第99話
気絶させたアサギをフィリスが背負い、ミカヅチ城へと戻ったあと、アサギを部屋に寝かせ、四龍に看病をお願いし、フィリスとマティーナはレイジ達の元へと向かう。マリアーナが付いていたので心配はしていなかったが。そしてレイジ、カスミ、リョウに経緯を話す。
「馬鹿な…アサギがそんなことをする筈はない!あの子は…この国を愛してくれている。」
「レイジさん、それは解っています。そしてそれ以上に、皆さんを大切にされている…カスミさんを心配して、我がヴォルファー王国へと向かおうとしていたのですから。恐らく…桜の集落にいるものが、アサギさんに何かをしたのでしょう。」
「…根拠を伺っても?」
「私達の魔法、リカバリーには、それまでの耐性を減算してしまう可能性があるからね。」
マティーナが説明する。
「アサギ君が如何に耐性を持っていても、その根本が無くなっていたら?操られる結果になるのかも…」
「…」
暗い顔をしてしまうレイジ、カスミ、リョウ。フィリスは立ち上がると、アサギの様子を看てくると言い、その場を去った。
アサギが目覚めたのは半日後、元々病に犯され、体力も元に戻っていなかったのだろう。とにかく話を聞くため、レイジの部屋に皆集まっていた。
「アサギ、桜の集落にて何があった?」
レイジが聞くが、アサギは答えない。俯いて…涙を流していた。話は四龍から聞いているそうなのだが…と、アサギが話し始める。
「陛下…正直に申し上げます。記憶に無いのです…」
ポツリポツリとアサギが話す。桜の集落にて、頭領であるゲンナイ・シラサワと話し、茶を飲んだ後から記憶が無いそうである。それを聞いて、フィリスが尋ねる。
「アサギさん、毒には耐性をお持ちの筈。それを私達のリカバリーが打ち消してしまったかもしれないのです。恐らく、ゲンナイの方にもアサギさんが耐性を持っていないほどの強力な毒を用意していたのでしょう…私が行っていれば…」
「フィリス殿…それは違う!フィリス殿達は充分に我々にもたらしてくれました!私が…不甲斐ないばかりに…」
フィリスの言葉に反論するかのように、アサギは声を荒げる。そして、両腰に着けている内の右の小太刀を抜いて、切腹しようとした。
「なっ!」
「アサギ様!」
「お姉ちゃ!」
しかし、それを予測していたのか、マリアーナが障壁をアサギの体に巡らせ、切腹を防ぐ。
「責任を取らせてください!」
そう叫び、今度は舌を噛みきろうとする。と、フィリスがアサギに口付けし、舌を捩じ込んだ。
「んっ!」
ガリッという音が聞こえてきそうな位に強く噛まれた痛みを感じながらも、フィリスは舌をアサギの口内に入れたままにしていた。ようやくアサギが落ち着いた頃、フィリスは口を離した。
「フィ…フィリス殿…?」
「アヒャギひゃん…」
「フィリス君、無茶しないの!」
マティーナが直ぐにフィリスに魔法をかける。
「…アサギさん、悪いのは貴女ではない。貴女を利用しようとした屑共でしょう!貴女が死んだら…悲しむ人がいるんですよ!」
フィリスが珍しく声を荒げる。その言葉に、アサギは再び涙を流し、フィリスの胸の中で泣いた。
アサギが落ち着くまで15分程かかり、その間ずっとフィリスは優しく抱き締めていた。泣き止んだ後、フィリスはレイジに言う。
「…レイジさん、桜の集落の場所を教えてください。」
「フィリス…?」
「アサギさんをこんな目に遭わせた償いをさせてきます。」
「フィリス様…」
「…そうですね。」
「何が目的かは知りませんが…」
「叩き潰しましょう!」
「うむ!」
「なっ、無茶ではないのか!?」
「…レイジ君、フィリス君達は本気で怒っているよ。」
「…どうして?」
「彼等にとって、アサギ君や皆さんは最早他人ではなく、仲間や家族のように思ってるんだよ。こうなったら彼等は止められない。フィリス君、私とハクア君でここを守るよ。…君の思うようにやりなさい。」
「わふぅ、一緒に行けないのは残念ですけど、パパさん達の分も皆を守るです!」
「先生…ハクア…お願いします。」
「…解った。桜の集落はここから北西の方角にある。気を付けて…無事に帰って来てくれ。」
「アサギ君の事は任せて。」
「ミロならすぐに着けるよ!」
「フィリス様、お願いします。」
「フィリスお兄さん、気を付けて。」
「お兄様、皆様、お気をつけて。」
アサギは俯いたままだったが、フィリスは声をかける。
「アサギさん、食糧はまだ搬入前だったので無事です。それに…帰ったら話したい事があります。そして、この国の侍大将である貴女がレイジさん達を守るんです。」
「フィリス殿…気を付けて…」
その言葉に強く頷き、フィリスは四龍とマリアーナを連れてミロに乗り、一路桜の集落に向かった。
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