第19話
その日、全校生徒と全教師がグラウンドに集められていた。グラウンドにある台の上からマティーナが喋る。
「えー、皆さん。校長のマティーナ・ティルです。今日から暫く天気は良いそうなので、楽しい遠征訓練になりそうですね。」
軽く挨拶するマティーナだが、生徒達は緊張している者の方が多かった。
「早速ですが、組み分けを実施します。これを見て下さい。」
マティーナがそう言うと、カリナが巨大な掲示板を運んできた。そこには全校生徒600人の、組み分けされた編成が書かれてあった。
「各人、自分の組を確認して、担当の教師の元へ集まって下さい。」
そう告げられて、全員が動き出す。かなり広いグラウンドで、押し合いへし合いしながらも、15分ほどで全員が組み分けされ、担当教師の元に集まった。一組20人、30組に分かれて、一組につき2名の教師がついていた。
「それぞれの担当教師が行き先を知っています。その指示に従って、気をつけて行ってきて下さい。私と教頭は学校に残ります。」
そう告げて、マティーナは台から降りた。さて、そこからが大変だった。フィリスの組は男子8人、女子12人。しかもフィリスと教師を除くと全員が3年生だった。
「おいおい、何で1年が1人で、後は顔見知りなんだよ。」
「知らねぇよ。」
「おいこの餓鬼、確かフィリスとか言ったか?」
「そうよ、この間の武道大会の優勝者で…」
「あぁ、校長の子飼いの…」
そんなことを大声で話している。その様子を見て、教師達が、
「おいお前等。行く場所を聞かなくて良いのか?」
「はぁ…先生よぉ、まさか南の森の中じゃねえだろうな?」
「残念だったな、お前達が行くのは東の砂漠だ。」
「なっ!?」
「巫山戯てんのか!?」
「サンドワームの生息地じゃない!」
「冗談だろう!?」
「私達に死ねと言うの!?」
そんなことを口々に言う3年生を見て、フィリスは呆れていた。
「まあ安心しろ。校長の考えでは、お前達が1番早く終わるだろう。」
「なんだよ、それ。」
「“サンドワームを皆で1匹狩ってきて“だそうだ。それさえ済めば終わりだ。」
「くそっ!おい糞餓鬼、お前のせいだろうが!?」
「…」
「何とか言えよ!」
フィリスは黙っていた。サンドワーム、この世界でもかなり危険な生物とされている。理由は生息地とその生態のせいである。砂漠の砂の中を縦横無尽に動き回り、出てこない時は出てこないのだが、1度狙いを付けた相手を襲い続ける。一個騎士団でようやく勝てると言われている相手を、ただの学生が行うのだ。正気の沙汰では無い。生徒達が焦っているのも無理は無かった。が、フィリスは落ち着いて口を開いた。
「先生、質問です。」
「なんだ、フィリス・ハーヴィ君?」
「サンドワームを生け捕りではなく、倒せば良いんですよね?」
「その通りだ。」
「死体を持って来いと言っているのですか?」
「いや、魔石を取ってこいとのことだ。」
「…」
「おい餓鬼、何考えてんだ?」
「時間も勿体ないので、行きましょうか。」
「はぁ!?巫山戯てんのか、餓鬼!」
「頭イカレてんのか?あんな危険なモンスター、ぜってぇ行かねえ!」
「そうよ!」
「退学の方がマシだわ!」
口々にそう言う先輩達の姿を見て、フィリスは思った。
(なるほど、やる気無くすとこんな風になるのか。)
そう考えていると、1人が言った。
「行きたきゃてめえ1人で行け。俺達は行かないからな。」
そう言って全員が去ろうとする。
「…ゴミクズ。」
それはフィリスが発した言葉だった。
「-なんだと?」
「もう一度言ってみろ、糞餓鬼!」
「何度でも言ってやるよ、ゴミクズ共。」
実は大分前からフィリスはキレていた。
「ぴーちくぱーちくうるせえんだよ。根性無しのクズ共が。」
フィリスは更に続ける。
「ゴミクズらしく家に帰ればいい。それで両親に言え。やっぱり騎士にはなれませんでしたってな。年下に馬鹿にされて逃げ帰ってきましたってなぁ!」
ハッハッハッとフィリスは笑った。それにカチンときた19人の3年生達は、
「上等じゃねぇか!」
「巫山戯んな、餓鬼!」
「サンドワーム位、倒せるわよ!」
「あーもう、行くわよ!」
何とかやる気を出した様だった。そして組全員で東の砂漠へと向かうのだった。
実は砂漠地帯まで歩いて1時間ほどであり、それはこの遠征訓練の中でも近い分類に入る。南の森が最も近いのだが、そこには最早危険なモンスターはいない。1年生は大抵そこに行くのだが、恐らく落ちこぼればかり集められた組なのだろう。直ぐにへばりながら砂漠地帯までやって来た。疲れている生徒達に対してリカバリーをかけて疲れを取り除き、喉が渇いたならば魔法で水を出した。何でも出来るフィリスがいるからこそ、マティーナも無茶なくんれんにしたのだろう。と、砂漠を歩いていると、不意にフィリスが足を止めた。
「…どした餓鬼、疲れたのか?」
「…いや。気をつけろよ。」
「…どういう意味だ?」
そんなやり取りをした直後、地震が起こった。
「なっ、なんだぁ!?」
フィリス以外の21人がその揺れでへたり込んだ。普通に立っていたフィリスが臨戦態勢を取り、
「来るぞ!」
と、叫んだ。フィリス達の前方三十メートルの所から、サンドワームが姿を現した。
「なっ!?」
「で、でかい!」
「くそったれ!」
生徒達はそう叫んで、思い思いの魔法を詠唱してサンドワームへと撃ち込む。が、まるで効いていない。
「くそ、やっぱり無理じゃねぇか!」
「落ちこぼればかりの俺達じゃ…」
そういって全員がへたり込んでしまった。が、それを見届けて、フィリスが前に出る。
「先輩達、頑張りましたね。後は任せて下さい。」
そう言うと、フィリスはサンドワームのいる場所の上空に水の下級魔法、アイスニードルを出す。その数、50。
「はぁ!?」
「なんだ、ありゃ!?」
生徒達と共に教師達も驚いていたが、フィリスは気にせずアイスニードル全てをサンドワームに目掛けて放った。
「ピギャーーー!」
悲鳴を上げて、サンドワームが倒れていく。ズシーンッ!と、大きな音がして、それっきり静かになった。フィリスはサンドワームに近づき、心臓から魔石を回収した。その大きさはボーリングの玉より少し大きい位だが、質量は大きく、約30キロほどもあった。それを回収すると、フィリスは、
「目標達成。さあ、帰りましょう。」
と全員に声をかけた。それを聞いて、終わったんだ…と、皆安堵した。
学校に戻ると、やはり誰も戻っていなかった。マティーナとジンガ・セルディン教頭がグラウンドにいたので、回収した魔石を見せた。
「ハーヴィ君、まさか君1人で…?」
ジンガがそう尋ねるが、ついてきていた教師2人も説明してくれた。
「なるほど。でも、君1人でも何とかなったのでは?」
「私の魔法は万能では無いんですよ、教頭先生。」
「ん?どういう事だ?」
「先輩達が時間を稼いでくれなければ、私も逃げ回りながら魔法を使わなければなりません。1人たりとも諦めなかったからこそ、サンドワームを倒せたんです。」
「うん、そうだね。ジンガ君、そう言うことだから、彼等をゆっくり休ませてあげよう。皆、家に帰って良いよ、お疲れ様。」
マティーナがそう告げて、遠征訓練は終わりを告げた。フィリスが帰ろうとすると、生徒19人がフィリスを呼び止めた。
「あのさ…餓鬼扱いして悪かった。」
「俺達、落ちこぼれって言われててさ、むしゃくしゃしてたんだ。」
「その…貴方は凄いわ。」
「また訓練で一緒になったら、宜しくね。」
そう告げてくる。それに対してフィリスは、
「私こそ、暴言を吐きました。済みませんでした。」
と、謝罪した。そこで全員笑いあった。その様子を見ていたマティーナとジンガは、
「…彼等も変わりましたね。」
「そうだね。あんなに活き活きしてるのを見たのは、久しぶりだよ。やっぱりフィリス君に頼んで良かった。」
「そうですな。」
そう話していた。
さて、テッドとティファのクラスは、フィリス達から遅れること2日で訓練を終えた。彼等の訓練内容は、テッド達は山で、ティファ達は森で戦い、魔石を持ち帰ることだったのだが、下級クラスの1年生ばかりで大変だったそうだ。そんなことを2人から延々と愚痴られ、フィリスはくたくたになったのだが、それはまた別の話である。
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