第116話
マティーナを連れ戻した後、マティーナにはマリアーナ達の手伝いをして貰い、フィリスはエンレン、スイレン、アサギを連れてマーティス達の元へと戻った。ジオルグ、ジルトスは気絶していた。
「叔父上、戻りました。」
「うむ、マティーナ殿は?」
「もう大丈夫ですが、この場には居ない方が良いと判断しました。…さて、叔父上、バーバラ。2人に話があります。」
「なんでしょうか、兄様?」
「私は…国王にはなりません。バーバラ、君が女王になるんだ。」
その言葉を聞いて、マーティスとバーバラは絶句した。
「フィリス…!?」
「そんな…!?」
「最後まで話は聞いて欲しいですね。」
一呼吸おいて、フィリスは語る。
「今回のバリロッサ帝国との戦争中、思っていたのです。血の気の多いこの屑共のせいで、このような結果になりましたが、本来戦争などしたくない、叔父上もバーバラも思うでしょう?」
「そうだ、だからこそ…」
そこでフィリスは首を横に振る。
「…私は平和的解決が出来そうにありません。本当に平和的解決を望むのであれば、やはり優しいバーバラが女王になるべきだと。そして、私はいざというときに戦うべきであると。国王になれば、戦地に赴く事も叶わず、死者を看取ることも出来ません。直ぐに行動に移せるよう、私は遊撃の身分で構いません。勿論、バーバラを1人で放置もしません。私や皆を頼り、相談し、最終的な結論を出せば良い。それこそがヴォルファー王国が出来る最良の手だと思うのです。」
そこまで聞いて、マーティスもバーバラも俯いて考え始めた。
「兄様…本当に私が女王として勤まるでしょうか…?」
フィリスは静かにバーバラを抱き締める。
「…私達とであった頃のバーバラなら…無理だと判断し、国王になると決めた。でもね、マティーナ先生やマリアーナの教育を熱心に受けて、四龍皆から魔法を学び、ミロとハクアとふれあい、優しさも学んだバーバラだからこそ、女王に相応しい。叔父上…約束を違える事になりますが…」
「いや、フィリス…お前の考えが正しいのかも知れない。フィリスの国王になると言ってくれた言葉に、私達は甘えていたのだろう。バーバラは立派に育ってくれた。それは…お前達が来てくれたことの方が大きい。フィリスが決めたことなら、それでも構わない。」
ウンウン頷くマーティスを見て、バーバラもしっかりと決意したらしい。
「解りました、兄様。女王に…なります!」
「有り難う、バーバラ。」
もう一度、しっかりとバーバラを抱き締めるフィリス。その背中に手を回し、甘えるように抱き付くバーバラ。本当の兄妹のような光景に、エンレンもスイレンもアサギも喜んでいた。
「叔父上、バーバラ、明日本国へ先に戻っていてください。護衛には騎士、兵士のほぼ全員とハクア、アサギさん、アサギさんの部下5名を付けます。私は、四龍、マリアーナ、ミロ、マティーナ先生を連れて、バリロッサ帝国へ向かい、2度と愚かな事が出来ないようにしてきます。」
「解った。」
「兄様、お気をつけて。」
「そうと決まれば、食事にしましょう。」
「…流石にお腹ペコペコです。」
「私も…疲れました。」
そうして6人で食事をしに外へ出る。
その後は見張りもつけずに大宴会が催された。逃げたければ逃げれば良い、武装は解除してあるので、モンスターに殺られるだろうと考えたからだ。流石に酒はご法度だが…。そして、フィリスが皆が取って来て、マリアーナが美味しく調理してくれたミノタウロスの焼き肉を食べていると、サラマンダーが話しかけてきた。
「フィリス殿、少し話がある。」
「唐突ですね、サラマンダー。」
「うむ、我は人になって日が浅い。不躾なのは仕方ないだろう?」
「勿論、貴女はエンレンの親友ですからね、話は聞きますが…エンレンを還せとか言われると…」
「そのようなこと、言うつもりはない。エンレンもスイレンもライファもランファも幸せそうだ。フィリス殿と共にいるからだろう。それは解っている。」
そこでサラマンダーは咳払いをする。
「頼みがある。我が連れてきた100の飛竜、あやつらをお主らに任せたい。」
フィリスは驚いてミノタウロスの焼き肉を吹き出した。
「汚いな。」
「そういわれても…」
「実は、あやつらに聞いたのだ。このまま火山で一生を過ごすより、人との共存をしてみたい、およそ100年仕えても、我等の寿命の数分の1にも満たない、そして…我等の大切なエンレンの為にもなるだろうと。…どうだ?」
「食糧もつかどうか心配ですね…」
「うむ、心配はいらん。我等は食わずにおっても300年は生きられる。魔素の循環だけでな。」
「…初耳ですね。」
「あやつらから聞いてないのか?」
「皆一緒に食事してましたから。」
「ならば餌の心配はいらん。寝床だけ用意してやってはくれぬか?」
「サラマンダーは…どうする?」
「我は1人で帰る。」
「なら許可は出来ませんね。貴女もこの国に残ってください。」
「…それは告白か?」
「いいえ。貴女は寂しがりなのに素直じゃないですから。そうですね…ヴォルファー王国の南にミカヅチ王国があります。その国に手紙を出して、貴女にモンスターを討伐して貰えると助かるのですが?」
「なるほど…我を使うか!」
ハッハッハと大笑いするサラマンダー。しかし…
「あの時の借りは此度の事では返せていない。その案に乗ろう。」
そう言うサラマンダーにフィリスは右手を差し出す。その手をしっかりと握り返すサラマンダー。そこへ四龍が
「フィリス様、サラマンダー。しっかり食べてますか?」
「…このままでは余ってしまうとマリアーナが怒っています。」
「残すのは許さぬ!って。」
「騎士、兵士の方々では食べ尽くせませんわ。」
そう言われて、フィリスもサラマンダーも高々と笑った。
読んで下さっている方々、有り難う御座います。




