第14話
フィリスが2回戦を戦っている時、ティファも2回戦だったらしく、元の場所に戻ったときにはテッドだけがそこにいた。
「その様子だと、無事に勝ったんだな。」
テッドの言葉にコクンと頷いて返事をする。テッドから弁当箱を受け取り、一旦荷物を置きに行こうとすると、ティファが浮かない顔をして戻ってきた。
「よう、ティファ。どうだった?」
テッドがそう声をかけるも、浮かない顔をやめない。その様子を見て、フィリスが声をかける。
「…ティファ?」
そこでハッとするティファ。そして…
「御免なさい、フィリス、テッド。私…負けちゃったの。」
そう告げた。
「えぇ!?ティファが負けたぁ!?」
驚いたのはテッドだった。
「落ち着きなよ、テッド。…ティファ、もしかして1回戦でテッドと戦って力を使いすぎたの?」
フィリスが優しくそう言うと、ティファもコクンと頷く。
「そうね…実際テッドは強かったから。」
そう言ってふふふと笑うティファ。しかし、フィリスは何かを感じとっていた。
「兎に角お疲れ様。後は私だけだし、2人も応援してくれるんだろう?」
「勿論だぜ、なあティファ!」
「えぇ。応援するわ。」
そう話していると、再びフィリスを呼ぶアナウンスがかかる。
「…?さっき終わったばかりなのに。」
「対戦相手も早く終わると早く試合が行われるんだ。」
「フィリス、頑張ってね。」
再び弁当箱をテッドに預けてフィリスはグラウンドへと向かった。
結局その日は3回戦まで終わった。教師達から告げられたのは、明日は6回戦まで、明後日が8回戦まで行うということだった。その話を聞いて解散となり、家路に着いたフィリス達。途中で2人と別れてフィリスが家に着くと、玄関先でコール、ネーナ、リースが出迎えてくれた。
「お帰りなさい、兄さん!」
「試合はどうでしたか!?」
「あらあら、コール様、ネーナ様。フィリス様はお疲れのようですよ。」
口々にそう話している3人に対して、
「ただいま。まあ、無事に3回戦まで勝ったよ。」
と告げた。すると我が事の様に喜んでくれた。その様子を見ていると、マチルダが2階から降りてきた。
「騒がしいわねぇ。フィリス、お帰りなさい。」
「マチルダさん、ただいま戻りました。」
「疲れているでしょう?お風呂に入ってさっぱりしたら?」
「はい。そうさせていただきます。」
そこまで話すと、マチルダはコールとネーナを連れてリビングへと向かった。それを見送って、リースに着替えを用意してもらってゆっくりと風呂に入った。
その日の夕食時は武道大会の話で持ち切りだった。
「え?テッドさんもティファさんも負けたんですか?」
「そうなんだよ、ネーナ。あの2人が1回戦で戦ってね。」
「2人はどちらが勝ったのですか?」
「ティファだよ。」
「やっぱり。コール兄さん、私の勝ちですね。」
「そうだね、ネーナ。」
「…?」
そんな話をしているコールとネーナ。フィリスは不思議がっていると、マチルダが、
「フィリス。2人はテッド君とティファさん、どっちが強いか話をしていたのよ。」
と、説明してくれた。なる程と、フィリスが思っていると、カーマインが口を挟んだ。
「ティファさんが2回戦で戦った相手は誰だったんだい?」
「確か…アリシアとか言われていましたね。」
「…まさか、アリシア第2王女かい?」
「知っているのですか?」
「勿論。去年の優勝者だし、この国の王女様だからね。フィリスは会ったこと無かったね。」
「いえ、今日1度話はしました。」
「そうか。で、どうだった?」
「正直、ティファが負けるような相手ではないと感じました。でもテッドと戦って消耗したティファには辛かったんだと思います。」
「そうか。気をつけるんだよ、フィリス。」
「はい。」
そう話をして、夜は更けていった。
次の日、フィリスは校長室に行かずに観客席の方に行った。既に沢山の生徒が居る。その中にテッドとティファを見つけて、話しかけた。
「テッド、ティファ。おはよう。」
「おはよう!」
「おはよう、フィリス。」
2人は元気よく挨拶してくれた。
「4回戦、いつ始まるのかな?」
「フィリスは試合早いけど、対戦相手が決まってからじゃないと解らないからね。」
そんな話をしていると、
「フィリス・ハーヴィ君、グラウンドへ。」
とアナウンスが響いた。
「今日はここから見てるからな。」
「頑張ってね!」
そう2人に言われて、右手を挙げて答えたフィリスだった。グラウンドへ降り立つと、対戦相手は興奮状態だった。
「準備は良いかい?」
審判がそう言うと、フィリスも対戦相手も頷いた。
「それでは始め!」
審判の言葉と同時に対戦相手はファイアボールを放った。普通下級魔法であれば、詠唱無しに放つことが出来るが、精度は詠唱しないと最低限の物になってしまう。フィリスは長年の訓練でそれを無視した魔法を使えるが、対戦相手のファイアボールは遅く、威力も殆ど無かった。
(なるほど、これは囮で今詠唱しているのが本物か。)
そう考えて、フィリスはファイアボールではなく対戦相手を見ていた。やはり長々と詠唱をしているのが見えて、フィリスは相手のファイアボールを掴んで対戦相手の足元に投げつけた。
「うわっ!」
フィリスは着弾したファイアボールに驚いて詠唱できなくなった対戦相手の後ろに高速で回り込み、首に手刀を叩き込んだ。倒れ込んだ相手に近付いて、息があるか確認し、審判はフィリスの勝利を告げた。観客席のテッドとティファの元に戻ると、
「なぁ、フィリス。あの技、そろそろ教えてくれよ。」
「まだ2人には早いよ。」
「そうよ、テッド。もっと強くなってからにしましょう。」
そんな話をして、残りの試合も勝ち進んだフィリス。翌日も危なげなく勝ち進んで、本戦出場を一番乗りで果たした。
読んで下さっている方々、有難う御座います。