第104話
フィリスの風魔法による飛行も、練度が向上しているので、1日とかからずガデル王国に到着した。しかし、朝早く出発しても流石に夕方までかかったが。フィリスはアサギを抱き抱えたまま、ハーヴィ家の庭へと着地する。そこにアサギを降ろして、少し身体を回したりする。
「ふぅ…」
「フィリス殿、ここは?」
「私の…もう一つの家族の家です。」
「…あら?フィリ…ス?フィリスなの?」
丁度その時家の中からマチルダが出てきた。
「マチルダさん、お久しぶりです。」
「えぇ、久しぶりね。…其方の方は?」
「はじめまして、アサギ・アマツカと申します。」
「御丁寧にどうも。私はマチルダ・ハーヴィ。フィリスの…義理の母です。」
「マチルダさん、コールとネーナは?」
「コールは今は学校です。ネーナはリース達と買い物に出掛けているわ。庭ではなんだし、中に入りなさいな。」
マチルダに促され、フィリスとアサギは家の中に入る。
「少し冷めてしまっているけど、お茶をどうぞ。」
「では、私が淹れて来ますよ。」
フィリスは台所へと向かう。その姿を見送って、マチルダが溜め息をつく。
「あの子ったら…相変わらずね…」
「そうなのですか?」
「初見で…真面目で…義理堅い…そんな印象を受けたわね。貴女もそうなのでしょう?」
「はい。」
直ぐにフィリスがお茶を持って戻ってくる。
「それで…フィリス?急に戻ってくるなんて…何かあったのかしら?」
「いえ。アサギさんにガデル王国、フレデリック王国を見せたいと思いまして。ミロに乗ってくると、どうしても目立ってしまうので、風魔法の練習もかねて飛んできたのです。」
「そうだったの。」
「あとは…カーマインさん達が帰ってきたら話します。」
「あの人も…コールとネーナに付き添って特訓してるわ。貴方に感化されてね。」
「そうですか。」
「フィリス…貴方のお陰でこのハーヴィ家も安泰と言っていい状態なの。でも…貴方がいないのが寂しいわ。」
「…」
「でも、貴方には貴方の道があるのも解っています。後悔の無いように…」
「有り難う御座います、マチルダさん。」
「それで…聞きたいのだけれど…アサギさんは貴方の恋人なのかしら?」
そう言われてアサギがお茶を噴いた。
「けほっ!」
「あらら?」
「そのような…関係では…」
「そうなの?あなた達がお似合いに見えたから…」
あえて否定をしないフィリスとドキドキしているアサギ。対照的だが、お似合いだとマチルダは思ったようだった。と、そこへ…
「ただいま。」
カーマインが帰ってきたらしい。直ぐに3人で玄関に向かう。
「お帰りなさい、あなた。」
「お帰りなさい、カーマインさん。」
「お邪魔しております。」
「フィリスじゃないか!それに…其方の方は?」
マチルダと似たような反応を示すカーマインに、笑顔を見せるフィリス。そのあと、コールとネーナ達も帰ってきて、その日は更にもみくちゃにされたフィリスだった。
次の日、フィリスは朝早くからアサギを連れて、親方のところへやって来ていた。
「いやぁ…坊っちゃんが女性を連れてくるたぁ、思ってませんでしたよ。」
「整備は自分で出来るようになりましたけど、メンテナンスをお願いしたいのです。それと…彼女に武器を見繕って欲しいんです。」
「フィリス殿?」
「アサギさんの武器を私が破壊してしまいましたから。」
「なる程。ならば、とっておきの一品を出しまさぁ!」
親方が持ってきたのは、以前フィリスが破壊したアサギの大太刀と同型の物だった。
「30年以上前なんですがね、ミカヅチ王国から来た方から親父が教わって作った刀でさぁ。」
その刀をアサギは受け取り、抜いてみる。丁寧に作られているのが良く解る、素晴らしい太刀だった。
「親方さん、いくらですか?」
「坊っちゃんからお金を貰おうとは思ってねぇです。」
「以前もそう言って、オリハルコンを私にくれたじゃないですか?」
「その代わり、お嬢さんに頼みがあるんでさぁ。」
親方はフィリス達を連れて裏庭に出る。そこには、木製の案山子がいくつも立っていた。
「これは?」
「試し斬りの目標…?」
「お嬢さん、その刀で試し斬りを見せて欲しいんでさぁ。」
その言葉にアサギは頷き、居合い抜きの構えをとり、一瞬で抜刀、直ぐに納刀をする。親方には見えていなかったのだろうが、次の瞬間には粉々になった案山子を見て、納得をする。
「やはり…お嬢さんに使って欲しい。代金以上のものを見せて貰いやしたから。」
そう言うが、フィリスは金貨の入った袋を親方に渡す。
「親方さん、メンテナンスをお願いします。恐らく重心等がずれていると思うので。」
「…坊っちゃん。」
「こんな素晴らしい刀…ただで受け取ることは出来ませんよ。」
アサギもそう言う。そしてフィリスとアサギは無事に武器のメンテナンスと調達を終えた。
読んで下さっている方々、有り難う御座います。




