第125話
次の日の夕食後、お風呂に入ってさっぱりしたフィリスは、談話室にて皆を待っていた。
「う~ん!仕事終わりのお風呂はさっぱりするわね~!」
「…本当。…熱いのは苦手だけど、気持ち良く入れる温度にしてくれてるから助かる。」
「お姉様、今日は冷たい飲み物が良いなぁ!」
「もう、ライファったら。フィリス様の好みに合わせますので、そうなるかは解りませんわよ。」
「昨日はクッキーじゃったから、エクレアにしようかの。」
「でも、ミロ君もハクア君も来なかったね?」
「そうですね。フィリス殿と入ったのでは?」
「羨ましいわねぇ…」
「…姉さん、仕方ない。」
「そうだよねぇ。私達は大人なんだから。」
「フィリス様に気を使わせる訳にはいきませんわ。」
「そうじゃな。」
そんな声が聞こえてきて、エンレンが扉を開けて、中へと入ってくる。
「あら、フィリス様お一人ですの?」
「ミロ君とハクア君は?」
ランファ、マティーナが不思議そうに言う。
「あぁ、バーバラと入るから、後で入るって。」
フィリスは誤魔化した。実はミロとハクアはフィリスが大事な話があるから誰も談話室に来ないように話をしてくれている。本来なら、談話室には騎士や兵士も入ることが許されており、フィリス達に質問する者もいるのだ。邪魔が入らないように、手を回してくれている。そして、皆がそれぞれの席に座る。
「フィリス様、冷たい飲み物でも良いですか?」
「ライファ、その聞き方は…」
「…ズルくない?」
「フィリス様?」
「うん、冷たくて良いよ。」
「では、新作のエクレアを出そうかの。」
ランファとマリアーナが忙しなく動き、お茶会の準備は出来た。そこから暫く他愛ない話をする。騎士、兵士達の成長、学生達の様子など、近況報告が主だったが、フィリスは真剣に話を聞く。だが…どこか上の空といった様子だ。それに気づいたのはアサギだった。
「フィリス殿、どうかしたのか?」
「え…?」
「心ここに有らず…そんな感じがしたので…」
そう言われ、皆がフィリスを見る。
「…」
「フィリス様…?」
「…どうなさったのですか!?」
「まさかお姉様が何か飲み物に!?」
「そんなことしませんわよ!?」
「妾が何かしたのかの!?」
四龍、マリアーナは大慌て。いきなり静かに談話していたのにギャアギャア騒ぎ始める。
「皆、落ち着いて。飲み物に何か入っていたら気付くし、ランファがそんなことするはず無い。エクレアは懐かしい味でとても美味しいよ。」
そう言いながらフィリスはエクレアを食べ、飲み物をゴクゴク飲む。
「ならどうしたの?君らしくないじゃないか。」
「フィリス殿…?」
そこまで言われて、フィリスは一呼吸おいて話をする。
「実は…その…皆に聞いて欲しい事があるんだ。」
掴み合いにまで発展しそうになっていた四龍、今にも泣きそうになっていたマリアーナも落ち着いて席に座る。
「お見苦しい真似をしました。」
「…すみません。」
「お姉様、ご免なさい。」
「私こそ…」
「フィリス様…」
「さあ、落ち着いたし、話してよ。」
「今さら隠し事は無しですよ。」
そう言われてフィリスは立ち上がり、伝えた。
「皆…このフィリス・ヴォルファーと…結婚をしてください!」
大声てそう叫んだ。
「本当は…駄目なことなのかもしれない。でも…ここにいる7人を…愛しています!だから…私と結婚してください!」
頭を深々と下げるフィリス…その様子に…一瞬場の空気が凍りついた。
「フィリス…様…」
「…本当に…」
「私達…」
「えっと…あの…」
「う…うむ…?」
「えー…と…」
「なりません!」
しどろもどろになりながら、言葉を出そうとする皆と違い、アサギだけが声を荒げて否定をした。
「フィリス殿、貴方はこの国の大切な人なのです!それを…私のような者と…一緒になりたいなどと…」
顔を真っ赤にしながらアサギは否定する。
「アサギさん…?」
「そんなこと…誰も認めてはくれませんよ!」
そう言って、アサギは扉を開けて外へと出ていってしまった。と、入れ替りでミロとハクアが入ってくる。
「パパ…」
「アサギお姉ちゃん…泣いてたのですぅ…」
「…皆はここにいて。そして…もう一度考えて欲しい…私と…結婚しても良いかを…」
そう伝えて、フィリスはアサギの後を追った。
アサギは直ぐに見つかった。というのも、フィリスは気配察知が出来るから。
「アサギさん!」
ミカヅチ王国との間の森の中までアサギは走っていた。全力で追いかけ、フィリスはアサギの右手を掴み、こちらを向かせる。泣き腫らした目にまだ涙が見えた。
「離してください、フィリス殿!私はミカヅチ王国へと帰ります!」
「どうして…」
「このまま貴方と共にいれば…私は…」
そう叫ぶアサギをフィリスは抱き締めた。月が雲で隠れ、再び顔を出すまで。そしてゆっくりと離す。
「フィリス殿…私の母の話を…知っていますか…?」
「…」
「私の母は…病に犯され…亡くなりました…私も…同じ病気なのです!恐らく…後3年の…命なのです!」
「その病気なら…前に治療した時に治しました。」
フィリスの言葉にアサギは驚く。フィリスは話を続ける。
「以前レイジさんから話を聞くまで、解ってはいませんでした。しかし、ヒュドラの毒に犯されていた貴女を診察したとき、心臓に悪性の腫瘍があるのを見つけました。アサギさんはそれまで激しい運動をしてその度に自分を傷つけていた…でも最近はそんなことはない。でも何かを残したいから…バリロッサ帝国との戦争の際にも最前線で戦った…違いますか?」
「…なぜ…教えてくれなかったのです…?」
「アサギさんが生き急いで、死なないようにするためです。もう…隠す必要もない。アサギさん…共に生きて…ミカヅチ王国での私の行いの…償いをさせてください…」
「…え?」
「貴女が舌を噛みきろうとした時、私は…貴女の唇を奪った…その償いです。」
「あれは…」
「初めてだったんでしよう?」
そう言われて、アサギはコクリと頷く。
「ミカヅチ王国の人達から聞きました。ミカヅチ王国では…初めて接吻をした者と結婚しなければならないと。その責任…果たさせて下さい。」
「でも…」
アサギは目をそらす。
「何かまだ問題が?」
「フィリス殿、大切なことを見落としている…私は…ただの人間…寿命を克服したフィリス殿や皆の様には生きられない…そして…身分が違う…」
「そんなこと、些細なことです。」
フィリスがはぁ…とため息をついた。
「取り敢えず、皆の元に戻りましょう。話の続きはその後で。」
フィリスはアサギをお姫様抱っこし、飛行魔法で帰っていった。
「皆、聞いて欲しい。」
戻ったフィリスは皆にアサギが抱える問題を説明した。話を聞いているのは、四龍、マリアーナ、マティーナ、アサギ。そしてミロとハクアもそこにいた。
「アサギさんはそれで悩んでたんだね…」
「…ご免なさい。」
「気付いてあげられていたら…」
「それでフィリス様、どうなされますの?」
「取り敢えず…困ったことはファーリス様にお伺いする必要があるのぅ。」
「それから…皆は…しっかりと考えてくれた?」
「勿論です。」
「…フィリス様と結婚出来る。」
「それは夢のような話です!」
「私達は勿論結婚させていただきますわ!」
「うむ、不束ではあるが…」
「宜しくね!」
四龍、マリアーナ、マティーナの言葉を聞き、フィリスは強くファーリスを心の中で思った。想像以上に早く、ファーリスから返答が来た。
"フィリス、皆、目を閉じて。"
ファーリスの言葉通り皆が目を閉じると、不思議な感覚に包まれ、いつかの草原にお茶会の準備がされた場所にいた。
「ファーリス様…」
「フィリス、神界から話は聞いていました。さて…アサギ貴女に聞きたい事があります。」
「は…はい!」
「生涯フィリスを…共に生きていく四龍、マリアーナ、マティーナを愛し、ミロ、ハクアを可愛がれますか?」
「…ファーリス様…叶うのであれば…フィリス殿や皆と…これからも歩んで生きたいと思いますが…一番愛せるのは…フィリス殿です。勿論…皆のことも愛しますが…それが私の答えです。」
「そう…フフッ…良かったわ。」
アサギはきょとんとした。
「もし貴女が不誠実にも平等に愛すると言っていたなら、この話は無しにしようと思いましたが…アサギ、寿命を克服する方法はあります。しかしね、フィリスと同様の事をしなければならないの。」
「ファーリス様…それは…」
「フィリス、私がどうやって貴方を不老の体にしたと思いますか?」
そこでフィリスは考えたが、答えが出ない。
「フィリス…貴方は私の眷属になっているのです。神の眷属は一定の年齢まで成長し、その者が最も活動出来る年齢から変わることは無い。そして…病気や毒などに耐性を得るの。」
「そうだったのですね。」
「ただし…貴方に伝えていなかったことがあります。眷属は…」
「その主の命令に逆らえない…?」
「知っていたのですか!?」
「何となくそんな気がしていました。」
「ご免なさいね…フィリス…他の方法が無くて…」
「ファーリス様は今まで理不尽な命令はなされておりませんから。別に苦でも何でも無いですよ。」
「そうですか…アサギ、そのような形でも良ければ…」
「なります…ならせて下さい!」
即決するアサギに、ファーリスはおでこにキスをした。眷属となったアサギの体が少し光った。
「マティーナ、貴女も眷属になってくれますか?」
「私もなれるのですか!?」
「人工生命体でも眷属にはなれます。」
「解りました、お願いします!」
マティーナのおでこにもファーリスはキスをした。
「さて、四龍、マリアーナ、ミロ、ハクア。貴女達も契約をしたらどうかしら?」
「解りました!」
「…確かに一緒に生きていくのですから…」
「契約は必要だよね!」
「でも…困りましたわね。」
「うむ…」
なにやら皆悩んでいる。
「どうしたの?」
「ミロ達が契約出来るのは二人までなんだよ…」
「だからどうしようか悩むですぅ…」
「なら、四龍は私と契約して、ミロ君とハクア君、マリアーナ君はアサギ君と契約してよ。」
「…マティーナさん?」
「元々接近戦をするアサギ君はマリアーナ君と相性ピッタリだし、ミロ君とハクア君の身体能力も合わさるんだろう?」
「そしてマティーナさんは四属性使えますから、其方も相性ピッタリですわね!」
そうしてそれぞれがおでこにキスをして、契約がなされた。
「後は…レイジさん達に報告だな。ある意味…一番大変だけど…」
そう一人溢して、フィリス達は元の世界へと帰った。
読んで下さっている方々、有り難う御座います。




