第122話
最初半年はかかると思っていたが、皆優秀であり、元々の世界の知識もあるので、3ヶ月で卒業出来たミユキ達は、それぞれのやりたいことを仕事にした。ある者はパン屋、ある者は宿屋の給仕等、得意なことを仕事に決めていった。しかし、そう簡単に決まらない者もいる。ホノカ・サカガミという少女がいる。助けられた女の子の中で最年少の15歳で引っ込み思案、何をやってもドジばかりの女の子…酷い言い方をするとそうなってしまう。何せ、パン屋で仕事をすると黒焦げのパンを作り、給仕をさせれば皿を割りまくる。色々させてはみたものの…向いている仕事が無いとまで言われてしまった。仕方なく、現在は騎士、兵士達の訓練の手伝いをして貰ってはいるのだが…
「おっ…お疲れさまです!」
手拭いをそれぞれ訓練の終わった兵士に配っていき、その後で飲み物の準備をするのだが、もう他の女の子はいないので、1人で忙しなく動いて、途中で転んで…お茶を溢し…ため息をついている。そんな彼女に、ジャンが声をかける。
「ホノカさん、大丈夫!?」
「だ、大丈夫です…」
そうは言うが、落ち込んでいるのは誰もが見て解る。項垂れながら、ホノカは次の仕事へ向かうのだが…
「…」
その様子を心配そうに見つめるジャンがいた。
他の女の子は仕事場に泊まらせて貰っているので、もう広い部屋に1人で泊まっているホノカは、1人泣いていた。何も出来ない自分に…1人で寂しい…様々な事が彼女の心を過る。そんな折、戸がトントンと叩かれる。
「ホノカさん、フィリスです。入って宜しいですか?」
「はっ…はい!」
慌てて返事をするホノカ。するとフィリス、ランファとマリアーナが入ってきた。
「こんばんわ、少し…良いかな?」
「はい…」
テーブルの椅子に皆で腰掛け、ランファのお茶とマリアーナのお菓子を並べて話をする。
「やっぱり…出ていけという話でしょうか…?」
「へ?」
ホノカの唐突な言葉にフィリスは驚く。
「私だけ…ドジで…何も出来ないから…」
いきなり泣き出すホノカを、ランファとマリアーナが左右から頭を撫でたり背中を擦ったりする。
「ホノカさん、そんな話ではありませんよ。今日来たのは…今までの反省です。ホノカさんではなく…私のね。」
フィリスはホノカに頭を下げる。
「ホノカさん、思慮深く考えれば、ホノカさんの得意なことを考えずに仕事を選んでいました、すみません。」
「フィリスさん…!?謝らないで下さい!私が…ドジだから…」
「そうではありませんわ、ホノカさん。得意なこと、好きなことを1つの根拠にすることも必要なのですわ。」
「うむ。例えば、妾は料理が得意ではあるが、戦闘は得意ではない。しかし、フィリス様も皆もそれで良いと言ってくれる。そなたにも何かしらの好きなことがあるはずと、それを考慮していなかったと、その事をフィリス様は謝っておられるのじゃ。」
「…」
「ホノカさん、元の世界で好きだったことは?」
「えっと…」
そう言われてホノカは悩む。今まで忙しくてそんなことを考えていなかったからである。そんな中、ホノカが出した答えは…
「服…です。」
「服?」
「はい…私、人の服を考えるのが…好きでした…」
それを言われて、フィリス達はニコリと笑う。
「良し、明日行きたい所があるから迎えに来ます。今日はゆっくりと休んでね。」
フィリスとランファ、マリアーナはひとしきりお茶を飲んで帰っていった。
次の日、フィリスはホノカを連れて城下町へと出る。暫く歩いて、服屋の前に止まる。
「フィリスさん、ここは…?」
ホノカは不思議がるが、フィリスは扉を開けて中へと入り、ホノカもついていく。
「いらっしゃいませ~!って、フィリス様!?」
いきなり凄い美女が出迎えてくれた。
「レンフィアさん、お久しぶりです。」
「お久しぶりです、いつも息子がお世話になっております!」
何が何やら解らないホノカに、フィリスが説明する。
「ホノカさん、レンフィアさんはジャンのお母さんです。」
「貴女が…異世界から来た女の子の1人ね。息子から聞いているわ。すごく頑張っているホノカって女の子がいるって。」
笑顔とフフッと笑うレンフィア。優しい雰囲気がホノカにも伝わる。
「それで…フィリス様、本日はどのような?」
「レンフィアさんにお願いがあります。」
「解りました、奥へどうぞ。皆、フィリス様と話があるから、暫くお願いね。」
「解りました。」
従業員に店を任せて、奥へと向かう。椅子に座り、お茶を出して貰い、ひと息つく。
「レンフィアさん、ホノカさんをここで雇って貰えませんか?」
「いきなりですね…」
一口お茶を飲み、レンフィアは言う。
「ホノカちゃん、この店はね、フィリス様がお互いライバルとして競い合っていた店を統合し、このヴォルファー王国の服屋の統括をしているの。フィリス様の紹介と言えども、それなりの事を求められます。覚悟はありますか?」
「…」
そこまで言われて、ホノカは考え込む。
「まあまあ、レンフィアさん落ち着いて。ホノカさん、紙と鉛筆を用意しました。ゆっくりで良いので、ここに服を書いてみて下さい。」
そう促され、ホノカは思い通りの絵を書いていく。1時間後、紙にはジャケットを着た、フィリスの絵が書かれていた。
「服となると…こんな感じかなぁって…」
それを見たレンフィアはワナワナと震え出す。
「レンフィアさん…?」
「す…」
「へ?」
「素晴らしい!こんな服は見たことが無いわ!ホノカさん、才能があるわ!」
大絶賛し、ホノカの両手を握るレンフィアに、ホノカはたじたじだった。
「ものの1時間ほどでこれだけの繊細な絵が書ける、しかも誰もがこれを見て誰か解る絵なんて、なかなか無いわ!しかも…斬新なアイデアで!」
「は…はぁ…」
「フィリス様、決めました、この子を私に預けてください!一流のデザイナーにして見せます!」
「なら、初仕事をお願いしたいのですが…」
フィリスはそういうと、お金の入った袋を取り出してテーブルに並べる。
「銀貨8枚程度迄で、私に似合いそうな上の服を8着、色は別々でお願いしたいのです。あとズボンは黒で5着程。」
「ホノカちゃん、いけるかしら?」
「えっと…期間は…?」
「いつでも良いですよ。兎に角職場に慣れ、人に慣れ、仕事に慣れてからですね。」
「良かったわね、ホノカちゃん、こんな大口の仕事なんて、滅多に無いわよ。私達も手伝うから。」
「はい、宜しくお願いします!」
こうしてホノカの仕事が決まった。
読んで下さっている方々、有り難う御座います。




