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きらきらした腕  作者:
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5.おそろしいできごと

 石の腕が十五歳になった年です。

 大工の領主さまがふいにいなくなってしまいました。

 お城の奥、領主さましか入れない私室にひっそりとおかれていた、宝石にかわってしまった妻の頭の部分だけが、もちさられていました。

 体の部分はくだけ、無数の宝石にわかれ、無残にも横倒しになっていました。

 領主さまの荷物は手つかずで、息子の石の腕もお城の奥におきざりにされたままです。


 領主さまにかしずいていた人々は、数日たっても領主さまがもどらないと知ると、あんなにほめそやしていたのに、手のひらを返したように態度をかえました。そして、お城中の金銀財宝、ありとあらゆる宝石という宝石をわれ先にとつかみ、うばいあいました。


「領主さまがいないのなら、この城に用はない」

「そうだ。あんなへんくつでおそろしい人、だれがつかえたいものか」

「金ばらいがいいからそばにいたが、給金がもらえないのでは、とどまる意味がない」

「いただくものをいただいて、さっさとでていこう」


 お城中の部屋という部屋を人々は開けて財宝をさがしました。

 たくさんの財宝が人々の心をまどわせたのです。

 そして、とうとう、石の腕がいるお城の奥の奥の部屋にもたどりつきました。


 ずいぶん前からお城の中がさわがしくなっていたことに、乳母と瑠璃の母子は気づいていました。しかし、どうすることもできません。すっかり財宝に目がくもってしまった人々を止めることはできませんでした。

 石の腕のそばで、ただ息をひそめるしかありませんでした。

 ふたりの様子を石の腕は不思議に思いました。


「どうしてそんなにおびえているの?」

「これから、おそろしい人々がここへくるからです」


 乳母はそう答えましたが、石の腕は意味がわかりませんでした。

 おそろしい人々とはなんだろう、と思います。

 石の腕にとって、見たことがある人は乳母と瑠璃しかいなかったからです。


 ドン、ドン、とかぎのかけられたとびらに、なにかがぶつかるような音がします。

 乳母と瑠璃はふるえて手をとりあっていました。


「なんの音?」

「無理やりにとびらを開けようとする音です」

「なぜ、無理に開けようとするの?」


 乳母はそれには答えませんでした。

 開いたらさいご、きっとおそろしいことがまっています。

 ふるえて、答えることができませんでした。


 ドン、ドン、……バン!


 とうとうとびらがやぶられました。

 人々がどっと部屋に入ってきます。


「宝石はどこだ?」

「金銀財宝はどこだ?」


 口々にさけぶ人たちは、部屋の奥の隅の方にかたまって座る三人に気づきました。


「おまえたちはだれだ?」

「財宝をどこへやった?」


 乳母はふるえながら首をふりました。


「ここには財宝はありません。ただ、わたしの娘と息子がいるだけです。どうかほかの部屋をさがしてください」


 石の腕の存在を、お城の人たちは知りませんでした。乳母は領主さまの息子だと知られると石の腕がひどい目にあうのではないかとおそれ、自分の息子だとうそをつきました。実際のところ、乳母にとって石の腕は自分の息子同然でした。どうにかして守りたい、と思いました。この腕を、知られてはならない、と。

 人々は石の腕を見ると、はっとしたように動きを止めました。


「まさか、それは領主さまの息子か?」

「いいえ。わたしの息子です」

「うそをつくな! そっくりじゃないか!」


 人々は石の腕をおそれました。そして同時に、領主さまよりずっと若く弱そうな石の腕をあなどりました。

 もしこのまま領主さまの息子を逃がせば、自分たちの所行がばれてしまいます。せっかく手に入れた金銀財宝もとり上げられてしまうかもしれません。


「……そいつをこちらにわたせ」

「いやです!」


 強く首をふった乳母をつきとばすようにして人々は石の腕につかみかかりました。石の腕はなにが起こったのか、わけがわからず、人々に腕をひっぱられておそろしくなりました。


「やめて! 痛い!」


 人々はやめませんでした。

 石の腕は引き倒され、こづかれました。

 ぴっちりとはめていた手袋もひっぱられ、ぬげてしまいます。

 そのとき、だれかの指が石の腕の包帯の結び目にひっかかりました。

 はらり、と結び目がほどけます。

 そこからまばゆい光がこぼれました。


「……宝石だ!」

「宝石の腕だ!」

「この腕もとりあげろ!」


 あっという間に人々は石の腕のきらきらした腕にむらがりました。


「あっ! ふれてはなりません! ふれれば……!」


 乳母の制止もききとどけられませんでした。

 石の腕にふれた人々がどんどんきらめく宝石にすがたをかえていきます。


「なんだ、これは?」


 足の先からかたまってきらめく石になっていく自分を、人々は不思議そうにながめているうちに、不思議な表情のままかたまって宝石になってしまいました。


 さて、石の腕はとつぜんたくさんの人にかこまれ、ひどいことをされたので、動転しておりました。おそろしさのあまり、腕をふり回しました。

 その腕に幾人もがふれては石になりました。

 周囲の状況に石の腕はぼうぜんとなります。

 数え切れない小石を宝石にかえてきましたが、動いているいきものを宝石にかえてしまったことはありませんでした。


 それはとてもおそろしいことでした。

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