第21話
魔人ザナックの襲撃からフィリスが目覚めた1週間後、フィリスは城へと招かれていた。謁見の間に通されてみると、そこにはマティーナもいた。
「良く来たな、フィリス・ハーヴィ。」
国王であるマディソン・ガデルがそう言う。フィリスは閲覧の間の中央にて跪いていた。
「今日来て貰ったのは、先日の魔物の襲撃の件だ。マティーナ・ティルを助けてくれた事、感謝する。有難う。本来、魔物の襲撃があると、被害は甚大なのだが、其方が魔物を討伐してくれたお陰で、操られたモンスターも逃げだし、最小限に留まった。」
「勿体なき御言葉です。」
フィリスはそう言うが、まだ体が本調子では無いので、早く帰りたいと思っていた。が、これだけは聞いておきたいこともあったので、我慢していた。
「国王、聞きたいことが御座います。」
「良いぞ。何でも聞くが良い。」
「あの魔物…自身のことを魔人ザナックと名乗っておりました。」
「…うむ?」
「魔物とは何なのでしょうか?」
「…マティーナ先生から教えて貰っていないのか?」
そう言ってマディソンはマティーナを見る。しかしマティーナは笑顔で首を横に振った。
「…良かろうフィリスよ。本来国家機密だが、其方には知る権利がある。魔物とはな、我々人間の成れの果てだ。」
「成れの…果て?」
「陛下、その先は私が説明して宜しいでしょうか?」
そう発言したのはマティーナだった。
「うむ、許可する。」
「有難う御座います。少し砕けた発言をすることもお許し下さい。フィリス君、今の陛下の言葉は本当なんだ。私達人間には魔素がある。それを使って魔法を出せる、そしてその威力が魔力と呼ばれている。ここまでは勉強したよね?」
「はい。」
「では何故勉強したり特訓したりする必要があるのか、君はお母さんから学んだかい?」
「…いいえ。母は私に、いつか必要になる、便利なものだからと魔法を教えてくれただけでした。」
「…うん。一般的にはそう教えるんだ。魔法は本当に便利だ。火を炊いて食事を作ったり、水を出して飲んだり、暗いところでは明るくしたり、暑ければ風を起こして涼むことも出来る。四大属性を使える君なら理解しているよね?」
「勿論です。」
「なら、その便利な魔法を、戦闘用に特化させたらどうなる?」
「…モンスターや魔物を倒す手段になります。」
「うん。殺すための手段になるよね。」
「…まさか。」
「君の想像した通りだよ。殺しのための手段として魔法を極めようとした人間の成れの果て、それが魔物と呼ばれている。その魔物にも定義があってね。元々普通の人間がモンスターや動物等を殺めるだけでは飽き足らず、人間を襲うようになったのが、君が戦った魔人なんだよ。」
「他の種族がいると言うことですか?」
「うん。これは極秘だから、公表しないで欲しいんだけど?」
「勿論、誰にも言いません。」
「…数年前、他国において魔人を越える個体が現れたんだよ。その名は魔神。読みは一緒なんだけど、魔の神という意味だよ。その定義は、モンスターの体から魔石を取り出し、自らそれを取り込み、魔力を更に高めた存在だ。因みにモンスターは魔法を使える動物の総称だって知ってるよね?」
「はい。マティーナ先生達から学びましたから。」
「そのモンスターの魔石を取り込む…それこそ自身が持つ魔素の量や威力を高める事に直結している。つまり、並みの人間では刃が立たないんだ。」
「なるほど…それで驚異と言える、この王国の最高の魔法使いの先生が邪魔だったと…?」
「恐らくね。何せ、数年前、魔神を倒したのは私だから。」
「驚きませんよ。先生は強いですから。しかし、何故魔人ザナックは…」
口を開きかけたフィリスに対して、マティーナは少し笑って言った。
「何故わたしの攻撃が効かなかったのか…だろう?魔人ザナックは恐らく火に対して耐性があったんだ。ジンガ君のフレイムランスを止めた時に気付くべきだった。」
失敗、失敗と、頭をポリポリ搔いて反省の顔をするマティーナ。
「…君には悪いんだけど、陛下には君の固有魔法が魔物に効果的だと言うのは話させて貰ったんだ。」
「…私を戦争の道具にするつもりですか?」
「いいや。そうならないようにするために話したんだよ。考えてもみなよ、そんな魔物に対する有効な手段を持つ存在を、他国が放って置くと思うかい?君のことは、国をあげて守って貰う。ただ、もしも魔物が現れたら…」
「…全力で戦えと言うことですか?」
「まあそれも、君が騎士学校を卒業してからだよ。君は私の教え子だ。君が戦いたいというなら止めはしないけど、せめて18歳、成人するまでは戦争の道具にさせはしないよ。君が陛下や他の人達に何か言われたら、私に相談して欲しい。全力でサポートするからね。」
「解りました、マティーナ先生。」
「うむ。話はそこまでだな?それでフィリスよ。今回は特例として、騎士では無いが君に勲一等が付与されることになった。これはマティーナも納得している。実際に勲章を与えるわけでは無いが、それに代わる物を送ろう。何が良い?」
「…」
そこまで言われてフィリスは困ってしまった。と、カーマインが声をかける。
「余程無理の無い範囲にしておいた方が良い。土地とか家でも良いんだよ?」
そう助言してくれたが、フィリスは無理は承知で言った。
「では陛下。この国にあるダマスクス鉱石が欲しいです。」
「む…?マティーナよ、まさか…?」
「既に加工したダマスクス鉱石製の武器を彼は持っていますが…フィリス君、何をしようというの?」
「…先生のように服を作りたいんです。」
それを聞いて、マティーナ、マディソン、カーマインが笑った。
「良かろう。貴重な物だが其方にやろう。ただし、条件がある。」
「…何でしょうか?」
「更に強くなれ、フィリスよ。其方ならばマティーナ先生を越えられるはずだ。これは国王としてではなく、1人の人間としての願いだ。」
「解りました、約束します。」
そうして、謁見は終わりを告げた。
後日、ダマスクス鉱石がフィリスの元に届けられ、それを親方の元へ持っていくと、親方は直ぐに指輪型に加工してくれた。その後、フィリスは服と籠手、両方を使いこなすための特訓を開始した。ものにするために時間はかかりそうだが、下手な訓練以上にキツい特訓に、フィリスは充実感を味わっていた。
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