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魔弾転生  作者: 藤本敏之
第1章
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第16話

フィリスの優勝に終わった武道大会の翌日、マティーナは城へと赴いていた。中に入り1時間後、会議室にてメイドが煎れたコーヒーを飲んでいると会議室の扉が開き、国王であるマディソン・ガデルが姿を現した。

「久しいな、マティーナ先生。」

「国王陛下もご健康そうで。」

そう言うと、マディソンは頭を振って、

「先生、今は公務では無いのです。普通に話して頂きたい。」

「そうかい?じゃあ普通に。元気だった、マディソン君?」

そう話をした。マディソンもまたマティーナの生徒であるので、敬語で余り喋ることが無い。勿論公私混同するつもりは無いのだが、普段世話役として、国の発展のために話をしているので、教え子に対しての話し方をする。

「で、私に何かようかい?いきなり呼び出されて、こちらとしては理不尽にも程があるんだけど?」

「申し訳ありません。しかし、重要なことです。我が娘、アリシアの件です。」

それを聞いて、マティーナはこめかみをピクリと動かした。

「あの子は才能はあったはず。しかし生徒間で権力を翳したのは事実です。その件についてご助力を願いたいのです。」

「知らないよ。家族である君が知らないことを、私が知っているとでも?確かにSクラス入りはしていたけど、それは他の教員達が納得して入れただけだからね。あの子の教育をしていた教師達にもそれなりの罰は与えたし、それ以上私は介入すべきでは無い、そう考えているよ?」

出されていたお茶菓子をポリポリ囓りながらマティーナは話す。マディソンはそれを聞いて、溜め息をついた。

「しかし、こればかりは見過ごせない。第2王女の膝を破壊して再起不能にし、そればかりか顔まで焼いた生徒のこと、私が何も知らないとでも?」

「ふーん、彼のこと、知っているの?」

「嫌、全く。」

それを聞いて、マティーナはこけそうになった。

「何も知らないなら、何も言う資格は無いよ、マディソン君。そんな話なら、私は帰る。」

「…唯一解っているのは、その生徒は貴女の特別クラスに1年生でありながら入っていること位です。子飼いの龍、そう呼んでいる者もいるようですが?」

そう言われて、マティーナは少し汗が出て来た。しかし別に怪しいことをしているわけでもないので、平然としていた。

「で、私に何が聞きたいの?」

「彼の素性です。」

「知らない。そんなに聞きたかったら。君の所のカーマイン君に聞きなよ。」

「…?」

「まさか、知らなかったのかい?その生徒はフィリス・ハーヴィ君。カーマイン君の養子だよ。」

「えっ!?」

驚愕の顔をするマディソンに対して冷ややかな目を向けるマティーナ。

「そんなわけだから私は帰る。武道大会の後始末も残っているしね。」

「待って下さい、せめて娘の顔を治して頂けませんか?」

「…君の所の魔術師に頼みなよ。私は生徒のことは大切だけど、部外者、特に退学処分を受けるような人間に情けをかけない。君はよく知っているはずだよ。」

「…」

マディソンは俯いてしまった。確かにアリシアの自業自得であるので、それ以上は何も言えなかった。そしてマティーナが会議室から出て行くのを黙って見送った。


さて、2日間の休みが終わってフィリスが学校へ行くと、テッドとティファが仲良く校門の前に立っていた。

「テッド、ティファ、おはよう。」

そう声をかけると、2人も挨拶を返す。が、今日は様子が違った。

「なあ、フィリス。校長室って、何処なんだ?」

テッドがそう聞いてくる。

「いつも行ってるから案内するけど…どうしたの?」

「実は、昨日の夜にこんな手紙が来たの。」

ティファがそう言うと、2人は手紙を見せてくれた。そこには、“明朝、校長室まで来られたし。“と、書かれていた。

「俺達、何か不味いことでもしたのかな?」

「まさか…退学とか?」

「いや、きっと違うよ。」

そう話をして3人で校長室へ向かう。フィリスが代表で扉を叩くと、

「どうぞ。」

と、いつもの声でマティーナが返事をした。中へ入ると、相変わらず背丈に似合わない大きな椅子に座って肘を机に置いて、ニコニコしながらマティーナが迎えてくれた。

「おはよう、フィリス君、オルステッド君、ティファ君。」

「おはよう御座います、マティーナ先生。」

「ちょっ!?フィリス、校長先生の事を名前で!?」

「ふふふ、いいんだよ、オルステッド君。以前のストレイボウ君とヨヨ君の一件で、私がそう呼ぶことを許可したんだよ、彼だけ特別にね。」

「そっ、そうなんですか!?」

「凄いなぁ…フィリスは。」

テッドもティファもポカンとした表情になる。

「それでマティーナ先生、2人が先生に要件があるとのことで、一緒に来たのですが?」

「うん。昨日の晩に失礼ながら手紙をだしたんだよ。御免ね、急に。」

「いえ…」

「正直驚きましたが…退学ですか?」

「…はぁ?」

ティファの言葉に呆れた声を出すマティーナ。暫く何かを考えて、

「いや、君達2人、何か悪いことでもしたの?」

「するはず無いでしょう。」

2人に代わってフィリスがそう言う。

「それはそうだよね。今日来て貰ったのは、2人の意志の確認がしたかったからだよ。」

そう言うと、マティーナは1つ咳払いをして、

「オルステッド君、ティファ君。特別クラスに入る気はあるかい?」

「えっ!?」

「私達が…特別クラスに!?」

それを聞いて驚いた2人だったが、マティーナは続ける。

「武道大会において、成績は良くなかった。確かにそうなんだけど、2人の戦いを見てね。1回戦で2人が戦っていたとき、とても1年生とは思えなかったんだよ。」

そう言うと、マティーナは椅子を回して後ろを向く。

「それは多分、フィリス君が関係していると思ったんだよ。3人で一緒に居るのも目撃したしね。」

「それは…」

「確かに…」

「でね。仲の良い君達2人を特別クラスに入れれば、フィリス君の能力も更に向上する、そして優秀な生徒が更に2人も育つことになる。私はそう考えたんだ。」

そこまで言い切って、マティーナは再び椅子を回して、3人を見る。

「どうかな?私の授業はとても厳しいけれど、卒業までに騎士団長を務めているカーマイン君位強くなれるとは思うけど?」

それを聞いてテッドとティファは少し考えて、

「…勿論、やります!」

「うん、そうだよ。このままじゃフィリスに置いてけぼりにされるもの。それに、自分達の限界が知りたいです!」

2人の言葉、そしてその目の輝きを見て、マティーナはうんうん頷いた。

「と言うわけだから、フィリス君、君の新しいクラスメイトだ。仲良くね?」

「解りました、先生。」

テッドとティファ、2人が歓喜の声を挙げる。それを見て、微笑んでいるフィリスとマティーナ。こうして特別クラスに新しい仲間が増えた。と、そこでフィリスが疑問を抱く。

「マティーナ先生、まさか2人にも仕事を手伝わせるつもりですか?」

「勿論、私の仕事の内容は、宮廷魔術師以上にややこしいものばかりだ。卒業まで手伝ってくれると、それだけで宮廷魔術師どころか大臣にまでなれるよ。」

「…本音は?」

「私自身が面倒くさ…ちょっ、フィリス君!?」

そんなやり取りを見て、爆笑するテッドとティファ。しかしマティーナは直ぐに真顔になって、

「まぁ、手伝ってくれると助かるんだよ、色々とね。特に今日とかは。」

「…何故ですか?」

テッドが質問する。

「カリナが休みだからね。そんな日は仕事が溜まっちゃって…」

「カリナ?」

「私の秘書のことだよ。」

「正確には…ゴーレムかホムンクルスですか?」

「そうそう…え、フィリス君、気付いていたの!?」

何のことか解らないテッドとティファだが、フィリスが説明をする。

「武道大会本戦で審判をしていた女性がいただろう?」

「あぁ、あの人がカリナさん?」

「そう。先生のゴーレムかホムンクルスだと思っていたんだ。どうなんですか、先生?」

「正解だよ。彼女はホムンクルス寄りのゴーレムなんだ。だけど、どうして解ったの?」

「カリナさんから人間特有の生気が感じられませんから。あとはマティーナ先生の不条理な押し付け仕事を嫌な顔せずやってますからね。」

「うぅ…初めてだよ。あの子を見破った生徒は。」

「今日はどうしているんですか?」

「自宅の培養液の中で休息させているよ。武道大会では、企画、運営に審判と、八面六臂の活躍をしてくれたからね。けど、ここだけの話にしておいてね。カリナの正体を知っているのは君達と教頭位だから。」

「解りました、私達も口は堅い方ですから。」

それを聞いてホッと胸をなで下ろすマティーナを見て、また1つ貸しが出来たなと思うフィリスだった。

「それで、今日の授業なんだけど…フィリス君、この間からやっていることを2人に見せてあげて。」

マティーナは急に真面目な顔付きになり、フィリスに手本を見せろと言う。

「解りました。」

フィリスはそう言うと、端っこによると、逆立ちをした。

「まさか逆立ちをずっとするだけ…なわけないか?」

「まあ見てなさい。」

テッドが口を挟むが、マティーナは静かに見ているように促す。逆立ちをしていたフィリスは、地面についている手から魔法を発動、ポンッと音をたててフィリスの体が少し浮く。そして直ぐに逆立ちに戻った。

「これ、出来るかい?」

「出来ますよ!」

テッドがそう言うと、逆立ちを始めて、魔素を集中させて魔法を発動…出来なかった。

「あれ?おかしいな?」

「なにやってるのよ、テッド。」

「いや、魔法が…出ないんだ。」

「えっ!?」

テッドの言葉に驚くティファ。その様子を見て、逆立ちから直立に戻ったフィリスとマティーナは笑っていた。

「それはそうだよね。この部屋の周囲にはね、魔法障壁が張られているんだよ。」

「魔法障壁?」

「普段の魔素の量は変わらない。だけど魔法が使えない。何故だと思う?」

マティーナの質問に、テッドとティファが考える。そしてティファが答えた。

「魔力の量…ですか?」

「正解だよ。この部屋の周辺では、魔法の威力、即ち魔力が制限される。それも百分の一にね。」

「…はぁ!?ひゃ、百分の一!?」

「つまり、この部屋で魔法を使いたいなら、百倍の力を込めなきゃならないって事だよ。」

フィリスにそう言われてドッと汗を流すテッドとティファ。それを見てマティーナはまた笑い出す。

「アハハハッ、普通はそうだよね!フィリス君なんか1日でこの理論をマスターしちゃったからね。マティーナ、つまんない。」

「先生の教え方が上手かったからですよ。」

あっけらかんとした2人を見て、テッドとティファはこの特別クラスが本当の地獄だと思った。

「まぁ、2人が出来るようになるまで、フィリス君の新しい課題は無しだから。早く出来るようになってね。」

不敵な笑みを浮かべるマティーナを見て、また汗を出すテッドとティファだった。


同じ頃、城においてはカーマインがマディソンに呼び出されていた。

「陛下、御用ですか?」

「うむ。其方の養子の件についてだ。」

「…はぁ。」

「フィリス・ハーヴィ、どういう子なのだ?」

「…10年前、私が持ってきた魔物の死体を覚えておいでですか?」

「あぁ、其方が倒した…」

「あの時も申し上げましたが、やはり信じては貰えなかったのですね?」

「まさか…そのフィリスとやらが?」

「その通りです。10年前、僅か5歳だったその子が魔物を討ち果たしたのです。」

「…あの時は、其方の冗談かと。」

「陛下、私が嘘や偽りを申し上げたことなどありません。」

「うむ…確かに…しかしなぁ。5歳児が魔物を倒したと、誰が信じるのだ?」

「今回のアリシア様の件、陛下も聞いておられるでしょう?」

「あぁ。あれはあの子の落ち度である。それは解ってはいるのだが…親としてはなぁ。」

「殺そうと思えば殺せたのを、あれで済んだのは良かったとお思い下さい。」

「うーむ…カーマインよ、フィリスに会えるか?」

「は?」

「フィリスを城に連れてこい、そういう意味だが?」

「…解りました。しかし、あの子は今…」

「解っておる。マティーナ先生の邪魔はせん。次の学校が休みの日に城へと連れてくるのだ。私が直々に見て判断をする。」

「…解りました。」

そう話して、カーマインは下がっていった。

読んで下さっている方々、有難う御座います。感想や激励等頂けましたら励みになります。宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 直々に判断する?娘の教育すらできない王が寝言は寝て言えって話だよな(笑)
2021/12/20 18:36 退会済み
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