第101話
「まずは…様子見だ!」
そう言ってフィリスは両手に召喚したままのガトリングキャノンを構え、マリアーナの障壁に守られたミロの上から、ヤマタノオロチの頭8つ全てに乱射した。ドルルルルッと凄まじい音が鳴り響き、ヤマタノオロチの身体から血が飛び散る。しかし多少怯みはしたのだが、決定的なダメージは入っていない。
「グルァァ!」
ヤマタノオロチが咆哮をあげると、無数に入っていた傷が再生した。
「フィリス様の与えた傷がっ!?」
「…恐ろしい再生能力。」
エンレン、スイレンが驚いた声をあげる。フィリスはガトリングキャノンを仕舞うと四龍に言う。
「皆…最大火力を出すのにどれくらい時間がかかる?」
その質問にライファ、ランファが答える。
「約1分程で…」
「しかし、まだオロチの攻撃を見ていませんので、下手をすると回避されてしまうかも知れませんわ。」
その答えに、フィリスは頷き少し考える。
「4人は力を溜めて欲しい。マリアーナはミロに障壁を張っておいて。1分間、私が奴の相手をする。」
「フィリス様、無茶です!」
「…危険すぎる。」
「皆、フィリス様を信じましょう!」
「私達は私達の出来ることをするべきですわ!」
「フィリス様、無茶はなされるな。」
「パパ、ミロも援護するから、頑張って!」
口々に話すみんなの声を受けて、フィリスは風魔法で飛行し、ヤマタノオロチに接近する。その際、籠手と軽鎧を装着する。一気に距離を摘め、フィリスはヤマタノオロチの胴体の上に着地する。8つの首の中心、全てが繋がっている場所、即ち心臓があるべき場所だ。
「これなら…どうだ!」
フィリスは魔力を込めて心臓があると思われる胴体を右手で力一杯殴り付ける。
「グギャッ!?」
これにはたまらず、軽い悲鳴をあげるヤマタノオロチ。間髪いれずフィリスは両手で殴り付ける。フィリスの全力の攻撃を受けても倒れる様子の無いヤマタノオロチは、8つの首全てでフィリスを喰らおうと攻撃を繰り出す。その際、長い尻尾でも攻撃を仕掛けて来た。フィリスは当たれば致命傷を負うと予測し、攻撃の手を緩め回避に専念する。飛行、着地を繰り返し、何とかヤマタノオロチの攻撃を掻い潜って攻撃を加えようとするが、8つの首、尻尾は伊達では無い。その間にも受けたダメージを治し、恐ろしい速度で攻撃してくる。
「かかった!」
フィリスは次の瞬間、空高く飛行する。それを追尾するかのように、ヤマタノオロチの8つの首がフィリスを追いかけて空へと伸びを…出来なかった。フィリスはただ闇雲に攻撃を避けていたわけではない。ヤマタノオロチは毛糸が縺れるが如く、8つの首が絡まり、まともに動けなくなっていた。
「フィリス様!」
「…準備出来た!」
「撃ちます!」
「私達の全力を受けなさい!」
フィリスの高度が充分に達した次の瞬間、四龍はミロから飛び降り、地面に着地をすると、ヤマタノオロチの四方にそれぞれ陣取り、完成した魔法を発動する
「ボルケーノブラスト!」
「…メイルシュトローム!」
「ボルティックスマッシャー!」
「トルネードマキシマ!」
四大属性、最強の魔法がまとめてヤマタノオロチに直撃する。本来相反する火と水、雷と風を対極にし、相乗効果で破壊を狙う。ヤマタノオロチを包み込む強大な魔法は、恐ろしい迄の威力を引き出し、大爆発を起こした。
「はぁ…はぁ…」
「…これが私達の…」
「全力全開よ!」
「やりましたか…?」
本来起こりうる衝撃波を、マリアーナはタイミングを見極め、四龍の魔法の直撃と共にヤマタノオロチに障壁を張り、外に出ないようにした。
「流石マリアーナお姉ちゃん!」
「うむ、このぐらいならお手の物じゃ。」
その障壁のお陰もあり、ヤマタノオロチの受けた攻撃は並みのものではないはず。しかし、砂煙でなにも見えない。桜の集落は元々ヤマタノオロチの出現で跡形もなくなっていたが、そこに更に四龍の最強の魔法が炸裂したのだ。最早何も残っていない…筈だった。
「グルァァ!」
煙の中から咆哮が聞こえる。
「え…!?」
「…まさか!?」
「嘘でしょ…!?」
「私達の全力を受けて!?」
ヤマタノオロチはまだ生きていた。流石に無傷ではない。なんとヤマタノオロチはフィリスに絡ませられた首を更に絡ませ、全力で防御態勢をとったのだ。と、次の瞬間、ヤマタノオロチが光輝き、光が収まると、そこには首が一本になったオロチがいた。しかも四龍から受けた傷も無い。
「そんな…!?」
「…あれが本性!?」
「こんなはずでは!?」
「もう力が…!?」
四龍の魔素も無限ではない。ましてや全力の魔法を使ったのだ。まともに動くことすら出来ない状態である。ヤマタノオロチは一本になった尻尾を凪払い、四龍を吹き飛ばす。かろうじてマリアーナの障壁が間に合い、致命傷は免れたようだが、四龍は最早戦える状態どころか立ち上がる事すら出来ない。
「皆!?」
「マリアーナお姉ちゃん、掴まってて!」
オロチのブレスがミロに目掛けて飛んでくる。何とか躱すも、態勢を崩した状態で尻尾による連撃でミロとマリアーナも吹き飛ばされた。
「ぐっ…」
「お姉…ちゃん…」
2人も地面に叩きつけられ、満身創痍、そこへ鎌首あげたオロチが追い討ちをかけるように自身の身体を地面に叩きつける。その衝撃波が四龍、マリアーナ、ミロに当たる直前、皆の身体が宙に浮いた。
「これは…」
「…暖かい…」
「まさか…」
「まだ…生きてますの…?」
「心地よい…」
「…パパ?」
口々に話す皆の目に映ったのは、鬼の形相を浮かべ、オロチを見下ろしているフィリスだった。
「皆、待たせたね。もう…大丈夫。」
そう言ってフィリスは皆を一ヶ所に集めて、回復魔法を使う。
「フィリス様…!?」
「…申し訳ありません。」
「倒しきれませんでした。」
「不甲斐なく思われましたわ…」
「妾も…皆を守りきれず…」
「ご免なさい…」
そんな皆にフィリスは笑顔を見せる。
「皆の力がなければ、今頃死人が出てるよ。この桜の集落の人間がどうなろうと別にいいけど、皆の誰かが死ぬなんて、私には許容出来ない。…奴は…私が倒す!」
フィリスはそう言うと、籠手と軽鎧をしまい、再び鬼の形相をオロチに向ける。
「全力を見せるとき、それは今!」
フィリスはそう言って、金の腕輪を外す。かつてテッドとティファを卒業式で相手取った後も、ずっと着けていた金の腕輪…マティーナから全力を押さえる代わりに実力があがると言われた、抑止の腕輪だ。そして…フィリスは両手を組み合わせた後、大きく身体を開き、空に向かって叫ぶ!
「皆の力を借りる、ドラゴンインストール!」
そう叫んだ瞬間、フィリスの身体から物凄い魔素が溢れだし、虹色の…オーラの様なものに包まれた。
「さぁ…終わりの時だ、オロチ!」
フィリスはそう叫ぶと、オロチに向かって飛行し、オロチの右目に右手を突っ込んだ。
「グギャッ!?」
それにはたまらず、仰け反るオロチだが、フィリスは容赦なくオロチの顎に左膝蹴りを叩き込み、身体を反転させ、オロチの下顎の細くなっている所に両手を引っ掻け、
「うぉらぁ!」
っと叫んで投げ飛ばした。
「嘘…!?」
「…あの巨体を!?」
「あれが…」
「フィリス様の全力…!?」
「末恐ろしや…じゃが…」
「格好いい!」
そんな声が聞こえているのかいないのか、フィリスは両手に膨大な魔素を込める。
「ガトリングキャノンが効かない…そんな相手にコルトパイソンもデザートイーグルも効かないだろう。…私の全力を込めても問題ない…新しい銃を!」
フィリスはイメージをし、左右両方に今までの銃とは形が異なる、銃を召喚した。右手のは黒く、左手のは白く、しかし2つとも形状は同じ…銃身が長く、中心にはコルトパイソンの様にシリンダーがあるフィリスの身体に合う理想的な形状だ。その2つを同時にオロチに向け、フィリスは引き金を同時に6回ずつ引いた。
「デッドエンドスパイラル!」
そう叫んだ瞬間、撃ち出された弾丸は、まるで生き物の様にオロチの身体にお互いを干渉せず貫き、内部から大爆発を起こした。オロチ…いや、そこには最早オロチだったものの残骸すらも残ってはいなかった。一呼吸おいたフィリスは、虹色のオーラを解き、皆に向けて笑顔を見せた。
「皆…終わったよ。」
その言葉に、四龍、マリアーナ、ミロは歓喜した。
読んで下さっている方々、有り難う御座います。




