第23話
マティーナとの約束の日になって、騎士学校の前に集合したフィリス達。既にテッドとティファの家族も来ていた。今回参加するのは、ハーヴィ家からはフィリス、カーマイン、マチルダ、コール、ネーナ、リースの6人、ヴァーミリオン家からはテッドと両親、カルマ家からはティファとその姉と、マティーナとカリナだった。総勢13人が揃っていた。
「やあフィリス君。いつもうちのテッドがお世話になっているね。」
「おじさん、おばさん、お久しぶりです。」
「あら?更にいい男になってきたわね。」
「お久しぶりです、ヴァーミリオンさん。」
「おぉ、ハーヴィさん。今回はお世話になります。」
「いや、今回お世話になるのは校長先生ですよ。まあ、いざとなったら私が戦いますけどね。」
そう話していると、ティファの姉がフィリスに近付いて来た。
「貴方が…フィリス君?」
「そうです。」
「初めまして、ティファの姉のティッタよ。妹がお世話になっているわ。」
「こちらこそ、色々助けて頂いています。」
「今回の旅行に行けるのも、ティファから元は貴方がいるからだって言われたわ。…貴方、相当強いわね?」
「私なんて、まだまだですよ。」
「ふふふ、その内試合をしてみたいわ。」
そうこうしていると、マティーナが話し始めた。
「皆、今日は来てくれて有難う。じゃあ早速出発しようか。で、馬車は2台あるから、フィリス君達家族で1台、オルステッド君の家族とティファ君とティッタ君で1台でいいかな?私とカリナはそれぞれの馬車に乗るから。」
「解りました。」
「フィリス君と話がしたかったけど、まあ良いわ。先生の指示ですから。」
ティッタのみ、少し残念そうな顔をしていたが、それぞれ馬車に乗り込んだ。マティーナはフィリス達の馬車に、カリナはテッド達の馬車に乗り、馬の手綱をとる。
「こ、校長先生、私がやりますよ!?」
カーマインがそう言うが、マティーナは首を横に振って、
「駄目駄目。君達はお客さんなんだから、ちゃんと座っていて。じゃあ行くよ。」
そうしてバーデンの街に向けて出発した。
バーデンの街へは山を2つ越えなければならない。馬車に揺られながら、フィリスはコールとネーナの会話を聞きながらリラックスしていた。カーマインとマチルダも、マティーナに話しかけ、普段聞けない学校でのフィリスの様子を話を聞いてた。たまに家でのフィリスの様子もマティーナに質問されているようだったが、別段何か悪いことをしているわけでは無いので聞き流していた。一つ目の山を越えて、二つ目の山の中腹まで来たとき、話疲れて眠るコールとネーナの寝顔を見ながらフィリスが何かを感じ取った。
「マティーナ先生、馬車を急がせて下さい。」
フィリスがそう言うと、話に夢中になっていたマティーナ、カーマイン、マチルダがフィリスを見る。
「如何したんだい、フィリス君?」
「この先頂上付近に人の気配とモンスターの気配がします。」
「何!?」
カーマインが驚いて、気配を調べる。確かに頂上の方から反応がある。そして、耳を澄ますと爆音が聞こえてきた。
「マティーナ先生、急いで下さい!」
「解ったよ!」
マティーナが鞭を振るい、馬を走らせると、直ぐに山頂に着いた。と、見ると10人の男女がオークやトロールに襲われていた。オークが20、トロールが3匹いた。
「これは!?」
マチルダが驚いた声を発すると同時に、フィリスとカーマインが馬車から飛び降りた。そしてオーク達に接近する。カーマインが剣を抜きながらフィリスに言う。
「フィリス、オークを頼む!トロールは私が相手をする!」
「解りました。」
フィリスは近くにいたオークに対して飛び蹴りを叩き込み、殺気を出す。
「さぁ、かかってこい!」
フィリスの挑発にのるかのように、オーク達が全員フィリスの方に向き直って襲いかかる。が、フィリスは落ち着いて2つの腕輪をポケットから取り出し、腕に装着すると魔法を発動させる。すると腕輪が籠手に変化した。その籠手で最初のオークの棍棒の一撃を受け、拳で頭を殴り飛ばした。
「ギャー!」
悲鳴をあげて吹き飛んだオークの体はその後ろから接近してきていた別のオーク達3人を巻き込み、そのまま大木へと叩きつけられ絶命した。その一撃を見ていたその他のオーク達は驚き、戦意を喪失したが、フィリスは追撃し、あっという間に全てのオークを倒した。
「ふぅ…カーマインさん!?」
一息ついて、フィリスがカーマインの方を見ると、1匹のトロールは倒されていたが、2匹のトロールがカーマインに襲い掛かっている。その攻撃を危なげなく躱すカーマイン、隙を突いて1匹の胴体に斬りかかるが、両断するには至らず、刃は途中で止まってしまう。
「くっ、しまった!」
もう1匹のトロールがカーマインの頭に目掛けて棍棒を振り下ろそうとしたとき、ズガンッ!と凄まじい音がして、次の瞬間そのトロールは頭が無くなり、力無く倒れた。
「今だ!」
カーマインがその光景を見た後、腕に更に力を入れて、トロールの胴体を切断し、戦いは終わった。カーマインがフィリスの方を見ると、フィリスは右手にデザートイーグルを構え、周囲を索敵していた。
「フィリス、それは…?」
初めて見た銃に驚きながらカーマインがフィリスに質問するが、フィリスは索敵を終えてデザートイーグルと籠手を消して笑顔でカーマインを見る。
「大丈夫でしたか?」
「それが…君の固有魔法…?」
「はい。カーマインさん、それよりあの人達を…」
「そうだ!大丈夫か!?」
10人の男女は救援が来た安堵感からか、へたり込んでいた。
「おい、怪我でもしたのか?」
カーマインが質問すると、1人の女が答えた。
「助かりました、有難う御座います。」
「どうやら無事の様だ。私はカーマイン・ハーヴィ。ガデル王国騎士団長だ。」
そう名乗ると、急に10人とも顔色を変えて、
「ハ、ハーヴィ騎士団長!?」
「すげぇ。確かにあの強さなら!」
「あ、握手をして下さい!」
と言ってきた。どうやら元気なようなので、フィリスは黙っていた。
「それで、君達は何故こんな所に?」
「私達は冒険者なんですが、バーデンの街の方々から依頼を受けたんです。」
「この山にモンスターが住み着いたとのことで、それを退治して欲しいって…」
「でも敵の規模までは知らなかったので、人数も装備もこんなのだったんです。」
「貴方方が来てくれなかったら、死んでいました。有難う御座います。」
話の内容を聞いて、フィリスとカーマインも納得した。確かに彼等の装備はあまり良いものとは言えなかったのだ。
「取り敢えず、バーデンの街まで行こう。馬車も広いから、乗せていってあげるよ。」
マティーナが話を聞いて、そう答える。
「ですが、10人は流石に…」
そう話していると、カリナが操る馬車がやって来た。
「あれ?皆さん、如何したのですか?いきなり走り出したと思ってはいましたが?」
「カリナ、彼等のうちの半分をそっちに乗せて。もう半分はこっちに乗せるから。」
「解りました、校長。」
そうして半分ずつ別れて馬車に乗り込み、再びバーデンの街へ向けて出発した。
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