第109話
「くそっ、何が次期国王だ!あの若造がっ!」
ジオルグ・バリロッサは馬車の中で悪態をついていた。
「しかし、あの振る舞いなら納得出来るかと。体の震えがまだ止まりません。」
同じ馬車に乗っている騎士の1人がそう言う。
「何とかせねば…」
「では…戦争ですか?」
「そうなる。穏便に済ませてやってきた恩も忘れたあの国に、正義の鉄槌を下す。帰ったら勇者共を集めろ。国のある程度の権利も与えてやったのだ、こういう時に役に立って貰わんとな。恐らくひと月もあれば戦力は整えられる。」
ニヤリと笑うジオルグだが、それを聞いている馬車の行者がいた。
「フィリス殿、ルイとレイからの報告です。」
「早いですね、まだ半日も経っていませんが?」
「ジオルグ・バリロッサの馬車にルイが行者として入り込み、聞いていたところ、バリロッサ帝国に帰り次第、組織だって攻めてくるそうです。恐らくひと月後。その際、"勇者共"という者達を召集するとか。また判明次第連絡をするそうです。」
「勇者…ですか?」
「フィリス殿、嫌な予感が…」
「奇遇ですね、私もです。…ミカヅチ王国にも現れた転移者かもしれませんね。バリロッサは数年前にサンシロウという無法者が現れましたから。ルイさんとレイさんに通達を。バリロッサ帝国の偵察は、後1日ほどで戻ってください。攻め込んで来ることが解ればどうとでもなりますから。」
「解りました。レイ!」
アサギが呼ぶとレイが現れた。
「ルイに連絡、もう少ししたら戻ってくるように。」
「解りました、夜になったら偵察をやめます。」
そう言って去っていった。
「さて…どうしようか…」
フィリスは四龍、マリアーナ、ミロ、ハクア、マティーナ、アサギ、マーティス、バーバラ、大臣達を集めた。
「ルイさん、レイさんの偵察のお陰で、バリロッサ帝国が此方に攻めてくることが解った。」
「フィリス、戦争になって我が方は勝てるのか?」
「叔父上、バリロッサ帝国は我が国を滅ぼそうとしているのですよ、黙って殺られるわけにはいきませんよ。」
フィリスは地図を広げる。
「経路にあるシンガ村、ラーディル村、ソルム街、ノズト街の各村にエンレン、スイレン、ライファ、ランファを送ります。確実に敵が攻めてくる経路にあるシンガ村には避難勧告を出して、村には誰も居ないようにしますし、国の事情なので、保証も出します。マリアーナ、ミロ、ハクア、マティーナ先生はこのヴォルファー王国にいて貰って、防御をして貰います。騎士、兵士は私と共にシンガ村へいって貰います。勿論、警護に必要な人員は残しますが。北の警護に当たっている者達を警護に当てる予定です。」
「むぅ…私が国王になって初めての戦だ。誰も戦い慣れしていないが?」
「マーティスさん、安心してください。」
「…私達がいる。」
「私達は元々ギルドエレメントドラゴン。」
「百戦錬磨ですわ。」
「守りは妾に任せて貰おう。ミロ、ハクアも手伝ってくれるしのう。」
「そうだよ!」
「わふぅ!」
「バリロッサ帝国の連中に好き勝手させるもんか!」
「あの…フィリス殿、私達は?」
「客将として、戦って貰えますか?」
「勿論です!」
「ではアサギさん達も私と共にシンガ村へ。」
「心得ました!」
「作戦は決まったとはいえ、恐らく半月は猶予があります。シンガ村への通達は急ぎますが、他の村、街への通達は半月後に行い、その間に皆の戦闘能力の向上を行います。」
フィリスは窓を開けて外を見る。
「バリロッサ帝国…好き勝手させるつもりは無いぞ!」
戦争が始まろうとしていた。
読んで下さっている方々、有り難う御座います。




