第24話
それから馬車で1時間程山を降ると、バーデンの街に着いた。
「へぇ…ここがバーデンの街…」
フィリスは街を見て驚いた。この世界に来て初めて大きな海を見た事、また温泉が湧いているのだろう、街中白い水蒸気が立ち篭めているのが見えたからだ。
「どうだい、フィリス君。良い街だろう?」
「はい。ここを治めているのがマティーナ先生なのも驚きましたが、のどかで本当に良い街です。」
「ふふふ、山あり海あり温泉ありな上に、食べ物も美味しいよ。楽しみにしていてね。」
「はい。」
そんなやり取りをしていると、冒険者が集うギルドの建物の前にやって来た。そこで10人を降ろすと、馬車は更に街並みを進んでいく。と、大きな屋敷が目に入ってきた。
「あれが私のこの街での家だよ。」
「立派ですね。」
「本当はもっと質素な家にしたかったんだ。でも、街の人達が、折角建てるんなら立派な家にしますって聞かなくてね。普段は街の集会場として使って貰っているんだ。中を見たら更にびっくりすると思うよ。」
そう話をして、馬車は屋敷の前に着いた。そこでフィリスはおやっ?と思った。屋敷の前に5人の女性が立っていたからだ。その女性達は全員メイド服を着ていた。
「お帰りなさいませ、マスター。」
「ただいま、皆。」
マティーナが軽く挨拶をして、他の人達も挨拶をするが、フィリスだけが呆気にとられていた。
「如何したんだ、フィリス?」
「長旅で疲れたの?」
テッドとティファが心配そうにフィリスに話しかける。
「気付かないか?」
「何に?」
「この人達、美人だよな。」
「そうじゃない。この人達…人間じゃない。」
そう言われてテッドとティファ、他の人達も驚いた。
「あははは、御名答だよ、フィリス君。彼女達もホムンクルスだよ。この屋敷を管理して貰ったり、私からの伝言なんかを街の人達に伝えて貰っているんだ。」
マティーナがあっけらかんとそう答える。
「マジか…」
「フィリス、どうして気付いたの?」
「そうか…2人はまだ気配察知が出来ないんだったか。」
「気配察知?」
「フィリス兄さん、何ですか、それ?」
質問したのはコールとネーナだった。
「コールとネーナはまだ早いと思っていたんだけどね。」
「簡単に言えば、何処に人や動物、モンスターがいるか把握する能力だよ。」
フィリスの代わりにカーマインが答えた。
「えっ、そんなことが出来るんですか?」
「うん。教えなかったのは、かくれんぼが面白く無くなるからだけどね。」
「そっか、相手の場所を察知出来たらゲーム性がありませんもんね。」
コールとネーナは納得してくれた。が、そこでカーマインは疑問に思う。
「フィリス、ここへ来るときにも思ったんだが、君の気配察知能力はどれくらいなんだい?」
「…約5キロほどです。」
「ご、5キロ!?信じられん…」
「父上、如何したのですか?」
「普通は1キロほどが限界なのだよ。全周囲に向けて気配察知を行うのは…」
「私も全周囲は二キロですが、一定の方向なら5キロなのです。」
「…恐ろしい。君に奇襲をかけるのはほぼ無理だな。」
そんなことを話していると、マティーナが頬を膨らませていた。
「あのね、君達。ここには休みに来たんだよ?もっと楽しい話をしなさい!」
そういってプンプン怒っていた。見た目はネーナより若いが、確かに150年生きているのだ。威圧感は半端なく、カーマイン達は怖じ気づいて謝る。が、フィリスは、
「マティーナ先生、その内ゴーレムやホムンクルスの事を教えて下さい。」
「それなら大丈夫。休み明けに教えるつもりだったから。」
そう話して屋敷へと皆で入っていった。
部屋に荷物を置いて、リビングへと向かうと、既に全員集まっていた。
「さて、これからのことだけど、私は少し用事があるから別行動するよ。街の温泉にでも皆で行ってきたら如何かな?」
「温泉…」
「良いですわね。」
そう言うのはヴァーミリオン夫妻。
「先ずは街の見学に行きたいわ。」
「そうだなぁ…俺も行きたい。」
とはティファとテッド。
「私は少し休むわ。」
ティッタがそう言う。
「大きな庭があったから、少し体を動かしたいです。」
「あっ、僕も。」
ネーナとコールはそう答えた。
「じゃあ私達も温泉に行きましょう、あなた。」
「そうだな。」
マチルダとカーマインも温泉に向かうようだった。しかし、
「私は少し別行動します。」
フィリスはそう言った。
「夕食は少し遅めに考えているけど、余り遅くならないようにね。」
マティーナからそう言われて、各人が動き出す。テッドとティファがフィリスに話しかけて、
「何処に行くんだ?」
「うん、ギルドにね。」
「そうなの?」
「2人は街を見に行くんだろう?後で合流しようか?」
「あぁ。じゃあ1時間後に街の真ん中にあった噴水でどうだ?」
「解った。遅れたら御免。」
「解ったわ。」
そういって2人とも別れた。
さて、ギルドへとやって来たフィリス。早速扉を開けて中へと入る。酒の匂いが充満するメインフロアを抜けて、受付へと向かい、受付嬢に話しかける。
「済みません。」
「はい…あれ?見ない顔ですね…ご用件は?」
「モンスターの魔石って、買い取りして貰えるんですよね?」
そう話し、ポケットから魔石を取り出す。小型の魔石が20個、中型の魔石が3個。そう、来るときに倒したオークとトロールの物だった。
「あらあら…オークとトロールの物ですね?倒したのですか?」
「オークは私が、トロールは別の人が倒したのを貰いました。」
トロールの内1体はフィリスが頭部を撃ち抜いて倒したのだが、取り敢えずそう言うことにしておいた。
「へぇ…傷もない綺麗な魔石が多いですね。解りました、査定をしてきますので、少し待っていて下さい。」
そういって受付嬢は魔石を持って奥へと下がる。と、後ろから話しかけられる。
「おい、オークを20匹本当に倒したのか?」
フィリスが後ろを振り向くと、屈強な男が腕組みしながら立っていた。
「はい。」
「何処で倒したんだ?」
「この街に来る道中ですが?」
「って事は…さっきの馬車に乗っていたのか?」
「そうです。」
「そうか…仲間が世話になった。」
そういって男は腕組みをやめて頭を下げた。どうやら先ほど別れた10人の仲間のようだった。
「あいつらから聞いたよ。見事な腕でオークを20匹、瞬く間に倒した少年がいたってな。それに、カーマイン・ハーヴィさんも一緒にいたとも聞いていた。その子に魔石は譲ったともな。」
「そうでしたか。あの人達は?」
「もうゆっくり休ませるために、宿屋にいるよ。」
「良かった。」
ホッと胸をなで下ろすフィリス。それを見て、笑顔になる男。
「自己紹介が遅れたな。俺はエイドス。しがない冒険者だ。家名は捨てた。」
「フィリス・ハーヴィです。」
「…なるほど、カーマインさんの息子か。」
「養子なんです。両親を亡くして、カーマインさん達に引き取られまして。」
「そうか、済まん。」
「いえ、大丈夫です。」
「どうだ?俺達の仲間にならないか?お前なら歓迎するぞ。」
そう言われてフィリスは首を横に振って、
「まだ15歳ですし、冒険者に登録出来ませんから。」
「そうか、18からだもんな。その時期が来たらぜひ考えてくれ。俺達、シルバーウルフは何時でも歓迎するぞ。」
「解りました。シルバーウルフのエイドスさん、覚えておきます。」
そう話して、エイドスは去って行った。そして査定が終わった受付嬢がフィリスに話しかける。
「お待たせしました。綺麗な魔石でしたので、全部で金貨8枚になりますが、宜しいですか?」
「私は冒険者ではありません。手数料は?」
「ふふふ、既に差し引いてますよ。」
「流石です。ではそれでお願いします。」
金貨8枚を受け取り、フィリスはギルドを後にした。
その後噴水前でテッドとティファと合流して、少し買い食いをした後、屋敷に戻った。既に食事の用意がされており、全員集合していたのでそのまま食事になった。テッドは買い食いのせいで殆ど食べられず、両親に怒られていた。フィリスとティファは余り食べていなかったので、美味しいバーデン名物の魚料理に舌鼓をうっていた。その後コールとネーナ、ティッタを連れて温泉に行き、汗を流した。夜、部屋で眠りにつくまで、明日は何をしようか悩むフィリスだった。
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