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きらきらした腕  作者:
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7.魔物がすむお城

 さて、にげだした人々のひとりが王さまのお城にかけこみました。

 大工の領主さまがたてたお城には魔物がすんでいる、とうったえました。

 きっと、領主さまも魔物が石にかえてしまったにちがいありません、といいました。

 どうぞあの魔物を倒してください、と王さまにおねがいしたのです。


 はなしをきいた王さまは、その魔物を手に入れたいと思いました。

 彼がいれば、王国はいつまでもお金に困ることはありません。

 つかまえてもつかまえてもへらない罪人はかたっぱしから宝石にかえてしまえばいいし、攻めてくる他の国の兵士も宝石にしてしまえばいいのです。


 王さまは十人いる王子さまの一番目に、とらえてくるように命じました。

 すぐに出かけた王子さまはそのまま帰ってきませんでした。

 二番目も三番目も同じように行かせましたが、みな帰ってきません。

 これは困った、と王さまは思いました。

 このままつづければ世つぎがいなくなってしまいます。しかし、王さまはあきらめきれませんでした。

 のこった王子さまたちに命じました。


「この中でひとりだけ、次に行くものをきめよ。みごととらえてくればそのものを次の王とする。もし帰ってこなければ、魔物はこれっきりあきらめよう」


 王子さまたちはみな行きたがりませんでした。

 王国の王さまになれることは魅力的でしたが、命がなくなってしまえば元も子もありません。

 だまりこむ王子さまたちの中で、一番下の小さな王子さまが手をあげました。


「ならば、わたしが行きましょう」

「そなたが?」

「はい。みごと、とらえてごらんにいれます」


 王さまはうなずき、十番目の王子さまが魔物のお城へ行くことになりました。





 十番目の王子さまは地味で目立たない王子さまでした。

 ひかえめで、上の兄たちにかくれてしまい、父親の王さまにさえ、ときどき忘れられてしまいます。しかし、このときばかりは立派な装束と装備、騎士百人をあたえられ、意気揚々と出発しました。


 魔物のお城はすぐにわかりました。

 遠目からでもひかりかがやいているのが見えたからです。

 王さまのすむお城よりもずっと豪華でうつくしいお城でした。

 こんなところに魔物がすんでいるのだろうか、と王子さまは不思議に思いました。


 門から入ると、お城の入り口はすぐに見つかりました。

 みごとな無数の宝石がはめ込まれた、大きなとびらでした。

 重いとびらを騎士十人が開きます。とつぜんおそわれることをおそれて、王子さまと騎士たちは身がまえていましたが、拍子ぬけするほど人の気配がありません。

 あたりはただひんやりとしてまばゆく、しんと耳が痛いほどの静寂がそこにありました。


 王子さまは話にきいていた、魔物がいるという奥の部屋を目指しました。

 毛足の長い絨毯は細かな針のような結晶となっており、歩くたびにまるで霜を踏んだようにシャナリシャナリと音を立てます。

 ただようほこりさえも細かな金や銀の砂になって、きらきらと空を舞っていました。


 なんてうつくしいお城だろう、と王子さまは思いました。

 お城の奥へ向かえば向かうほど、たくさんの宝石の像があらわれました。

 しかし、だれひとり、生きている人の気配はしません。

 そうして、王子さまはお城の一番奥にたどりつきました。

 


 金色にひかる壁の前に少年がすわりこんでいました。


「おまえが魔物か?」


 百人の騎士に守られた王子さまは、おそるおそるたずねました。

 

「君が魔物だというのなら、ぼくは魔物なのだろう」


 ぼそり、と少年が答えました。

 うつろな表情で、王子さまを見返すくらい目にはなにもうつっていないように見えました。王子さまは不思議な気もちになりました。人とはちがったすがたのおそろしい魔物を想像していましたが、そのすがたは自分と変わらないごく平凡な、普通の人間に見えます。

 ひとつだけ、その腕がきらきらとひかりかがやいていることをのぞけば。


「王さまがすむお城に、一緒にきてくれないか?」


 少しもこわいところがない少年だったので、王子さまも普通にたのんでみました。

 少年はぼんやりと王子さまを見上げました。


「かまわないよ。……どこへだって」


 王子さまを守る騎士たちは少年に縄をかけようとしました。

 しかし、近づいた者はみな、宝石にかえられてしまいました。

 よくよく見ると、少年のまわりにはたくさんの宝石にかえられた人々のすがたがありました。ただの彫像ではなく、その顔は兄の王子さまやお城から派遣された騎士たちだったのです。

 王子さまは、やはりあの腕は普通のものではない、と気づきました。


「縄をかける必要はない。彼は自分でついてこられる。……そうだね?」

「そうだね。なぜ、縄をかけようとするのかわからない。宝石になりたいの?」

「いいや。宝石になりたい人なんか、ひとりもいない」

「なら、ぼくに近づかないことだね」

「そうしよう。――おまえに名前はあるのか?」

「さあ。『石の腕』というようだけど、だれにもよばれたことはない」

「変わった名前だね。でも、そのままだ。わかりやすい。わたしもそうよぼう」


 王子さまは石の腕をつれてお城に帰りました。

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