第102話
新年明けましておめでとう御座います。
四龍、マリアーナ、ミロが桜の集落があった場所を隈無く散策し、生きている人達を探した。だが、オロチの衝撃波、フィリスの攻撃の大爆発を受けて、最早生きている人間は居なかった。その間、フィリスは自分が召喚した新しい二丁の銃を調べていた。今まで使っていたコルトパイソン、デザートイーグル両方の特性をもち、単発、連射もお手の物、恐ろしい迄の性能を誇っている。その銃の使い方をしっかりとしていこうと思い、召喚をやめたとき、皆が帰ってきた。
「フィリス様、確認が終わりました!」
「…最早この桜の集落に生き物はいない。」
「フィリス様、大丈夫ですか?」
「かなりお疲れのようですわ。」
「…大丈夫、と言いたいけど、恐ろしく疲れたよ。」
「それはそうじゃろう。フィリス様は四龍全ての力を解放したのじゃから。」
「いや、それは違う。」
フィリスがマリアーナの言葉を否定する。
「名前が言いやすかったから…ドラゴンインストールと名付けたけれど、マリアーナ、ミロ、ハクアの力も解放した。そうじゃなかったら、あの大爆発の衝撃を受けて無事に立っていられないよ。」
「ふむ…妾の防壁も使いこなせる…フィリス様は流石じゃの。」
「パパ…」
そこまで話すとミロがフィリスの後ろから抱き付いた。
「お腹空いたよ…早く帰ろ…」
「クスッ…ミロも頑張ったものな。よしミロ、頼めるかい?」
そう話すとミロは身体を変化させて、フェニックスの姿になる。そして皆でミロに乗って、ミカヅチ王国へと戻る。
戻って直ぐにフィリスはレイジに報告をする。その際、ヴォイスで録っていた音声も再生する。
「うむ…あの爆発は、そのオロチとの戦いによるものか…」
「この国に被害がなくて良かったですけどね。」
「しかし…ゲンナイめ…桜の集落を好き勝手させ過ぎたな…」
「しかしそれも仕方がないかと。」
レイジは立ち上がり、襖を開けて外へと出る。
「フィリス…失望しただろう。」
「…?」
「俺は…国の王として相応しくないのだろう。」
「そうとは言えませんよ。」
フィリスはレイジの言葉に反論する。
「どんな改革をしたとしても、それに反発するものはいます。例えば…私がヴォルファー王国の国王になったとしても、今の叔父上であるマーティスの方が良かったと思う者も出てくるはずです。」
「…」
「それより…もっと大切な事があるでしょう、レイジさん。」
「む?」
「アサギさんの事です。このまま自分の罪として背負い続ける可能性もあるのでは?」
「確かに…あの子は義理堅いのでね…」
「そう言うところはレイジさんにそっくりですね。」
「…やはり…気づいていたか…」
「アサギさんを見るとき、レイジさんの目はカスミさんやリョウ君を見る時と同じ、優しい目をしていますから。」
「…アサギの母、アザミ・アマツカは…俺がまだ国王になる前から侍大将だった。」
空を見上げてレイジが話す。
「彼女と俺は幼なじみでな…しかし、俺には婚約者であるミソノという…カスミとリョウの母が居た。…一度だけ身体の関係をもったアザミは侍大将を辞めて…数年後にアサギを連れて来た。…その際、アザミは死の病を患っていた。アサギを頼む…そう言い残してアザミは死んだ。アサギを桜の集落に預けて、ゲンナイ達の教育を施したが…まさかゲンナイがアザミを狙っていて…アサギまで狙っていたとは知らなかった…」
「でも…ゲンナイ達のお陰でもあって、アサギさんは侍大将になれた。」
「その通りだ。元々アザミの血を受け継ぎ、素質も充分だったアサギに…無理をさせ過ぎたようだ…しかし、今さら父親と名乗るわけにもいかない…」
「レイジさん…」
そこまで話して、レイジは黙り込んだ。フィリスはしばし考えて、部屋を後にした。
フィリスはアサギの元へと向かった。そこではカスミとリョウが心配そうに様子を見ていて、アサギは眠っていた。
「フィリス様…」
「お兄さん…」
「…アサギさんと2人にしてもらえますか?」
フィリスがそういうと、2人は部屋を出た。
「アサギさん、起きているでしょう?」
カスミとリョウが部屋を充分離れた時、フィリスがアサギに声をかける。するとアサギは目を開けて、起き上がる。
「…フィリス殿、有り難う御座います。」
アサギは礼を述べる。フィリスはアサギに近付き、優しく抱き締めた。
「アサギさんが無事で良かった。」
「フィリス…殿…?」
優しく抱き締められ、アサギは涙を流した。その様子を、四龍、マリアーナ、ミロ、ハクア、マティーナは襖の向こうから聞いていた。
さて、アサギを連れて皆でレイジの部屋に到着し、フィリスはレイジに伝える。
「レイジさん、桜の集落のあった場所に新しい集落を作りましょう。」
「…しかしフィリス…そのような費用、人員はこの国には…」
「大丈夫、私達がいます。」
「そうですね。」
「…多少時間はかかるけど。」
「あの場所をそのままにするよりは良いですね。」
「そうですわ、フィリス様、やりましょう!」
「うむ!妾も力をお貸しする!」
「建築ならミロに任せてよ!」
「わふぅ!」
「私も忘れちゃダメだよ!」
「私もです!」
フィリス達のやる気に満ちた目を見て、レイジ達も納得する。
「フィリス…皆さん…ご助力感謝する。」
礼をするレイジ、カスミ、リョウそしてアサギ。
斯くしてフィリス達は桜の集落があった場所に新たな集落を作った。クレーターが出来ていた場所を埋め立て、周囲の伐採、川を作ったりと、忙しい毎日を過ごした。カスミ、リョウ、アサギ、バーバラには各集落を回って人員を集めてもらい、3ヶ月程で桜の集落が元通りに近い状態になった。そして…フィリス達はヴォルファー王国へ帰る日になった。
「フィリス、皆さん、有り難う。これからミカヅチ王国も、再び活気づくだろう。」
「そうですね。初めはどうなるかと思いましたが、無事に終わってほっとしました。」
レイジの礼を受けて、フィリスが応える。
「それでフィリス…頼みがある。この書状を叔父であるマーティス殿に届けて欲しい。」
「それはバーバラにお願いしようと思います。バーバラ、頼むよ。」
「はい、お兄様。」
バーバラがレイジから書状を受け取った。
「その書状には、我々ミカヅチ王国はヴォルファー王国と敵対する意思はない、むしろ何かあれば応援を出すと書いてある。カスミ、リョウ。お前達もお礼を言いなさい。」
「はい、お父様。フィリス様、皆様、この度は有り難う御座いました。」
「お兄さん…皆さん…もう会えないのでしょうか…?」
「そんなことないわよ。」
「…ミロちゃんとハクアちゃんなら直ぐ来れる。」
「別に今生の別れじゃないんだし。」
「それにこれから交流も深まりますわ。」
「妾もこのミカヅチ王国の料理をまだまだ学びたいしの。」
「カスミちゃん、リョウ君…」
「でも…寂しいのですぅ…」
「そうだね…」
そんな話をしている時、フィリスはレイジに提案する。
「レイジさん、アサギさんと5人ほどの人員をヴォルファー王国に来させてくれませんか?」
突然の話に驚いたのは、それまで黙っていたアサギだった。
「フィリ…ス殿?」
「この3ヶ月、アサギさんの気持ちは落ち着いていましたが、それでもまだ納得出来ていない所が見えました。一度この国を離れてみては?」
その提案にレイジも頷く。
「アサギよ、これは俺からの頼みでもある。フィリスの元で、学べることもあるだろうから、この国の為に行ってはくれぬか?」
「しかし…侍大将の地位は?」
そこまで話した時、1人の女性が襖を開ける。
「アサギ様、侍大将の任、既に私が受けております。あとは…アサギ様次第。」
「シグレ…」
シグレと呼ばれた女性は、アサギの一番弟子である。今回の新しい集落作成にも尽力してくれたので、皆も顔見知りだった。
「アサギ様、フィリス様達の元で、更にお強くなられて下さい。そして…私達も努力致しますから。」
「…殿。フィリス殿達と共に行っても宜しいですか?」
「勿論だ。更に精進せよ。」
「アサギ様…お気をつけて。」
「お姉ちゃん、頑張って!」
そう言われて、アサギはヴォルファー王国へ向かう決意をした。
「フィリス殿、宜しく頼みます。」
「こちらこそ、アサギさん。」
固い握手をして、フィリス達は一路、ヴォルファー王国へ向かった。
読んで下さっている方々、有り難う御座います。




