第107話
翌日の朝、フィリスは訓練場にて兵士の訓練に付き合う。フィリスに感化され、意識を高めていた兵士達は、ミカヅチ王国へ行く前に見た時から練度が上がっていた。兵士の統括として騎士がいるのだが、フィリスが来る前は地位に胡座をかいている連中が多かったのだが、今は兵士も騎士も関係なく、フィリスの特訓を受けていた。そのうちの1人、ジャン・クロードという兵士が、現在フィリスと木刀で打ち合っていた。
「はぁ!せいっ!」
精一杯打ち込んでくるが、フィリスは紙一重の刹那の見切りを行なっている。それを見て、他の者達は驚いている。フィリスの実力にではない、ジャンの攻撃に対してだ。ジャン・クロードはまだ18歳、兵士として先日配属されたばかりなのだから。そんな若輩者が、次期国王に本気で打ち込んでいる。それに本気で応えてくれるフィリスに、皆感謝の気持ちをもって訓練を見ているのだ。
「ぜぇ…ぜぇ…」
「まぁ、ここまでかな。ジャン、君は連撃の速度は早い。しかし…攻撃が当たらなかった後の対処がまだ遅い。今の38回の攻撃の中で、効果的なものは5回も無かった。」
「…はい。」
「君はフェイントを絡めるより、一撃を求めすぎる傾向にある。嘘の剣、それを学びなさい。」
「…解りました。」
「よし、次!」
フィリスがそういうが、我先にと手を挙げるものが多い。と、そこへミロとハクアがやってくる。
「パパぁ!」
「マーティスおじちゃんが呼んでるですぅ!」
「…そんな時間か。済まない、皆。」
「いえ、フィリス様…」
「次期国王であられる貴方様に特訓していただき、皆感謝しているのです。」
「それに国王陛下のお呼び出し。」
「バリロッサ帝国の者が来たのでしょう。」
「我々ももっと精進致します!」
「うん…無理はしない様に。」
そう言い残してフィリスは城内へと戻る。
「…」
「どうした、ジャン?」
暗い顔をしているジャンに、先輩が声をかける。
「…フィリス様…強すぎです。一撃も…」
「なんだ、そんなことか。安心しろ、俺達全員、誰もフィリス様に当てれた事は無いから。」
「…」
「フィリス様が剣を受けてくれない事を悩んでるんだろ?」
「はい…」
「昔、フィリス様が来た当初、お前の先輩全員で攻撃した事あったな。で、全員の攻撃を受け流すんじゃなく、全て躱して皆を諌めた事がある。」
「へ?」
「フィリス様がいうには、野生の動物やモンスター相手に、防御なんかしてる暇は無い、それを理解してから受けるのは苦手になったって。思わず受け流して反撃してしまうからだって。」
「あの方の思い遣りなんだよ、この特訓はさ。」
「…そんな域に…我々も立てますか?」
「さあな。でも…あの方の力になりたい、そう思ったからこそ、今の俺達がいて、お前がいるんだ。」
「だからよ、頑張ろうぜ、あの背中を守れる様に!」
はっはっはっと笑って去って行く先輩達の後を追って行くジャンだった。
さて、話はフィリスの方へと戻る。フィリスは湯浴みをして体を清め、マーティスの元へと向かっていた。謁見の間ではなく、会議室である。既にバリロッサ帝国の一団は到着しているそうだったので、マーティスが話をしている筈だった。会議室の前には、見慣れた騎士が2人、甲冑を着て立っていた。すぐに道を開けてもらい、扉を叩く。
「叔父上、フィリスです。」
そう言うと、中で控えていたメイドの1人、シャイナが扉を開けてくれた。
「来たか、フィリスよ。こちらへ。」
マーティスに促され、隣の席に座るフィリス。正面には髭面の中年の男が座っている。
「マーティスよ、この者が?」
「ジオルグ・バリロッサ皇帝、はじめまして。私がフィリスです。」
「ふん、こんな若僧を待つために時間を費やしたと?舐めているのか?」
「済みません、騎士や兵の訓練を見て回るのも必要ですので。」
「成程、弱小国はこれだからたまったものではない、自らの手で教育しなければならないとはな!」
ジオルグがそう言うと、周りのバリロッサの者達が笑い出す。と、それを静かに聞いていたフィリスだが、恐ろしいまでの殺気を出す。勿論、バリロッサの者達だけに。その気迫に気圧されて、椅子から転げ落ちた。
「どうされましたか?」
知らぬ顔でフィリスが言う。
「むぅ…寒気がしてな…」
そう言うと椅子に再び座るジオルグ達。と、そこへ…
「失礼するよ。」
マティーナが入ってくる。
「先生…?」
「御免よ、心配だったから。」
「何だ、ガキを会議室に入れるとは!」
「やれやれ、私をガキ扱いするとはね。ジオルグ・バリロッサ!父親似の腐りきった頭の持ち主だね!」
フィリスが放った殺気よりも恐ろしい殺気をマティーナが出す。
「ひぃ!?」
「マティーナ先生、やめて下さい。」
「あはは…御免よ。ついうっかり…」
「マティーナ…ティル…様!?」
ジオルグ達が驚く。
「マティーナ先生、バリロッサ帝国と何かあったんですか?」
「昔、魔神を出した国がバリロッサ帝国なんだよ。その魔神を倒したのがわ・た・し♪」
「そうだったんですね。」
「むぅ…もっと驚いてもいいんだよ?」
膨れっ面をするマティーナを他所に、フィリスがジオルグに話しかける。
「バリロッサ国王、時間も無駄ですから、話をしましょうか。」
色々あったが、ようやく話が始まろうとしていた。
読んでくださっている方々、有難う御座います。




