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魔弾転生  作者: 藤本敏之
第4章
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第105話

メンテナンスが昼までに終わり、フィリスはアサギを連れて街へと出る。途中買い物をし、所々買い食いもする。歩きながら食べる風習のないミカヅチ王国の出身だが、フィリスの真似をして串焼きを頬張るアサギを見て、フィリスは笑顔になる。と、フィリスがある一件の店の前で立ち止まる。

「フィリス殿?」

「忘れていた。お土産の事を…」

フィリスは立ち止まった店に入っていくと、数分後に出てきた。手には…沢山のパンがあった。

「それは?」

「この店、前には無かったので。目新しい物を買って帰れば、マリアーナが作ってくれるよ。」

「…そうですか。」

フィリスはパンの一つをアサギに渡す。そして…二人で噴水の前に座って食べる。勿論、別の店で購入した紅茶も忘れていない。

「アサギさん、ガデル王国はどうですか?」

「ミカヅチ王国と比べて…栄えているように感じます。しかし…疎外感が否めません…」

「…?」

「フィリス殿、我々ミカヅチ王国の人間は、やはり…ミカヅチ王国にいるべきなのではと…」

そこまでアサギが話したとき、アサギの服の裾を引っ張られた。アサギが其方を見ると、小さな女の子が指を咥えて泣きべそをかいている。

「ママ…何処?」

「え…?」

「迷子の女の子だね。お腹は空いているかい?」

フィリスはそう言うとパンを一つ差し出す。女の子は受け取ると、食べ始めるが直ぐに詰まらせてしまう。

「こら…慌てて食べることはない。もっとゆっくりと…」

そう言って、アサギは飲み物を渡し、口の周りの汚れを拭いてやる。

「フィリス殿、この子の親を探そう。」

「えぇ。」

そう言うと、フィリスは女の子を肩車して、三人で歩き始める。


女の子の母親は直ぐに見つかった。何度もお礼を言われ、照れた様子をみせるアサギ。その様子を見て、親子が去った時、フィリスが言う。

「アサギさん、さっきミカヅチ王国から出ない方がいいと言っていましたね。」

フィリスはアサギの肩に手を乗せる。

「でも…アサギさんがいなかったら、あの子はお母さんと会えていなかったかもしれません。」

「そんな…大袈裟な…!」

「アサギさんにとって何でもない事が、その人にとって特別な事かもしれないんですよ。」

「…」

そう話していると、女の子が戻ってきた。その手には…小さな花があった。

「お姉ちゃん…有り難う!」

しゃがんで花を受け取り、女の子の頭を撫でるアサギを見て、フィリスはやはり連れてきて良かったと思った。


その後、フィリスとアサギは騎士学校へと向かった。丁度テッドがコールのクラスの運動を見ていると校長に就任したジンガ・セルディンに言われ、グラウンドに出る。そこでは…凄まじいまでの気迫の籠ったランニングが行われていた。先頭を走っているのはテッド、その次にコール、その後ろも呼吸は荒いがしっかりと着いていけているようだった。と、そこでテッドが気付く。

「ん…?フィリスじゃねぇか!」

「兄さん!」

「へ…!?」

「あれがフィリス先輩!?」

ランニングをやめて、全員が近付いてくる。フィリスとアサギも其方へ向かうと、テッドが握手を求めてきた。それにフィリスも応える。

「久しぶりだな、親友!」

「あぁ。アサギさん、彼はオルステッド・ヴァーミリオン。私の親友の一人です。」

「アサギ・アマツカと申します。オルステッドさん…」

「テッドって呼んでくれよ、アサギさん。」

「解りました。」

「悪いなぁ…フィリス…ティファはここにはいないんだ。」

「…何で?」

「あれ?コールから聞いてなかったのか?実は…子供が出来たんだよ。今は産休をとってるんだ。」

「そうなんだ。」

「すみません、兄さん。伝え忘れてました。」

「仕方ないよ。アサギさん、ティファも私の親友で、テッドの奥さんです。」

「なる程…」

「そうだ!フィリス、久しぶりに手合わせしてくれよ!」

「…全力は無しだよ?」

「勿論だ。俺だって死にたくない。」

笑いながらそう言うと、テッドは距離をとり構える。フィリスもそれに応えて構えをとる。と、テッドが一気に距離を詰めて右上段回し蹴りを放つ。が、フィリスはそれを読んでいたのか、残像を残したまま、テッドの残っている左足に足払いをかける。テッドが驚いて後方にバク転をするが、フィリスはテッドが着地するより早く後ろに回り込んでいた。

「…へっ、やっぱり勝てねぇよなぁ…」

降参の印として両手を上に挙げるテッド。フィリスも構えを解いて、笑顔になる。

「まあ、この子達の刺激になったかな?」

「何の参考にもならないかもよ?」

殆どの者が口をあんぐり開けて棒立ちしていた。唯一、コールとアサギだけが普段と変わらない様子で立っていた。


フィリスとアサギはそのあとテッドとティファの家へと向かう。家にはティファとテッドの母親がいて、テッドの母親がお茶を淹れてくれた。

「まったくもぅ…フィリスはいつも突然なんだから。」

「御免よ、ティファ。」

「申し訳ない…」

「アサギさんのせいじゃないですよ。悪いのはフィリスですから。」

「まあまあ、ティファちゃん。お腹の子に響くわよ。」

「でも…テッドとティファの子供かぁ。きっと強くて優しい子に育つだろうな。」

「はぐらかさないでよ…」

ここにくる前に、買い物をして、赤ちゃんに必要な物をある程度買ってきたのだが…ティファが少し不機嫌なのは、その量にある。

「いくらなんでも貰いすぎよ…」

「赤ちゃんにはお金がかかるだろう?私達全員からのお祝いだよ。」

「有り難く貰うけど…そう言えば、ティル先生はお元気?」

「勿論だよ。」

「私達も会いたいけど…ね。どんどん遠くなっていく気がするわ。」

「そうかな?私は…テッドやティファ、ハーヴィの皆の事は忘れたことは無いけど?」

「はぁ…どことなく抜けてる所は変わらないわね、フィリスは。アサギさん、こんな人だけど…宜しくね?」

「…?何を宜しくされるのか解らないが、全力でお手伝いはするつもりです。」

そう話しているとテッドも帰ってきたので、そのまま夕食を頂いて、ハーヴィ家へと帰った。

読んで下さっている方々、有り難う御座います。

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