第98話
翌日、朝早くから四龍、ミロ、ハクアは準備をしてそれぞれ桃と梅の集落へと向かった。アサギの方は昼頃共を三人連れて桜の集落へ向かった。その間にフィリスはバーバラに現状を見せた。マティーナはその間も治療を施して行く。もうヒュドラの毒の驚異は無いが、別の病気に苦しむ人を救うと言っていた。マリアーナはその間、ミカヅチ王国の女性に対して料理の手解きを行った。そしてミカヅチ王国の料理も覚えた。昼になり、フィリスとバーバラが王国の掌握も終えてマティーナ、マリアーナと合流した。
「お疲れ様です、フィリス様。丁度昼食の準備が出来たので、声をかけに行こうとしておったのじゃが…」
「有り難う、マリアーナ。おや?今日はうどんかな?」
「うむ。この国の方々に教わっての。直ぐに茹でるゆえ、少し待って貰えるかの?」
「うん。」
「お兄様、うどんとは?」
「少し太いスパゲッティだよ。味は…醤油という特殊なもののはず…」
「良くご存じじゃの。これからは何時でも食べれるように、教えて貰ったのでの。」
そういっている間にシンプルなかけうどんが出来上がり、マリアーナがフィリスとバーバラに手渡す。それをフィリスは美味しそうに啜る。ズズズッと音をたてて食べるフィリスに驚きながらもバーバラも食べる。
「なるほど、鰹風味か…懐かしい味だなぁ。」
「うむ。フィリス様に気に入って貰えて本望じゃ。」
「変わった味だけど、美味しいです。」
2杯食べてフィリスとバーバラはふと思う。
「今の食糧で何杯位作れそうかな、マリアーナ?」
「取り敢えず現状を話すと、1人1食3杯食べたとしても、来年の夏までは大丈夫かと思うのじゃ。」
「…解った。暫く苦労をかけるけど、宜しく頼むよ。」
「フィリス様の為ならば、このマリアーナ、どんなことでも致しますゆえ、お気になさらず。それに…妾も楽しいのでの。」
笑顔でそう言ってくれるマリアーナに、フィリスは感謝しかなかった。そして時間が過ぎて夕刻、四龍達が帰ってきた。直ぐにフィリス達はレイジの元へと向かった。
「…ということで、桃の集落は原因の追及を独自で行ったそうですが、容疑者はいないそうです。」
「同じく梅の集落も白です、お父さん。」
どちらの集落もミカヅチ王国の危機を聞いて集落内で調べたらしいが、怪しい者は1人もいなかったそうである。
「となると…残るは桜の集落か。」
「アサギ様…大丈夫でしょうか?」
「お姉ちゃん…」
「…」
フィリスが腕を組んで、考え事をしている。
「どうされました、フィリス様?」
エンレンがフィリスに尋ねる。
「…いや、アサギさんの気配はこの国にもう来ているんだけど…」
「…へ?」
カスミがすっとんきょうな声をあげる。
「ただ…真っ直ぐこちらに向かっていないようです。」
「…そうか、気配察知。…フィリス様のは今や半径5キロ…」
「なる程。私達にも気配は解るけど、2キロ位だもんね。」
「しかし、気になりますわ。フィリス様、今アサギさんはどちらに?」
「食糧庫の辺り…」
そうフィリスが話した途端に、食糧庫の方から爆音がした。皆がその方向を見ると、炎があがっている。
「レイジさん、私達が行きます。マリアーナ、レイジさん達を頼む!」
「心得たのじゃ!」
「先生!」
「うん、急ごう!」
フィリス、四龍、マティーナの6人で現場へ向かう。ミロとハクアは疲れて眠っていたので、マリアーナが観てくれている。食糧庫に着くと、そこにはアサギが炎に燃える食糧庫を眺めていた。
「アサギ…さん…?」
フィリスが声をかけると、アサギはフィリス達の方を向く。その目は…普段のアサギの眼ではなく、虚ろな眼をしていた。
「…殺す!」
そう言って、アサギは両腰に着けた小太刀をそれぞれ逆手に抜き、フィリスに向かって接近する。フィリスは直ぐに漆黒の籠手と軽鎧を装着し、その刃を受け止める。
「フィリス様!?」
「皆は食糧庫の消火を!」
「…解りました!」
水魔法を使えるスイレンとマティーナが率先して消火にあたる。エンレン、ライファは人がいないか確かめ、誘導を行う。ランファは煙を風魔法で排除していく。その間にもアサギは2撃、3撃と繰り出してくる。その攻撃の速いこと、もしフィリスがダマスクス性の籠手を使っていなかったら3回は死んでいる程の重く速い攻撃をアサギはフィリスに見舞う。と、痺れを切らしたアサギは距離をとり、小太刀を鞘に戻す。そして背中に背負っている大太刀を鞘ごと抜き、居合い抜きの構えをとる。フィリスはオリハルコンの短剣を懐から出し、左手に逆手に構え、右手にはコルトパイソンを召喚する。
「…死ね!」
アサギはそう言うと一気に前進、居合い抜きをフィリスの右腰へと放つ。しかし、フィリスはコルトパイソンで首を、オリハルコンの短剣で右腰を守る構えをとっていた。高速の一撃がオリハルコンの短剣にあたるが、流石は世界最強の金属、アサギの大太刀をあたった部分から真っ二つにしてしまった。次の瞬間、フィリスはコルトパイソンを仕舞うとアサギの首筋に手刀を叩き込み、沈黙させた。気絶したアサギを抱き抱え、フィリスが安堵すると、丁度消火、救助を行っていた四龍とマティーナも合流する。
「フィリス様、ご無事ですか?」
「…アサギさんは?」
「…気絶させただけだけど…どうしたんだろうか?」
「フィリス様、取り敢えずは…」
「レイジ様達の元へと向かいましょう。」
「早くアサギ君の容態を診ないといけないからね!」
そうしてアサギを連れて王宮へと向かった。
読んで下さっている方々、有り難う御座います。




