていた。
「フィリス、それは何!?」
驚いた声をあげるローリィに、フィリスは笑顔で、
「固有魔法です。」
と告げて、デザートイーグルをしまう。
「…なんなんだい、あんたは?」
「そんなことより、洞窟の中を調べますか?」
「そうだね。ローリィ君、私とフィリス君で入るから、君達は外の見張りを頼むよ。」
「解りました。」
吹き飛ばされた仲間を見ると、既にマティーナが魔法で回復していたらしく、呼吸などは落ち着いていた。それを見てローリィは、
「この短時間でどれだけ驚かせるんだい、全く…」
と、一人愚痴った。
洞窟の中は暗かったが、マティーナの雷魔法で灯りを確保して2人は進んでいく。と、洞窟の最深部は以外と浅く、直ぐに到着した。
「マティーナ先生、ここが最深部ですね?」
「うん。でもなにも無いね。」
そういって帰ろうとすると、フィリスが壁を見て、マティーナを呼び止めた。マティーナが壁を見ると、古代語で文字が書かれている。
「先生、読めますか?」
「…うん。ここにはモンスターを呼び寄せる魔法がかけられている。おかしいな、少し前までこんな洞窟は無かったのに。」
「どうしましょうか、先生。」
「この魔法は消してしまおう。そうしないと今回の様なことがまた起きてしまう。」
「解りました。」
そう言うと、フィリスは散弾銃スパス12を召喚し、壁に目掛けて乱射した。ズガンッ!、ズガンッ!と凄まじい音をたてて、壁はみるみるうちに破壊された。最早文字は読めない。
「これでいいですか?」
「う、うん。有難う、フィリス君。さあ、出ようか。」
そうして2人は洞窟を後にした。
外に出ると、ローリィ達ガルーダのメンバーかモンスターから魔石を取りだしていた。
「皆さん、終わりましたよ。」
マティーナがそう告げると、ローリィがマティーナに近付き、袋を渡す。中には魔石が入っていた。その袋を再び締めて、マティーナはローリィに返した。
「何故?」
「私達は冒険者じゃ無いからね。私は街の長で助けて貰っている立場だし、フィリス君はまだ成人していない。余りお金を持たせる事はしたくないんだよ。まあ、お小遣い程度なら良いけどね。」
そう話していると、遠くの方で爆音がした。全員が音のした方向を見ると、バーデンの街に近い方の山から煙が上がっていた。
「あれは…!?」
「くっ!」
フィリスは直ぐに指笛を鳴らしてミロを呼んだ。そして全員を乗せてもう一つの山へと急いだ。
読んで下さっている方々、有難うございます。意見や感想、激励を頂けたら励みになります。宜しくお願いします。




